三番目のドアから
@aarugurei
第1話
消火栓の赤い光が唯一の光源の中、静かで暗い廊下をただ一人で歩く。
ゴム製の上履きがだす音が、いやに大きく感じられる。
ライトぐらい持ってくれば良かったと後悔しながら、目的の場所に着いた。
目の前にあるのは、3階女子トイレ。
ドアを開けると、蝶番が「きい」と音を立てた。
スイッチを押し、灯りをつける。
数度点滅した後、備え付けられた蛍光灯が白に発光した。
いくら今が夜で誰も見てないとはいえ、男である自分が女子トイレに入るのは気が引けた。
だが、そんなことは言ってられない。
手前から三番目のトイレのドアの前に立つ。
一つ深呼吸をし、ドアを三回ノックした。
◇◇◇◇◇◇
「なあ、ユウタ。七不思議って知ってるか?」
「なんだよ、急に」
俺の前に座っているのは、親友である新橋しんばしカイトだ。
彼はイケメンで、女子から絶大な人気を誇っている。
中学生になってから、彼女を切らしたことがないそうだ。
そんなイケメンの話し相手をしている俺はフツメンだ。そう思いたい。
ずっと一緒にいるため比較され、時には女子からカイトの連絡先を教えてくれとせがまれることもあり、恋愛する暇もなく、むしろ嫌気がさしていた。
何が恋愛だ、バカバカしい。
⋯⋯先に言っておくが、これはモテないから僻んでいるわけではない。
「タツヤってさあ、怪談好きじゃん? そんでなんか『この学校には七不思議があるんだー』って言い回ってて、気になるなと思って。だからさ、オレと夜の学校探検しよーぜ!」
「言っておくけど、俺たち受験生だからな? しかも後三ヶ月だ。俺は判定良いけど、カイトはどうなんだよ」
「ま、そんなことは置いといて」
置いとくなよ。そんな思いを顔で表すも、カイトはどこ吹く風だ。
まあでも、もう遊べることはないだろう。
このまま受験勉強まっしぐらというのも、なんか違う気がする。
少し思案して一緒にいくことになった。
作戦決行日。
集合時間の午後八時より前に、学校に着いた。
カイトは先に来ていたらしく、校門の前で座って待っていた。
はたから見たら迷子の幽霊だ。
「お前、幽霊みたいだぞ」
「ははっ、じゃあオレが七不思議の一つなのかもな」
「バカいえ」
そんな軽口を叩き合いながら、夜の校庭へと侵入していく。
あらかじめ、鍵を開けておいた窓から入る。
「ユウタ、ライト持って来てるよな?」
「いや、持ってきてないけど」
「なんでだよ!」
「だって、カイトが持ってきてると思ったし、二人で行動するんだろ?」
「何言ってんだ。オレは踊り場の合わせ鏡。ユウタはトイレの花子さんって話し合ったろ」
「あ、確かに」
◇◇◇◇◇◇
消火栓の赤い光が唯一の光源の中、静かで暗い廊下をただ一人で歩く。
ゴム製の上履きがだす音が、いやに大きく感じられる。
ライトぐらい持ってくれば良かったと後悔しながら、目的の場所に着いた。
目の前にあるのは、3階女子トイレ。
ドアを開けると、蝶番が「きい」と音を立てた。
スイッチを押し、灯りをつける。
数度点滅した後、備え付けられた蛍光灯が白に発光した。
いくら今が夜で誰も見てないとはいえ、男である自分が女子トイレに入るのは気が引けた。
だが、そんなことは言ってられない。
手前から三番目のトイレのドアの前に立つ。
一つ深呼吸をし、ドアを三回ノックした。
「花子さん、いますか?」
自分の呼び声が反響した。
たっぷり数十秒、声は聞こえてこなかった。
静寂に落胆して、帰ろうとしたその時だった。
「あーあ。やっぱり幽霊なんていな──────」
「はーい」
「────ッッ!」
正体不明の声が聞こえた。
その瞬間、トイレの入り口を体当たりで開け、廊下へと飛び出す。
足がもつれ、尻餅をつきながらも後ろへ下がる。
やがて、トイレから現れたのは⋯⋯⋯⋯美少女だった。
学校イチの美少女と言われる子──田崎たさきさんがいるが、そんなものなんて目じゃない。
花も恥じらう美貌だった。
大きくて丸い目も、小ぶりな鼻も、桜色の唇も、滑らかな黒髪も、何もかもが別次元だ。
その美少女は不意に言葉を発した。
「大丈夫? 立てる?」
その声に、顔を上げると目が合った。
瞬間、体に雷が落ちたみたく全身が震えた。
その声は銀鈴の声音だった。その目は人の心をたやすく見透かすようだった。
どんな声優でも表せない、どんな宝石でも表現しきれない。
そして、同時に胸の奥が疼いた。チクリと痛んだ。
ほんの少しの痛み、だが無視出来ない痛み。
これはなんだと思う暇なく、手が差し伸べられた。
その肌は新雪のように白く、どこまでも透き通っていて──────。
「どこか怪我したの?」
その言葉にハッとして。
「ああいや、立てるよ。大丈夫」
そう言い、立ち上がり、ズボンに着いた埃を払う。
その美少女は自分より、いくらか背が高い。
顔を見るには、自分が少し上を向かなければならなかった。
そして、おっぱいが大きい!
魔性の果実だ⋯⋯⋯⋯。
「おっぱい見てる、えっちだな〜」
「! み、み、見てない! 見てないよ!?」
「あはは、冗談だって」
そう言ってケラケラ笑う。
クラスの女子相手だったら、嫌味の一つでも言ってやるところだが、そうもいかない。
なぜか憎めない。それどころか、笑っている姿をずっと見ていたいとさえ思ってしまう。
⋯⋯おっと、気を取り直してと。
「俺の名前は戸塚ユウタ。君は?」
「私は花子って言うんだ」
花子、その名前を口の中で転がす。
「よろしく」
「うん、よろしく」
その時、カイトから電話がかかってきた。
『そろそろ帰るぞ』
「おう」
手短に済まし、別れを告げ、走り出した。
そしてカイトと合流した。
カイトは俺を見るなり、質問を口にした。
「オレはなんもなかった。そっちは?」
「俺、幽霊にあったわ」
「⋯⋯マジか! どんな感じだった」
「名前通り、女の子でさ⋯⋯まあ、可愛かったよ」
それを聞いたカイトは「俺もそっちに行けばよかった」と後悔していた。
そんなカイトを見ながら、俺は。
「なあ、カイト。俺、もしかしたら幽霊に呪いかけられたかもしれない」
「⋯⋯⋯⋯はあ?」
◇◇◇◇◇◇
「このクラスの中で、ピアノ弾けるやついるか?」
今、クラスは卒業式のピアノの伴奏の担当を決めているところだ。
その曲は、『旅立ちの日に』だ。
学年に一人代表を決め、そいつに全てを託す。
そんな重荷、俺は背負いたくないね。
なんせ、受験があるわけだし。
しかし、ピアノの伴奏と俺は無関係ではない。
俺はピアノを五年ほど習っている。
プロ並みではないが、そんじょそこらの人よりは上手いと自負している。
このクラスで俺がピアノを弾けることを知っているのは、カイトだけだ。
そしてカイトには、俺がピアノが弾けることを黙ってもらっている。
チラリと彼を見やる。
カイトはこちらが見ていることに気づくと、サムズアップして見せた。
大丈夫だろう。
昨日は学校探検で夜更かししていたため、寝ることにした。
うつ伏せになると、先生が。
「もし、俺のクラスが伴奏役になったら、お前ら全員にアイス奢ってやる」
「せんせー。戸塚君、ピアノやってまーす!」
なあああああああああー!
カイトの野郎、アイスのために親友である俺を裏切りやがった。
俺たちの友情はそんな砂糖で出来た氷ごときに負けるものだったのかよ⋯⋯⋯⋯!
先生は複雑な心境の中にいる俺に向かって、来い来いと手招きをしている。
⋯⋯今なら、カエサルの気持ちがわかる気がする。
ため息をつきながらも立ち上がり、教壇へと向かう。
前に立つと、好奇の視線に晒される。
ぐおお、こそばゆい⋯⋯⋯⋯!
「⋯⋯えと、ピアノは五年ほどやってます。『旅立ちの日に』は、まあ⋯⋯引けると思います」
その言葉に「意外だ」や、「頑張ってー」などの声援が聞こえてくる。
またこそばゆい思いをしていると先生が囁いてきた。
「バレないと思ったか?」
「正直に言うと、そう思ってました」
「学校はな、クラスに一人は必ず、ピアノを弾ける人がいるように配属されてんだ」
「うわ、マジですか」
そんなやりとりをしてから、先生は楽譜を手渡してきた。
「誰が弾くかは一週間後に決めるから、練習して来いよ。じゃあ、帰っていいぞー」
◇◇◇◇◇◇
「お前なあ」
「いやごめんて。アイスの誘惑に耐えられなかったんだよ」
「⋯⋯帰りにジュース奢れよ」
ジト目でそう言うと、カイトは手をひらひらさせながらハイハイと生返事をする。
今は昼飯どき。
この学校は田舎で土地代が安いからか、敷地が広い。
俺たちが弁当を食べているのは中庭で、これも同じように広い。
中庭には、ベンチが等間隔で並べられ、色とりどりの花が植えられてある。
自分たちはベンチに腰掛けているが、中にはレジャーシートを広げている猛者もいる。
「おっ、あの子、可愛いな」
そう言って、カイトがあごをしゃくって方向を示す。
その方向を見ると、確かに可愛い子がいた。
瞬間、昨夜出会った、幽霊の少女──花子さんの美貌がフラッシュバックした。
すると、胸が痛むと共に、失礼なようだがあの子が可愛くないように見えた。
「なあ、カイト。俺さ、昨日の夜、幽霊に呪いかけられたかもしれないって言ったじゃん」
「ああ、それが?」
「お前は、否定したけどさ。やっぱかけられてるかもしれないんだよな。なんかこう⋯⋯胸が痛い」
「ばーか。そりゃプラシーボ効果ってやつだよ」
「そうかねえ⋯⋯」
再び、弁当を食べる作業に戻る。
なんかモヤモヤする。
この胸の痛みはなんなのか、ずっと考えている。
寝ても覚めても、あの子のことを考えてしまう。
一体、この思いはなんなのだろうか?
◇◇◇◇◇◇
放課後、三階にある音楽室を借りて練習できることになった。
「失礼しまーす⋯⋯」
誰もいないが、なんとなくクセでやってしまう。
ピアノの席につき、鍵盤を撫で、和音を鳴らす。
ピアノ線が震え、音が奏でられると共に鼓膜を震わす。
浸っていると、廊下に誰かの気配がした。
手を止め、息を潜めながらドアを少しだけ開け、顔を出す。
そこには誰もいなかった。
「おっかしいな⋯⋯確かに気配がしたんだけどな」
不意に尿意をもよおし、トイレへと駆け込んだ。
「ふいー。危なかった」
腹をさすりながら、音楽室のドアを開けようとしたその時だった。
ピアノの音がした。
中で誰かが弾いているようだった。
もしかしたら、『音楽室のベートーベン』かもしれない。
⋯⋯つーか。
「これ、『猫ふんじゃった』じゃねえか」
いくら幽霊になったとはいえ、これを弾くことはないと思い、ベートーベンではないと結論づけた。
そっとドアを開け、目だけをだし、中を覗き込む。
「────ッ」
弾いていたのは、幽霊の少女──花子さんだった。
楽しげにピアノを弾く彼女の姿は、その周りだけ春の陽気に包まれているみたいだ。
優雅に微笑みながら、手を滑らかに移動させる場面は、まさにプロのそれだった。
弾き終わると彼女はニコニコの笑顔を振り撒きながら、こちらに振り返り────。
「見てたんだ、ユウタくん」
「あ、いや、なんか、その、ごめん?」
目が合ってしまった。
「いいよ、別に。どうせ、私に見惚れてたんでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯」
見惚れていないと言い切れないのが悔しい。
俺の沈黙を見て、次第に彼女の笑みが増していく。
「そっかー。否定しないってことは、そう言うことだよねー。ところで、なんでここにいるの?」
揶揄いながらも、キョトンとした顔で尋ねてきた。
なぜか、胸が痛んだ。
「もうすぐ、卒業式があるんだ。その時に歌を歌うんだけど、その伴奏を誰が弾くかは決まってないんだ」
彼女はふんふんと頷いている。
「そんで候補で上がっているのが俺ってわけ」
「ここで練習してたの?」
「そうだな」
「歌う曲って、これ?」
そう言い、彼女は『旅立ちの日に』の初めをポロンと弾いてみせた。
「そうそう。それ。つーかピアノうまいね」
「でしょー? 私、魔王も弾けちゃうから!」
「へえ、そりゃすごいな。あれ、相当難しいんだぞ」
「だって、暇なときここでずっとピアノ弾いてたもん」
言いながら、ただでさえ張っている胸をさらに張り、ドヤっている。
その姿はそれはもう大変なことになっていて、自然と中腰になってしまう。
ありがたいことに、中腰になっていることには気づかずにいた。
「もしかして、『音楽室のベートーベン』って⋯⋯」
「私のことだよ?」
やっぱり。
『トイレの花子さん』がいれば『音楽室のベートーベン』だっていないとおかしいからな。
となると、他の七不思議も彼女が⋯⋯ってそれはないか。
いくら幽霊でも、分身なんかできっこないし。
「俺、ピアノ弾くから代わってくれる?」
「いいよー」
そう言うと、彼女はフワッと浮くようにして、椅子から離れる。
「花子さんって体重軽いの?」
「なっ、乙女にそう言うことを聞くのはダメだぞー。それに私、幽霊だから体重なんてないし、ユウタくんが私に触れようとしても触れられないし、私もそう」
言葉を紡ぐたびに、声のトーンは落ちていき、最後に彼女は儚く笑った。
否。笑った、と言うよりも悲しげで──────。
なぜか、胸が痛んだ。
◇◇◇◇◇◇
夕日を背に、歩いて帰っていた。
田んぼの端に生えているススキを引っこ抜き、振り回しながら。
彼女のことを考えていた。
あの時の泣き笑いのような表情は一体。
一体なんなのだろう。
この胸の痛みの正体は。
悶々と考えているうちに、家に着いていた。
「ただいまー」
「おかえり。練習、捗った?」
「うん」
母親と言葉を交わしながら、二階にある自分の部屋へと向かう。
「にーちゃんおかえりー!」
荷物を置くと、ドタドタと音がした。
声を大にして、腰に飛びついてきたのは妹であるカナだった。
「ただいま、良い子にしてたか?」
「うん!」
まるで父親のように妹に接した自分に内心苦笑し、腰にカナを引っ提げたまま階段を降りていく。
そして。
「父さん、ただいま」
「おう」
父親は無口で、あまりしゃべらない。
「ご飯食べる?」
「風呂入ってからにするよ」
「カナもにーちゃんと一緒に入るー!」
腰にしがみついた妹を連れながら、脱衣所へ向かった。
服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
妹の頭をシャンプーで洗いながら、カナと話す。
「カナねー、今日ハルキくんと、手を繋いだんだー!」
「ハルキって誰なの?」
「んとねー、カナによくおかずくれるのー!」
「そっか、それお父さんには言うなよ」
「なんでー?」
「なんでもだ」
カナは贔屓目なしに見ても、とても可愛い。
将来性がとてもある。
なんか犯罪臭がする言葉だが、端的にいえばそうだ。
きっと大人になったら美人さんになるだろう。
それにしても、小学三年生にして男の子を侍らせる、というか貢がせるとは。
「今度カナがにーちゃんの背中洗うー!」
「お願いね」
「気持ちいいですかー!」
背中にタオルが擦れる感覚がする。
「気持ちいいでーす」
「えへへー、そうでしょー!」
◇◇◇◇◇◇
音楽室のドアを開けた。
中には誰もいない。
冬の早朝、この学校に早く登校するのは真面目くんぐらいだろう。
澄んだ空気をいっぱいに吸い込み、鍵盤に触れた。
鍵盤はひんやりとしていて、氷みたいだ。
楽譜を台におき、弾き始める。
一通り、弾き終わった時、声をかけられた。
「おはよー。ユウタくん」
「あ、おはよう。花子さん」
「ちょっとだけ、苦戦してたね」
そう言いながら、彼女はふよふよしながら近づいてきた。
「バレてたか」
「私にはお見通しだよー」
と、自分が苦戦していたところをさらりと弾いてしまう。
「そんなあっさりできるところ見せられると自信無くすわ」
「じゃあ、私が教えてあげようか?」
「マジで? お願いします!」
その日から、レッスンの日々が続いた。
そして、試験の日になった。
自分も入れて五人。
俺の番は三番目だった。
前の人が終わった。
とうとう俺の番になった。
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
指を鍵盤に置いた。鍵盤は前の人の熱を帯びていた。
心を指にこめ、鍵盤を押し込んだ──────。
「伴奏役おめでと〜!」
その掛け声の後に、クラスの全員からさまざまな賛辞が口から飛び出してくる。
まさか、自分が勝つとは思えなかった。
これも、彼女のおかげだろう。あとでお礼言わなきゃな。
伴奏役を自分たちのクラスがもぎ取ったことよりも、先生の奢りでアイスが食べられることの方が嬉しいようだ。
といっても、自分も奢られることの方が嬉しいのだが。
この世界には、「他人の金で食う飯は美味い」なんて言葉もあるわけだし。
おかしなことではないはず。
先生は青い顔をして、財布の中身を確認している。
いつの間にか賛辞の声から、「ハーゲンダッツ」に代わっていた。
それに気づいた先生は、青い顔をより一層青くしている。
そんな先生の方に手を置き。
「ハーゲンダッツ、ご馳走様です」
先生は膝から崩れ落ちた。
◇◇◇◇◇◇
女子トイレの前に立ち、入り口越しに呼びかけた。
「花子さーん」
「はいはーい」
「ひゃっ!」
ドアの前から急に彼女の顔がニュッとでできた。
情けなくも、それに驚いた自分は叫び声をあげ、尻餅をつく形となった。
「あはは、すっごい驚いたね。こんなになるとは思わなかったなー」
「⋯⋯脅かすなよ」
「幽霊の特性である透過を利用したのだよ!」
「テンションどうした」
「別に何もないけど。どうしたの、帰るんじゃなかったの?」
こうしている場合ではないと、立ち上がり。
「俺、伴奏役に決まったんだ!」
「おお! すごいね、頑張ったじゃん!」
「いやいや、花子さんのおかげだよ」
そんなやり取りをしていると、声がかけられた。
「戸塚とつか君、女子トイレに向かって何話しかけてるの?」
「「!」」
その声がした方を振り向くと、そこには────学校のマドンナ、田崎さんがいた。
「あ、え?」
突然のことに話せなくなった俺に田崎さんは。
「⋯⋯この変態」
と冷ややかな目を向けた。
そのジト目と罵りのコンボは業界ではご褒美だ。
だが、俺にそんな趣味はない。
「なんかいったらどうなの。精神異常者」
ぐはっ。やめて! 私のライフはもうゼロよ!
って何を言ってるんだ俺は!
「どうして、田崎さんはここへ?」
「先生から戸塚君を連れて来いって言われて、そしたら、新橋君が音楽室にいるだろうからって。だから、ここにきたのよ。でももう良いわ。あなたの分のハーゲンダッツは私が貰うから」
そう言い、踵を返そうとする田崎さんを咄嗟に呼び止めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何よ」
この際、ハーゲンダッツはどうでも良い。
ただし、女子トイレに入ろうとしたと言う誤解だけは解かなければ⋯⋯⋯⋯!
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯だ、男子トイレと間違えたんだ」
田崎さんは、呆れながら。
「嘘をつくのなら、もっとマシな嘘をつきなさい」
ただ、突っぱねられだけだった。
チクショオオオオオオオ!
俺は膝から崩れ落ちた。
「大丈夫?」
そう言いながら、俺の顔を覗き込むのは花子さんだった。
「花子さんは優しいなあ⋯⋯」
「私はあんな女と違って、人には優しく出来るからね」
そう言い、にっこりと笑う。
そんな弾ける笑顔から、慌てて視線を剥がし立ち上がる。
「そういえば、田崎さんには花子さんが見えていなかった感じだけど、なんでなんだ?」
「私を見たければ、それ相応の手順を踏まないとダメなの。あの日のユウタくんみたいにねー」
そっか。じゃあ、みんなが然るべき手順を踏めば、みんなが彼女を見られるようになって⋯⋯いや、ナシだ。
「じゃあ、俺帰るわ」
「おっけー。じゃ、また明日ねー」
手を振り合った。
なぜか、胸が痛んだ。
俺の分のハーゲンダッツは無くなっていた。
◇◇◇◇◇◇
「失礼しまーす」
「おっはよー。ユウタくん」
「あれ、いるんだ」
「今日は早く来てみました!」
なぜか、彼女は敬礼をしている。
そんな姿に和みながら。
「じゃ、練習始めますか」
早速、ピアノの鍵盤を指で踏み込む。
早朝の静かな校舎に、ピアノの声が響き渡る。
澄んだ空気を震わせ、窓をも震わせる。
弾いてから、小一時間経った頃。
「これぐらいにしとくか」
言いながら、ノートを広げ、ペンを持つ。
「あれ? ピアノ、弾かないの?」
花子さんは俺が練習をやめ、勉強していることに、疑問符を浮かべたようだった。
「もうすぐ受験だからな。ピアノばっかりじゃいられないんだよ」
「でも勉強は、教室でも出来るくない?」
「こっちの方が静かだし、ピアノも弾けるし、花子さんと喋れるからなあ。話すのは楽しいし」
そういい、彼女の方を向くと、顔を真赤に染め上げていた。
まるでリンゴみたいだ。
そう思っていると、自分の発言のクサさに気づいてしまった。
自分でも、顔が熱くなるのを感じる。
「花子さん、顔真っ赤だけど、どうしたの?」
「ユウタくんは自分で言っといて照れてるの、可愛いー」
「対抗しなくていいから!」
しばらく目を合わせ、ガン飛ばしのようなことをしていると、なんだかバカらしくて。
「ぷっ、あははははっ!」
「くっ、はははは!」
二人して破顔した。
ひとしきり笑い合ったあと、チャイムが鳴り。
「⋯⋯昼休みになったら、ここにくるから」
「それじゃ、またあとでねー」
◇◇◇◇◇◇
受験まであと一週間の張り紙が出された。
普通なら残り百日から張り出すのが定番なんだろうが、突っ込まないでおこう。
「ユウター。弁当食おうぜ」
「あ、ごめん。俺、音楽室で食うから、カイトは彼女と食ってこいよ」
「ほーん。わかった」
音楽室に行き、弁当の蓋を開ける。
それと共に、香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
箸で卵焼きをつまみ、口に放り込む。
家の卵焼きには、バターとコーンが入っていて、あましょっぱく、コーンの食感が良いアクセントになっている。
「うまうま」
「おいしそーな匂いがするなー」
「実際にいい匂いだからね」
ふよふよと花子さんがやってきた。
「花子さんは、ご飯とか食べれるの?」
「無理だよ。私、幽霊だし。それに────」
「また、一人で話しているのね」
この聞き覚えのある口調は。
「田崎さん。どうしたの?」
「いえ、ただ見に来ただけだけど?」
そして、小さな声で、「変態を」と付け加えている。
あの、バレバレですよ⋯⋯。
「ここに何かいるの?」
そう言いながら、花子さんがいる中空へ手を突っ込む。
田崎さんにはただ手を振っているだけに見えるが、自分から見たら花子さんの体内に手を突っ込んでいるという、ちょっと面白い光景になっている。
「信じてもらえないかもしれないけど、今田崎さんが手を振ってるところに、幽霊がいるんだ」
「戸塚君の妄想じゃなくて?」
「失礼な」
田崎さんが花子さんに近づくと、花子さんは嫌そうに顔を歪めて遠ざかる。
「ユウタくん。この女を追い出して!」
なんでそんなに怒っているんだ?
「田崎さん、彼女が嫌がってるから、やめてあげて」
「幽霊のくせに生意気ね!」
そんなジャイアンみたいなことを言わなくても。
「あっちいけ! まな板女!」
「ちょっと、戸塚君。この幽霊、なんか失礼なことを言ってるような気がするのだけど!」
「⋯⋯まな板女って言って────」
「はああ? 別に、あたしは貧乳じゃないわ! 訂正して、訂正して!」
「そもそも、俺を介してレスバトルするなあ!」
田崎さんの手を引っ掴み、音楽室の外へ引っ張る。
未だ、猛り狂う彼女をどうどうと宥め。
「俺は田崎さんはもっと大人だと思ってたんだけど」
それを聞いた彼女は不満そうに、頬を膨らませた。
「わたしだって、年相応よ。みんなが勝手に思ってるだけ」
後ろでは、花子さんは変なポーズをとって威嚇している。
俺が困った顔をしていると、田崎さんはため息を吐き。
「もう、あたしは帰るから!」
そう言って、俺の弁当に入っていた最後の卵焼きを一つ奪い取り、帰って行った。
◇◇◇◇◇◇
「なあユウタ、なんか田崎さんが怒ってんだけど、なんか知ってる?」
間違いなくあの件だな。
しかし、花子さんには敵わないが、彼女も美人なので怒っている姿も可愛らしい。
現に、何人かの男子はうっとりと見惚れていた。
「⋯⋯⋯⋯知らないけど」
「知ってる間だなあ。お前、なんかやらかしただろ」
エスパーかこいつは。
「そうだよ。幽霊とさあ、田崎さんが口喧嘩したんだ。それで機嫌を損ねてるんだと思う」
「そんだけ?」
「⋯⋯幽霊が田崎さんのコンプレックスを突いたんだ」
カイト相手に隠し通すのは無理だと悟り、正直に事情を説明する。
カイトはどこからかメガネを取り出し、いつになく真面目な顔をした。
その表情に息を呑む。
「時にユウタ君、その田崎さんのコンプレックスとは?」
「言うわけないだろ」
緊張したこっちがバカだった。
数秒前の自分をぶん殴ってやりたい。
「ま、どうせ、貧乳とかそこらへんの事を言われたんだろうな」
メンタリストDAIGOかこいつは。
俺の表情を見てアタリと察したのか、口の端を持ち上げる。
「そんなお茶目な幽霊なんて、この世にいるんだな」
カイトは爽やかに笑った。
「俺も会ってみたいな」とぼやきながら、足をパタパタさせている。
なぜか、胸が痛んだ。
◇◇◇◇◇◇
「おはよー、ユウタくん」
「おはよう。花子さん」
今日も今日とて音楽室でピアノを弾き、勉強をする。
「⋯⋯⋯⋯ああもう。動くなよ、点P!」
「点Pって誰?」
「重度のADHDを患ってる人だよ」
「物知りだねー」
俺の適当な返事を彼女は信じたようだ。
そのまま空中へと浮き上がり、くるくると回り始める。
それをボーッと見上げていると。
「スカート、覗こうとしてるの?」
「⋯⋯いや!?」
彼女は、ふーん、とおもちゃで遊ぶ時のような笑顔を浮かべている。
その笑顔は、妖艶で、甘美で。
写真で残しておきたくて。
なぜか、胸が痛んだ。
「ごめん。俺、教室に戻るわ」
「えっ、なんで。早くない?」
「なんでもだから、ごめん」
足早に音楽室を出る。
なおも、呼び止める声が聞こえるが無視した。
ああ、くそ。どうして、どうしてこんなに。
「痛ってえ⋯⋯」
◇◇◇◇◇◇
職員室に貼られている、合格まであと百日の張り紙が、残り一日となった。
俺は、音楽室に顔を出さなかった。
あんな事をして嫌われたと思うと、行くのが怖かった。
彼女の事を忘れるために、勉強に打ち込んだ。
ただひたすらに。
「なあんか、浮かない顔してるな。ユウタ」
授業の準備をしていると、カイトから声をかけられた。
「⋯⋯何」
「いや? なんかオレの親友である、戸塚ユウタ君が暗い顔をしていたのでね」
「そうか? 別になんともないぞ。どうした」
「自分の不調には気づきにくいからね、声をかけただけですよ」
「そっか、ありがとな」
「ユアウェルカム」
「えー、ある文で、タカシ君の心情が表されています。えー、戸塚君、答えてください」
「はい。『この時、僕は初めて、彼女の顔を見た。その顔は今まで見たことないほどに、美しかった。僕は一目惚れした。』のところです」
「はい、正解」
読んでいるこっちが恥ずかしくなる文章だった。
何が一目惚れだ。バカバカしい。
タカシ君とは気が合わないな、と益体のないの事を考えた。
次の日、受験があった。
なんの滞りもなく終わった。
絶対に受かったと思う。
「これより、第六十六回、卒業式を挙行します」
担任が一人一人、生徒の名前を読み上げていく。
中には、返事をふざけるやつもいるが、大半は真面目にしている。
「新橋カイト君」
「ラーメン、つけ麺、僕イケメン!」
シケた。
失笑すら起きない。
体育館で行っているため、シケたネタが、虚しく反響する。
いくらなんでも古い⋯⋯!
しばらくして、自分の名前が呼ばれて立ち上がる。
「戸塚ユウタ君」
「はい」
最後の一人が、立ったと同時、次々と卒業証書を受け取りに行く。
全員が受け取ると。
「卒業生、起立。ステージへ移動してください」
みんなが、設置された段上へ登るのを横目に、自分だけ舞台袖から入り、ピアノの横に立つ。一つ礼をして、席に座る。
鍵盤に触れた。
鍵盤は、あの時のようにひんやりとしていた。
ゆっくりと押し込んだ。
同じリズムを保ち、ゆったりと音を奏でる。
自分の気持ちを、みんなの歌声を音に乗せて、観客──みんなの両親へと響かせた。
中盤に差し掛かった頃だった。
両親の顔を見ようと、顔を上げた時だ。
視界の端に、半透明の少女を捉えた。
それは言うまでもない。
花子さん────。
目があったような気がした。
否。目があった。
彼女は笑みを浮かべて、手を振っていた。
それからはあっという間だった。
気づいたら、万雷の拍手の最中だった。
「卒業生、退場!」
教頭先生も、負けないように声を張っていた。
体育館を出る時に、彼女がついてきた。
「このあと、どうするの?」
「このまま帰るけど」
「そっか。じゃあ、バイバイ。ピアノ、カッコ良かったよ」
なぜか、胸が痛んだ。
校庭に出てきて、みんながガヤガヤしているところにから少し離れたところに、カイトと共に、腰を下ろした。
「中学校、終わったな」
カイトが、そう切り出した。
「そうだな。終わったな」
言いながら、足元にあった小石を拾い上げ、放り投げる。
「ところで、聞きたいことがあるんだけど」
「んあ?」
今度はこっちが切り出す番だった。
「漫画で読んだんだけどさ、主人公の男がさ、ヒロインの女を見るとさ、胸を押さえて悶えてるんだ。痛えーって。これってなんなんだろうな」
「そりゃ、『恋』じゃねーの? だって、好きな女を見るとそうなるんだろ? だったら、『恋』しかねーよ」
『恋』。
この一文字は不思議なほどに、ストンと腑に落ちた。
ずっと、疑問に思っていた、胸の痛み。
どうりで、答えが出ないわけだ。
それに、正体を知ったら、もう無視できなかった。
「俺、忘れ物したから、取りに行くわ」
そう言い、一歩踏み出した。
「おい」
カイトに声をかけられた。
俺の親友は無言でサムズアップをして見せた。
こちらも、無言で返した。
◇◇◇◇◇◇
校舎へと飛び込み、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
俺はあながち間違っていなかったのかも知れない。
恋っていうのは呪いなんだ。
そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ、恋愛を嫌っていた自分が、人目も憚らず意中の人に会いに行くなんて、やってない。
そうこうしている間に、三階の女子トイレに着いた。
呼吸を整え、名前を呼ぶ。
「花子さん」
「あれ。帰ったんじゃなかったの?」
「伝えたいことがあって」
いざ、口に出そうとすると、体がこわばる。
でも、ここでやらなきゃ、男が廃る。
彼女は、相変わらず可愛い顔をしている。
「俺さ、花子さんと会った時、一目惚れしたんだ」
俯きかけた顔を、上げて彼女の目を見据える。
目線は、対等な高さになっていた。
「でも、自分でもどうしていいかわからなくなって、この一週間ずっと気持ちの整理をつけてて、やっと分かったんだ。俺は⋯⋯花子さんの事が好きだって。幽霊とか関係ない! 触れられなくても良い。話すだけで良い! 一緒にいるだけで良い! 俺と────付き合ってください!」
数秒の静寂の後。
「気持ちは、嬉しい。でも、その気持ちには応えられない。私は幽霊で、ユウタくんは人間。何がどうあれ、一緒になることは絶対にないの。⋯⋯⋯⋯それに、私はもうすぐ消えちゃうから」
「なんで⋯⋯」
「私は、噂があるからこの世に存在できてるの。噂が消えちゃえば、私も消える。
もしまた、『トイレの花子さん』の噂ができても、それはユウタくんが好きになってくれた私じゃない。そんな私が、未来あるユウタくんの将来を棒に振っちゃダメなんだ。それに、ユウタくんを好きなってくれる子もいるよ。気づいてないと思うけど。ほら、田崎さんって子」
花子さんは、髪をかき上げた。
「あの子、素直じゃないけどね。私じゃ、ユウタくんを幸せにはできない。でもきっと、あの子ならユウタくんを幸せにしてくれる。⋯⋯⋯⋯⋯⋯だから、さようなら。ユウタくん」
そう言い、ドアの向こう側へ消えていった。
一度もこちらを振り向かずに。
いつしか、涙が頬を伝っていた。
とめどなく、溢れて。
夜の空を飛ぶ流星群見たく、流れていった。
「ぐっ⋯⋯うう⋯⋯ふぐっ、あ、あああ⋯⋯」
いつしか、嗚咽を漏らしていた。
抑えようとしても、抑えられない。
ずっと、抑えられなかった。
俺は、中学校を卒業した。
◇◇◇◇◇◇
「同窓会、楽しかったな」
「ああ、そうだな」
中学の同窓会に呼ばれた俺とカイトは、古びた廊下を歩いていた。
スリッパのパスパスという音が響く。
「校舎、取り壊されるらしいぜ。なんか、合併とかなんかで」
「マジか。まあ、ここ生徒少なかったもんな」
カイトは、この校舎が取り壊されることを口にした。
それを聞いたら、俺の心は少し荒んだ。
「カイト。俺、行くとこあるから先に外で待っててくれ」
「⋯⋯? おう」
そのままカイトとは別れ、俺は上に、親友は下へ行く。
音楽室の前に立ち、ドアを開けた。
音楽室は最後に見た時から、変わっていなかった。
ただ、少し埃っぽい。
椅子とピアノに降りかかっている埃を払い、『旅たちの日に』を弾いた。
「ちょっと、調子がおかしいな」
それでも、構わず弾いた。
誰かに届くように。
情緒たっぷりに。
弾き終わり、女子トイレの前に立った。
ゆっくりと開ける。
蝶番が「きい」と鳴いた。
中へ入り、三番目のドアの前に立つ。
カビの匂いがする。
ノックをする。が、手を止めた。ノックをしようとした手を、数度握ったり、開いたりして、手を下ろした。
ノックはしなかった。
また、ドアを開けたら、きっと呪いにかかってしまうから。
ここにいるかもわからない少女に首ったけになってしまうから。
「花子さん。聞いてても聞いていなくてもいい、まあ、聞いてて欲しいけど。
俺、成人して医者になったよ。そんで、身長伸びたから、今は俺の方が10センチは高いかな。この校舎、取り壊されるから、思い出の場所がなくなっちゃうな。でも、俺は覚えてるから。⋯⋯⋯⋯ずっと」
首筋に手を当てた。
「俺、後悔してないよ。花子さんに初恋を捧げたこと。良い経験になったし、俺にしかできない経験をさせてもらった。感謝してる。でも、俺はもう大人なんだ。だから──────」
もう二度と、この名前を呼ぶことはないだろう。
三番目のドアに静かに手を添え、額を当てた。
「だから、さよならだ。花子さん」
ドアから離れ、入り口のドアを開ける。
廊下は心なしか、さっきよりも明るく見えた。
一歩踏み出すと。
「頑張ってね」
銀鈴の声が聞こえた。
振り向くも、そこには誰もいなかった。
ただ小さな窓から差し込む陽光による、豊かな陽だまりがあるだけ。
「うん」
俺はそっと入り口のドアを閉める。
蝶番が「きい」と鳴いた。
もう、胸は痛まなかった。
三番目のドアから @aarugurei
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