第5話 入学初日 ⑤ やってしまいました。


 急遽行われることになったヨーケイ先生の特別授業。


 訓練場の中央に移動した僕たちは、実際に魔法を放つ前に先生の説明を受けていた。



 「―――とまぁ、この世界には色々な魅力溢れる魔法があるわけだが…君たちはそれを、これから4年間かけて学んでいく事になる。」



 4年間か、さっき言ってたな。


 ダラス学園は4年制であることはホームルームで説明があった。



 「軽く説明も終えたことですし、始めるとしましょうか。」



 それを聞いた生徒たちが再びざわつき始める。


 「はいはい。みなさん落ち着いて。これから私がみなさんにお手本を見せるからよく見ておくように。」



 先生はそう言って、僕たちから見て右の方へ10メートル程離れたところに行き、少し声を張って話し始める。


 僕たちは中途半端な回れ右をして先生の方に体を向ける。



 「これからみなさんに見せるのは至って簡単なものです。これは、みなさんのような魔法初学者でもすぐに使えるように私が改良した、魔力をのせた突風を吹かせる魔法。 《ヴィントシュトース》という魔法です。ちょっと大袈裟な名前をつけてしまいましたかねぇ。」


 

 そう言って、少し恥ずかしそうに自分の髭を撫でながらははは、と笑うヨーケイ先生。


 意外とお茶目な人なのかな?僕はそう思った。


 最初に出てきたときはどこかミステリアスな雰囲気を纏っていたが、いざ話し始めたらどこにでもいるやさしそうなおじいさん、って感じだ。



 でも、こういう人に限って滅茶苦茶強かったりするんだよね。


 なにしろ、ダラス魔剣士学園には王都でもトップレベルの魔法使いや剣士が教師を担当している。


 とても有難い話だ。



 「まずは私がやるのを見ていてください。前方に人型のがありますね。あれが敵だと思ってやってみましょう。」



 そう言ったヨーケイ先生の視線の先には、いつの間にか土で作られたちょうど人の大きさをした人形が三体あり、あんなものあったっけ?と周りの生徒は不思議そうに見つめている。


 さっきの僕らからすると、右後方にあたる位置なので、視界に入らずみんなは気づかなかったのだろう。


 でも、僕は少し後ろを向いて横目で見ていた。


 先生は僕たちに説明をする傍ら、あっという間に魔法で土人形を作っていたのだ。


 目線はずっと僕らに向けていたし、詠唱していたわけでもないから誰も気がつかなかったのだ。


 たぶん僕たちを驚かそうとしてやったわけではなく、ただあまりにも自然に魔法を発動していたので誰も気づく余地がなかっただと思う。



 僕はこの能力の事もあって魔力に敏感だから気付いたけど。


 


 「それでは。ヴィントシュトース!」



 先生が右手を前に出しそう唱えた途端、荒々しい魔力をのせた突風が吹き荒れ土人形が吹き飛ばされた。


 

 ん?吹き飛ばされた?僕には木っ端微塵になったように見えるけど?



 風が吹き止み、周りの反応を伺うと、みんなの目が見事に点になっていた。



 というか余波で飛ばされそうになってた生徒もいたし。



 「…いやぁ、ちょっとやりすぎt……おほん!、まぁ、簡単な魔法でも私のように極めれば今のような強力なものにもなることを、みなさんにお伝えしたかったのですよ。」



 ヨーケイ先生は決まりが悪そうに、あはは、と言いながら髭を撫でる。



 …いや、誤魔化せてないですよ!!?明らかにやりすぎてましたよねぇ?!ていうか、やりすぎたって言いかけてたし!!



 僕は心の中で叫んだ。



 そんな僕を他所にヨーケイ先生は話を進める。



 「あー、それではみなさん一列になって広がりましょう。私が魔法を放った方向にみなさんも。」


 

 「あ、はい…」


 生徒たちがそれぞれ気の抜けた返事をして、ポカンとした表情をしながら広がっていく。



 あんなの見せられたらそりゃそうなるよ…



 そんなことを思いながら、僕も周りの流れに合わせて動き始める。


 「そうですね、コツは魔力を手に集中させて―――」



 僕たちが等間隔で広がったところで、ヨーケイ先生がやり方を教え始めるが、全然頭に入ってこない。


 僕は全然それどころじゃなかった。


 僕はさっき先生の物凄い威力のヴィントシュトースを見てしまった。


 そう、のだ。


 これは非常にまずい。


 簡単な魔法なら魔力を抑えてやれば、子供の頃、家を吹き飛ばしたみたいにとんでもない威力で放たれることはない、そう思っていたが……



 なに余計なことしてんだよぉ!!



 僕は頭の中で、地面をバシバシと叩きながら叫ぶ。


 簡単にいうと、力加減の出来ない人が基礎も学ばず、いきなりLv100の魔法を使えるようになったようなもの。


 いや、僕だってちゃんとLv1から順にやっていけばうまく扱えるようになるよ?


 この魔法だってすぐに威力を調節出来るようになるはず。


 だけど…


 今、僕の脳みそには、



 ヴィントシュトース=先生の放ったとんでもない魔法



 そう刻まれてしまったのだ。


 クラスのみんなを木っ端微塵にするのはどうやっても避けなければいけない。


 僕は思考を巡らせる。



 どうする?


 …ここは魔法が苦手な一般生徒を演じて魔法は打たない…



 いや、だめだ。



 やってみてうまく出来ないのか、そもそもやろうとしてないのか、それくらい見ればバレてしまう。



 じゃあ、似たような魔法でなんとか凌げるか?…、それもだめだ。


 ヨーケイ先生はかなり腕の立つ魔法使いだ。それも見破られてしまう可能性が高い。



 それにそもそも、これは簡単な魔法であり、この学園に入学した生徒がまったく出来ないなんて事はないはずだ。


 魔法が苦手な落ちこぼれのレッテルを張られるのも僕としては避けたい。



 他の生徒の通常威力の魔法を目に焼き付けてからやってみる、とか?



 うーん、たぶん意味がないな。


 魔法はイメージが重要な世界。


 今一番印象に残っているのは、やはり先生の放ったもの。


 となると…



 「これしかないかぁ、」


 僕はボソッと呟く。


 先生が他の生徒を指導しに、僕から一番離れたとこに行ったのを確認してから準備をする。


 そう、僕がたどり着いた結論は作戦とも呼べないような苦肉の策。



 頑張って魔力を最大限弱めて放つ!!


 今僕に出来るのはそれくらいだ。


 出来るだけショボいヴィントシュトースを頭の中でもイメージしながら、魔力操作に最大限意識を集中させる。



 コップから一滴だけ水を垂らすように慎重に慎重に…



 そして――――



 「ヴィントシュトーs…っ!!」



 僕がそう小声で唱え終える瞬間、何者かに背中をバシッと叩かれ、魔力操作に集中し切っていた僕はそれに驚き――――




 コップの水が一気に溢れ出るように、僕の魔力が爆発した。


 



 

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駄女神が桁数間違えて、獲得経験値100倍のチート人間が生まれました。 カズのこ。 @kazu-taro

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