第2話 歪んだ愛の始まり

アカリは、ユウマと再び会った日からというもの、どこに行っても彼の気配を感じるようになった。職場の外で、カフェで、通勤途中の電車の中でも、ユウマの鋭い視線を感じる。振り返ると彼は微笑み、少しも慌てることなくアカリを見つめていた。


「何でいつもいるの?」

ある日、アカリはたまらずユウマに問い詰めた。彼は驚くこともなく、穏やかな表情で答えた。


「君のことが心配なんだよ。大事な人を守るのは当然でしょ?」

その言葉には一見優しさが感じられたが、その奥に潜む異様な執着にアカリは背筋が凍った。


「私はそんなに弱くない。自分で大丈夫だから、もうついてこないで。」

そう言ってアカリは毅然とした態度を取ろうとしたが、ユウマはまったく動じなかった。


「君はそう思っているかもしれないけど、世の中は危険だらけだ。俺がいなきゃ、君はすぐに傷つけられてしまう。君を傷つける人間なんて許せないんだ。」

その瞳には冷酷さが垣間見えた。彼の愛は、アカリを支配することで完結するものだった。


日が経つにつれ、ユウマの干渉はさらにエスカレートしていった。アカリが友人と出かけようとすると、その予定をなぜかユウマが知っていて電話をかけてくる。


「今日は家にいたほうがいい。君に何かが起こるかもしれない。」

彼の忠告は、まるで脅迫のように聞こえた。アカリは友人たちとの距離を少しずつ取るようになり、次第にユウマが自分の生活の中心に入り込んでいくことを実感する。


ある晩、家に帰ると玄関の前に小さな花束が置いてあった。それには一言、ユウマの手書きのメモが添えられていた。


「君が安心できるように、俺が見守っているよ。」

アカリは震える手で花束を拾い上げ、ドアを閉めた。その夜、何かを見られているような感覚が拭えず、何度も窓を確認したが、ユウマの姿はどこにも見えなかった。それでも、彼がどこかで監視しているという恐怖は、頭から離れない。


ユウマの異常なまでの執着に気づいたアカリは、何とか距離を置こうと考え始めた。しかし、ユウマは彼女の一挙一動を知っているかのように振る舞い、どこにいても彼の影が付きまとっている。


その日の夜、携帯が鳴り響いた。画面には「ユウマ」の名前が表示されている。アカリは迷った末、電話に出た。


「どうして僕を避けようとするんだ、アカリ?」

彼の声は冷たく、しかしどこか楽しんでいるように聞こえた。


「私はもう、自由になれないの?」アカリは弱々しく問いかけた。


「自由?そんなものは必要ない。君は俺のものなんだから。俺がいれば、それでいいんだよ。」

ユウマの声に込められた狂気が、アカリの胸に深く突き刺さった。彼の歪んだ愛は、すでに彼女の日常を侵食し始めていた。


この狂った関係から逃れる術を、アカリは見つけられずにいた。


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