キラーとの戦闘後

 白百合騎士団団長室。

 そこで白崎鐘子は執務机で書類仕事をしていた。

 何枚も何十枚、何百枚の書類にサインをする。

 そんな時、団長室の扉が勢いよく開いた。


「た、大変です団長!」

「どうした……いったい」


 団長室に入ってきたのは白百合騎士団所属の若い女性騎士だった。

 彼女はとても慌てており、ゼーゼーと息を切らしている。

 急いで走ってきたようだ。


「じ…実は……ゲホゲホ!オエエェ!」

「おい、大丈夫か?これでも飲め」


 鐘子は水が入ったペットボトルを女性騎士に渡す。

 女性騎士は一気に水を飲み干し、プハァーと息を吐く。


「すみません、団長」

「いいから……それよりなんだ?」

「ハッ!そうでした!実は近くの街でキラーが出現しました!」

「なに!?被害は?」

「五十人以上の一般人が犠牲になったと」

「すぐに避難を!」

「いや…それが」

「なんだ!」

「キラーは……討伐されました」

「……は?」


 目の前にいる女性騎士が言っていることが……鐘子には理解できなかった。


「……すまん。よく聞こえなかった」

「ですから……キラーが討伐されました」

「……冗談か」

「冗談ではありません」

「……そうか」


 鐘子は頭痛を覚え、頭に手を当てる。

 討伐不可能と言われる最悪のジャイアント―――キラーが討伐された。

 それを聞いた鐘子は信じられなかった。


「いったい誰が……」

「そ、それが……甘口天音というウチの騎士みたいで」

「甘口天音?そいつは確か炎を放つ程度のアビリティでキラーを倒すほどの威力はないはずだ」

「どうやら嵐翼のアビリティのおかげでキラーに勝てたそうです」

「なるほど……そういうことかい」


 女性の騎士の話を聞いて鐘子は納得した。


 嵐翼のアビリティは他人のアビリティと戦闘能力を超強化するというもの。

 彼の力を使えば確かにキラーを倒すことも可能だ。

 しかしそれでも驚きは隠せなかった。

 まさかキラーを倒すことができるぐらい強化することができるとは……鐘子は思わなかった。


「今すぐ二人を連れてきな」


<><><><>


 キラーを倒した天音と翼は騎士達に団長である鐘子のところまで連れてこられた。


「随分とんでもないことをしてくれたね。二人とも」


 鐘子の声には威圧感が宿っている。

 翼と天音は下を向いたまま、汗を流すことしかできなかった。


「甘口さん。なんか団長、怒ってません?」

「そう……みたいだね」

「キラーって倒しちゃダメだったんですか?」

「いや別にそんなこと」


 小声で話す翼と天音。

 そんな二人に鐘子は告げる。


「聞こえているよ。それと別に怒っちゃいない。とても驚いているんだよこっちは」

「そう……なんですか?」

「ああ。討伐不可能とされているキラーをあんた達は倒した。これはとんでもない偉業であり、人類の大きな一歩だ。とくに翼。アンタの話でもちきりだよ」

「え?俺ですか?倒したのは甘口さんですよね?」


 鐘子はため息を吐き、「アホ」と言って本で翼の頭を軽く叩く。


「確かに倒したのは天音だ。だが倒すことができたのはアンタのアビリティのおかげだ」

「まぁ……確かに」

「もうあちこちの騎士団が翼を寄越せってうるさいんだよ」

「そ、そんなにですか?」

「アンタのアビリティはそれぐらい強力なんだ。とにかく……今日はゆっくり休んで、明日事情を詳しく聞かせてもらうよ。あと翼」

「はい」

「絶対に他の騎士団からスカウトされても無視しろ。いいね?」


 顔を近づけて、威圧してくる鐘子。

 翼は何度も首を縦に振った。


<><><><>


 団長から解放された後、翼と天音は廊下を歩いていた。


「今日は疲れたね~」

「そうですね。本当に疲れましたよ」

「……翼くん」

「はい?」


 名前を呼ばれた翼は立ち止まり、振り返る。

 天音は少し頬を赤くしながら、もじもじと身体を動かしていた。


「今日はありがとね。翼くんの力のおかげで助かった」

「そんな……甘口さんのおかげですよ」

「……天音」

「え?」

「天音でいいよ。私も翼くんって呼ぶから」


 そう言って天音は走って去っていった。


「天音さん……顔が赤かったな。風邪かな?」

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