甘口さんと買い出し
白百合騎士団本部の会議室。
そこで団長の白崎鐘子と各小隊の隊長が集まっていた。
「全員……集まったな」
「「「はい」」」
「皆に集まってもらったのは他でもない。嵐翼のことだ」
鐘子の言葉を聞いて、一人の小隊長が尋ねる。
「そこまで彼は重要なのですか?」
「ルル。説明しろ」
「はい」
鐘子に言われ、第四小隊隊長ルルが告げる。嵐翼のことを。
「今日、騎士見習い嵐翼の実力を知るために訓練所でバーチャルジャイアントと戦わせました」
「結果は?」
「最大三体のジャイアントと同時に戦うことができました。個人としての実力は普通の騎士より多少高いぐらいでしょう。ですが」
「なんだ?」
「私の力を強化し、戦った時は百体のジャイアントを一方的に倒しました」
ルルの言葉を聞いて、誰もが驚いた。
ベテランの騎士でもジャイアントを倒すことができるのは最大十体。
だというのに百体のジャイアントを、それも一方的に倒すなどありえない。
「ルル。強化された時の感じは?」
「すごい……ということしか言えませんでした。力が湧き上がってジャイアントを一発で倒せるぐらい強くなりました」
「そうか……ルル」
「はい」
「嵐翼を急いで騎士に育てろ」
「了解しました」
<><><><>
騎士団に来てから一ヶ月。
嵐翼は騎士団の生活に慣れてきた。
午前は騎士としての勉強をし、午後は戦闘訓練をしていた。
戦闘訓練は問題なくこなしていた翼。
彼は母に鍛えられたおかげで、大変ではなかった。
だが午前の勉強は苦戦していた。
覚えることが多く、苦労することばかり。
そんなある日、
「ラーメンパーティー……ですか?」
休日の時、甘口天音が「ラーメンパーティーをしよう!」と言い出したのだ。
「うん!ウチでは月に一回、色んなラーメンを作って食べるの!だから嵐くん。一緒にラーメンの材料を買うの手伝って」
「分かりました」
翼と天音は白百合騎士団本部から出て、電車に乗り、遠くのスーパーマーケットにやってきた。
「ずいぶん遠くまで足を運ぶんですね」
「ここのスーパー。色々な食材や珍しい調味料があるの」
「そうなんですか」
「じゃあ、買いに行こ~!」
それから二人は美味しそうな食材や珍しい食材を買い込んだ。
「いや~男の子がいてくれて助かったよ~」
食材がたくさん入った袋を持って歩きながら、そんなことを言う天音。
彼女の笑顔はとても明るく、まるで太陽のよう。
「それにしても甘口さんってラーメン作れるんですね」
「実家がラーメン屋だったからね」
「そうなんですか。……あの甘口さん」
「なに?」
「どうして……騎士になったんです?実家を継ぐとかしなかったんですか?」
「ん~。実はね、騎士になったのは何かカッコいいからって思ったからなんだ」
「カッコイイ?」
意外な理由だった。
誰かのためにとか、正義のためにだとか予想していたため、翼は驚いた。
「やりたいこともなかったし、とりあえず騎士になったんだ」
「へ~そうなんですか」
「けど……才能がなかった。私のアビリティは炎を放つやつなんだけど……火力が弱くて、ジャイアントを倒すほど強くなかったの」
「……」
「今では雑用ばかり。まぁ仕方ないけどね」
苦笑いを浮かべる天音。
そんな彼女に翼はなんて言えばいいか分からなかった。
その時、
「キャアアアアアアアアアアア!!」
悲鳴が聞こえた。
慌てて視線を向けると、そこには赤い血で染まった石像が立っていた。
その石像は人間の少女の姿をしている。
身長も170㎝ぐらいしかない。
「ジャイアント!?でもなんか小さい」
「あれは……」
「甘口さん?」
「逃げるよ!嵐くん!」
天音は翼の手を握り、その場から離れた。
まるで小さな人型ジャイアントから逃げるように。
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