第22話 真実の代償
UDIラボの中は、これまでにない静寂に包まれていた。外は激しい雨が降り続き、窓を叩きつけるような風が建物を揺らしていた。ラボのメンバーはそれぞれの持ち場に立ちながら、胸の奥にある緊張感を抑えつつ、次なる一手を考えていた。
神倉所長は、会議室の窓際に立ち、目の前の激しい嵐をじっと見つめていた。ここ数週間、UDIラボを取り巻く状況は一気に緊迫し、ついに決定的な瞬間が訪れようとしていた。シェディング現象の真実が暴かれ、製薬会社や政府の陰謀が明らかになるその瞬間が、目の前に迫っていた。
「所長、準備は整いました。」ミコトが会議室に入ってきた。彼女の表情は冷静でありながら、その瞳には強い意志が宿っていた。「すべてのデータは外部のメディアやジャーナリストに送信されました。それぞれ、別々のタイミングで公表される手筈になっています。」
「そうか。」神倉はゆっくりと振り返り、ミコトに視線を合わせた。「これで、彼らがどれほど圧力をかけてきても、真実を完全に隠すことはできないだろう。」
「しかし、リスクも大きいです。彼らが私たちを攻撃してくるのは、時間の問題かもしれません。」中堂が会議室に入ってきて、重い口調で言った。「すでに、政府と製薬会社からの圧力が増していることは確認されています。ウェブサイトは何度も攻撃され、私たちの電話や通信も監視されている。」
「それでも、私たちはここまで来た。」ミコトが強く言った。「真実を広めるために、私たちはすべてのリスクを承知でこの道を選んだ。もう後戻りはできない。」
「そうだ。」神倉は頷き、再び外の嵐を見つめた。「だが、今こそ私たちの覚悟が試される時だ。UDIラボがこの国の未来を守るために立ち上がった意味を、全員が理解しているだろう。この戦いは、私たちだけのものではない。」
「所長、外部からの支援は期待できそうですか?」東海林が不安げに尋ねた。「もしこの戦いが長引けば、私たちだけでは対抗しきれないかもしれません。」
「外部の支援者も、私たちの行動に共感して動き始めている。」神倉は落ち着いて答えた。「だが、最も重要なのは、私たち自身がこの真実を守り抜く意志を持ち続けることだ。彼らはあらゆる手段を使って私たちを押さえ込もうとするだろう。しかし、それに屈してはならない。」
その時、突然、久部が慌てた様子で駆け込んできた。「ミコトさん、神倉所長、今すぐモニターを見てください!何かが起きています!」
急いでモニターの前に集まったメンバーたちは、ニュースサイトやSNSが一斉にUDIラボの調査結果を報道し始めているのを目にした。シェディング現象に関する極秘の研究データが公開され、政府や製薬会社がこれまで隠してきた事実が次々に暴露されていた。
「ついに……始まったのか。」神倉は静かに呟いた。
「これで彼らも黙っていられないでしょうね。」中堂は画面を凝視しながら、やや興奮気味に言った。「これまで隠されていた真実が、こうして表に出てしまえば、彼らの力でも抑えきれないはずだ。」
「でも、ここからが本当の勝負です。」ミコトが冷静に言った。「彼らがどんな反応を示すかはまだわからない。報道が広がる一方で、UDIラボに対する攻撃が一層激しくなる可能性もあります。」
その言葉の直後、ラボの電話が一斉に鳴り響いた。各メンバーがそれぞれの席に戻り、次々と電話を取った。多くのジャーナリストや外部の協力者たちからの問い合わせが殺到し、ラボ全体が一瞬で騒然となった。
「ミコトさん、外部からのサポートが増えてきています!」東海林が嬉しそうに報告した。「UDIラボの正当性を支持する声が、各国のメディアからも集まり始めています!」
「それは良い知らせね。でも油断はできない。」ミコトは電話を片手に次々と対応しながらも、冷静さを失わなかった。
突然、ラボのドアが開き、一人のジャーナリストが息を切らしながら入ってきた。彼は以前からUDIラボに協力していた、信頼のおける記者だった。
「神倉所長、これは……大変な事態です。」ジャーナリストは息を整えながら言った。「政府が緊急会見を開き、UDIラボに関する発表を行うとのことです。彼らはおそらく、これまでの調査結果を否定し、UDIラボを中傷するつもりでしょう。」
「やはり来たか。」神倉は目を閉じ、深呼吸した。「彼らは、UDIラボそのものの信用を失墜させようとしている。しかし、今は恐れてはいけない。私たちの調査は正確であり、真実である。彼らがどんなに否定しようとも、それを覆すことはできない。」
「私たちも反撃の準備を整えています。」ジャーナリストは力強く言った。「UDIラボのデータと、これまでの調査結果をもとに、さらなる真実を公表するつもりです。私たちはあなたたちを支持します。」
神倉はその言葉に微笑みを浮かべ、力強く答えた。「ありがとう。君たちの支えがあれば、我々は必ずこの戦いを乗り越えることができる。」
その後、UDIラボは政府の緊急会見に対抗する形で、記者会見を開くことを決定した。ミコト、中堂、東海林、そして神倉は全員が一致団結し、真実を守るための最後の戦いに臨む覚悟を決めた。
UDIラボの正面玄関には、すでに多くのジャーナリストやメディアが集まっていた。カメラのフラッシュが次々と焚かれ、世界中の視線が彼らに注がれていた。
「我々は、真実のためにここにいる。」神倉所長が記者会見で語りかけた。「シェディング現象の危険性、そしてそれを隠蔽してきた者たちの真実を暴くために、我々は全力を尽くしてきた。私たちUDIラボは、この国の人々の安全と健康を守るために戦い続ける。どんな圧力にも屈せず、真実を追い求めることが、私たちの使命だ。」
その言葉に、UDIラボのメンバーたちは全員が心を一つにし、神倉所長の後ろに立ち上がった。彼らの顔には、不屈の精神と真実を守り抜く覚悟がはっきりと表れていた。
記者会見が終わると、UDIラボは新たな一歩を踏み出した。外部からの攻撃や圧力は続くかもしれないが、彼らはもう決して揺らぐことはなかった。真実を守るために戦った彼らの努力は、やがて世界中に広まり、シェディング現象のリスクが公に認められる日が訪れるだろう。
そして、その戦いの中でUDIラボが果たした役割は、未来の科学における新たな希望と光として輝き続けるのだった。
最終章——「真実の代償」——が静かに幕を閉じる。
【完結】レプコンの闇 - ワクチンパンデミック 湊 マチ @minatomachi
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