炎の二丁拳銃使い

 翼の手を引っ張って甘口天音は逃げていた。


「ちょ、甘口さん!なんで逃げるんですか!!」

「振り向いちゃダメ!とりあえずあの化け物から逃げるの!」

「どうして!騎士なら人々を助けないと!」

「無理だよ!アレは戦っちゃダメなの!!」


 必死な表情を浮かべている天音。

 彼女の声に余裕がない。


「アレを知っているんですか?」

「……アレは最悪のジャイアント。名前はキラー。見た目は人間の女の子だけど、普通のジャイアントよりも知能と戦闘能力が高くて、人を殺すことに特化した化物」

「そんなにやばいんですか?」

「……昔、青薔薇騎士団っていう世界最強の騎士団があったの。だけどその騎士団は一体のキラーによってなくなったの。生き残ったのは青薔薇騎士団の団長のみ」

「そんな!」

「キラーは倒すことが不可能とされているの。だからまずは逃げ―――」


 甘口が喋っている時。

 少女の姿をしたジャイアントーーーキラーが、天音と翼の前に現れた。

 そのキラーの左手には幾つもの人間の頭がぶら下がっている。


「オマエ……タチハ……騎士……カ?」

「ジャイアントが喋った!?」


 まさかジャイアントが喋るとは思わなかった翼は、驚愕する。


「嵐くん!逃げて!」

「でも!」

「いいから早く!時間を稼ぐ!」


 天音は手の平を人型ジャイアントに向ける。


「アビリティ発動!」


 直後、天音の左目が消滅し、掌から炎が放たれた。

 炎はキラーの身体を呑み込んだ。


「ちょ、甘口さん!片目が消えてますよ!?」

「アビリティを使う時、一時的に肉体の一部か感情がなくなる時があるの。それより早く、逃げ―!」


 甘口が『逃げて』と言おうとした時、炎の中からキラーの手が伸びた。

 その手は恐ろしい速度で天音の胸を貫こうとした。

 天音が死ぬとすぐに理解した少年は、


「アビリティ発動!」


 赤き金属の翼を生やし、その翼でキラーの手を弾く。

 そして天音の身体を抱え、距離を取る。


「クソ……こいつヤバイな」


 キラーの手を弾いて翼は顔を歪めた。そして理解した。

 目の前にいるキラーは化物の中の化物だと。


(俺の翼で傷一つつかないなんて……どんだけ硬いんだよ)


 彼の赤い翼は岩や鉄などを豆腐のように斬ることができる。

 だというのにキラーの手は傷一つ付いていない。


(しかもあのキラー……俺らを逃がすつもりはないみたいだな)


 炎の中から現れるキラーは、瞳を怪しく輝かせていた。


(逃げることもできない。俺や甘口さんでは戦っても勝てない。……となると残された手段は)


 翼は抱えている天音に視線を向ける。


「甘口さん」

「な、なに?」

「目の前にいるキラーを倒しましょう」

「!無理だよ!あれは倒せる相手じゃ」

「奴を倒す力は俺が甘口さんに与えます」

「!?」

「あとは甘口さんの覚悟だけです」

「でも……」

「お願いします。俺達が生き残るにはこれしかないんです」

「……」


 天音は黙り込む。

 彼女は不安だった。本当に自分がキラーと戦えるのか、倒せるのかと。

 そんな天音に、


「大丈夫です……あなたならできます」


 翼は勇気を与える。


「……分かった。やってみる!」


 覚悟を決めた天音。

 そんな彼女に翼は力を与える。


「アビリティブースト!」


 彼の赤き翼が粒子へと変わり、その粒子は天音の胸に吸い込まれた。

 すると消滅した左目から炎の瞳が宿り、炎のロングコートを纏う。

 そして翼の身体が光り出すと、二丁の拳銃へと変わる。


「これって……」


 炎の左目。炎のロングコート。そして赤い二丁の拳銃を装備した天音は自分の姿に驚く。

 そして最も驚いたのは、力が湧き上がってくることだった。


『甘口さん。これで戦えるはずです』


 二丁の拳銃から翼の声が聞こえる。


「嵐くん」

『さぁ、キラーを倒して生き残りましょう』

「うん!」


 甘口天音は二丁の拳銃を構える。


「絶対に……生き残る!」

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