【エピローグ】恋愛祈願のキツネ様

 朝洗面台に立つ度に目に入る、おでこに浮かんだの家紋のような印。若干気になって仕方がないが、触っても何かある訳でもなく、基本周りからは見えていないようで、誰にも何も言われない。だから弊害は無いが、鏡を見るたびに意識してしまう。

(ほんと、神様のする事はよく分からない)

 あれから、四人が更に引っ付いてくるようになった。特に伊織は、学校であれば付いてこないのはトイレくらいだ。本当に、いつ護衛なんて雇ったっけと思ってしまう程。流石に休みの日にする事まで干渉はしてこないが、遊びに行くと「偶然だ」と言ってそこにいる事が多い。が、絶対偶然ではない。

 そのように、彼曰く偶然にバッタリと出会ったショッピングモール内。何も言ってないのに奢ってくれたクレープを食べながら、千郷は言う。

「あんた、私はいいけど、ストーカーにはなるんじゃないわよ」

 千郷はそれを嫌だと思っていないが、彼のやる事は割とグレーだ。出先を知っているのは神様のよく分からない何かしらの力で、彼自身は過保護になっているだけだろうが。

 そんな事を言われ、伊織は心外そうに顔を顰める。

「お前以外にする訳ねぇだろ、俺を何だと思ってんだ」

 自然と言われたその一言に、千郷はクレープを食べる手を止め、ぽかんとしてしまう。そして少し間を開けて、若干赤くなる。そんあ彼女を見て、釣られて羞恥心を持ってしまうのが伊織だ。

「ちょい待て今のどこに照れる要素があったんだよ!? やめろその反応っ!」

「もうっ、いいから一回あっち行きなさいっ!」

 詰め寄る伊織の肩を勢いよく叩き、千郷はフイっと赤くなった顔を逸らす。

 傍から見れば、初々しい小学生カップルだっただろう。歩いていたおばさんは「あらまぁまぁ」と口に手を当てニコニコとしていたが、二人は気付いていない。

 それに、彼等が気づいていないのは、他にもある。

「ははっ、つくづく若いのぉ。汝等、祈祷してやればよい。伊織の恋愛成就をの」

「するまでもねぇだろぉありゃ! どう見たって、なぁ?」

「あぁ。あれは既に、『赤い糸』だ」

 物陰で、念の為小学生の姿をした三人がそんな事を言い合っていた。


 縁は、あの時繋がった訳ではない。元より、前世から繋がっていた神との縁。所謂、「神縁」だ。では何故、それが赤い糸として伊織との指の間に結ばれたのか……そりゃそうだ。伊織は縁の神、本人が意識せずとも本能が「好きだ」と思えたら、繋がった縁は途端に赤い糸となる。


 そう、彼は縁の神。もっと言えば、「恋愛祈願のキツネ様」なのだから。


【恋愛祈願のキツネ様】


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恋愛祈願のキツネ様 物語創作者□紅創花優雷 @kuresouka

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