第5話 鍛錬

ドゴォッッ


地面が揺れるほどの衝撃が街に響き渡る。今、ララとキールが戦っていた。実力は互角。それでもララが優勢だった。何故か。それはキールには威力の高い攻撃がなかったからである。いや、威力が高い攻撃はある。だがそれらは決して決定打ではなかった。

そのことを知る俺はキールを哀れんだ。南無三キール…。君のサンドバッグ運命は変わらないようだ…。かわいそうだなぁ。そこで気づいたけど。民衆が結構集まってた。こんな実力者達の戦いないもんな。流石にキールがかわいそう…。うーん。いや、ここは一周まわって可哀想じゃなくなってきてんじゃないか?(?)


「よし、実況やるか(?)」


うし、マイク用意してっと。


『さあさあご来場の皆様こんにちは!私はこの試合の実況と解説を担当します、グレイと申しまーす!この試合面白かったらお金置いてってねー!』


キールが驚いた顔でこっちを見てくる。そしてキールの驚いた顔に拳が入る。ハハっ、おもしろっ。(クズ)


〜〜

何してくれてんのおぉおおぉ!!グレイいいいぃぃ!って叫びそうなのを必死に抑えた。

マジで俺を公開処刑させる気か?いや、多分旅に向けての路銀が足りないからここで稼ぐつもりなんだろうけどさぁ!だからといっておれが路銀のために犠牲になれと!?


「グレイいぃぃぃ!許さねぇぞおおおおお!」

『ハハっサンドバッグがなんか言ってますねぇ(笑)』

「このやろおおおおおおお!」

「よそ見すんなぁ!!!」

「ララはちょっと落ち着け!」


つらいってええぇ!


そう思いながらララを観察する。

コイツマジで強すぎる!決めてになるものがないからコイツの体力の終わりを待つしかないって思ってたのにララの体力無尽蔵すぎんだろ!


『キール選手なんかさっきからララ選手の攻撃を流してばっかです!ダサいです!それでも男かぁ!』

「うるせぇーー!!!」


マジで黙ってくれヨォ!事実だから辛いじゃぁん!


〜〜

ララからしたらキールは思ったより策士だった。何にも考えずに突っ込んでくると思っていたらキールは自身の相性の悪さに気がついて私の体力の終わりまでまた体勢に入ってる。そこにララは感心すると同時に…


(興醒めだなぁ…。)


最初に見た時の個人的な感想は「なりふり構わずに突っ込んでくる」だった。だが今、キールは思考し、真正面から勝ちにきている。『魅せ』にきていない。


(もうさっさと片付けちゃうか…。)


ララの拳に荒く大量の魔力がこめられる。

辺りが光につつまれーーー。


〜〜

なんか、腹立ってきた。いや、ムカつくやん。なんでデリカシーがないだけでサンドバッグなさらんの?(※悪いのはコイツです。)というかそもそもなんで俺は守りに回ってんの?攻めて切ればいいじゃん。そうだ、そうだよな。これは本当の戦いじゃなくて訓練だ。要は魅せあえばいいんだ。そうだよな。よし、そうしよ!


直後、視界が光に遮られてーーー。


〜〜

『今んとこララ選手優勢っすけどもうそろそろキールが逆転するかもですねー。』


グレイの解説に観客は首をかしげる。何故だろうと。


『今キールは脳を使った戦いをしているんですけどアイツそういう戦いを今まであんまりしてこなかったから我慢の限界で思考放棄しそうなんですよねー。本来の戦いならこれはダメなことなんですけど今この試合は真正面から戦うものになってるから下手に考えるよりもいいと思いますねー。あ、ここでララ選手ケリをつけるためか拳に魔力を乗せてくる!』


ドゴォッッ


あれ?キール生きてる?


〜〜

これで終わりかぁ。残念だなぁ。と、思った直後


「いったぁ!?いきなり高火力技出すなよ!」


と、声が響く。

これに、自然と口角が上がる。


(ああ、よかった。)


テンションが上がっていく。


訓練はまだ続けられる。


〜〜

キールの強みとは何か。戦闘センス?剣の実力?


否。


キールの本当の強みとは、「成長センス」だ。自らよりも強い相手に当たった時に発揮する『視る力』と『対応する力』、そして『我が物とする力』が凄まじい。要は見て、こうかな?って思ったやつをやって、それを自分の実力に取り込んでいく。正直、キールとの戦闘時は軽く恐怖を覚えた。ララは確かに化け物。だがキールもまた化け物である。ララは怪物。キールは化け物。キールはララと違って、文字通り


化ける・・・

〜〜

「ぁあああああああああっぶねぇ!もうちょい手加減しろヨォ!」

「でも生きてんじゃん。」

「辛うじてだろ!」


マジでコイツ容赦ねぇ!本当に動きをよく視ないと死ぬ!文字通り即死!


『おお!?キール選手、かろうじて生きている!(笑)』


「お前後でマジでおぼえてろよぉ!」


クソグレイがあああああああああっぶねぇ!

しかしよく視てるとわかるけどララの魔力って荒いな。魔力の量に対して質が釣り合ってない。過剰な量の魔力を使ってる。というかそれより気になるのは俺の剣筋ブレすぎだろ。というかなんか動きがゆっくりに見えるな。俺の動きもゆっくりだ。ララの動きも。次に何がくるかがよく分かる。でもそれじゃあなぁ…決め手には繋がんないよなぁ…。どーしよ。あ、そうだ。ララみたいに魔力を纏ってみるか。あと剣筋を直すためにもうちょい丁寧に刀をふるか。


「こーゆー感じかなっ!」


ガギィッ


辺りに音が響き渡る。

キールの剣とララの『硬化』された拳が混じり合った。初めて、キールが受け流さない攻撃の受け方をする。


「っ!おっっもっ。」


キールが化け始める。

〜〜

マジでキール化け物だな。

これが正直な感想だった。ただ自分と相性の悪い相手に当たった。それだけのことでそれを実力を伸ばして埋めた。いやどこの戦闘民族だよ。怖いんだが。多分キールは実力の差がありすぎる時はあんまり急激に成長するってことはないんだけど実力が近いとマジですぐに追い越すな。


『いやキール怖えよ。』


ララも大概だけどね。

〜〜

ララとキールは今、覚醒状態だった。否。覚醒状態というより極限集中状態だった。お互いにだ。だが勝敗を決するに値した差はキールがたった今運良く獲得したスキルだった。


そのスキルはーーー。


『思考加速覚えたんだ。キール。』


そのグレイの声はかき消さた。何故ならキールとララが本気の一撃を放ったからである。


「『衝撃インパクト』!」

「『一閃インパクト』!」


2つの衝撃が重なり合いーーー。


「はいそこまでー。」


グレイによって2人の攻撃は『止まった・・・・』。


「え?」

「は?」


この2人の思わず口から出た声は試合を止められたことに関するものではない。いやそれもあるが、「今何した?」

って言う疑問の方がでかい。


「もうそろそろ宿に帰ろー。」


と言ってグレイはさっさと歩いて行った。


残った2人は顔を見合わせてーーー


「「いやほんとに何したの?」」

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中間テスト前に気合いで書き上げた5話目。

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