第19話 反響と圧力
ミコトたちがメディアに真実を公表した翌日、UDIラボには全国からの反響が押し寄せていた。ニュース番組やSNSは、UDIラボの調査内容をトップニュースとして取り上げ、シェディング現象についての議論が爆発的に広がっていた。
「見て、昨夜のニュースよ。」東海林がテレビ画面を指差しながら言った。画面には、ミコトが記者たちにシェディング現象の影響について説明する様子が繰り返し流されている。
「ミコトの発言がかなり注目されているわ。シェディング現象の実態が世間に広まったみたい。」東海林が少し興奮気味に報告する。
「だけど、その分、圧力も強まっている。」中堂が静かに言った。「すでに政府や製薬会社からの反応が始まっている。」
ミコトはその言葉を聞いて、冷静にうなずいた。「予想していたことね。真実が明らかになれば、彼らが黙っているわけがない。けれど、今は私たちの言葉が世間に届いた。それが重要。」
その時、ラボの電話が再び鳴り響いた。ミコトは受話器を取ると、相手の声に顔をしかめた。
「厚生省からだわ。急遽、UDIラボとの会談を求めている。すぐに話し合いたいと言っている。」
「厚生省が?」中堂は少し驚いた様子で振り返った。「彼らが動くとはな。やはり、事態がここまで大きくなった以上、無視できなくなったか。」
「彼らは本当に対話を求めているのか、それとも口封じをしようとしているのか……」東海林は心配そうに言った。「ただ、これ以上真実を広められる前に、私たちを押さえ込もうとしているんじゃないか?」
「どちらにせよ、会談には応じるべきだ。」ミコトは毅然とした表情で言った。「これ以上、UDIラボの信頼が傷つけられる前に、正面から彼らと対話し、私たちの調査結果を守る必要がある。」
数時間後、UDIラボに厚生省の担当者が現れた。スーツ姿の彼らは、冷静な顔を保ちながらも、その視線には緊張感と疑念が滲み出ていた。
「お忙しいところ、突然の会談に応じていただき、感謝します。」担当者は表面的な礼儀を示しながら言った。「今回のシェディング現象に関する調査について、厚生省としても精査を進めています。しかし、急速に広がる報道と、市民の間での不安の拡大には懸念を抱いております。」
「私たちは、事実に基づいて情報を公表しました。市民には正しい情報を知る権利があります。」ミコトは冷静に返した。「これ以上、真実を隠していてはさらなる混乱を招くだけです。私たちのデータは厳密に検証されています。」
「しかし、シェディング現象そのものの科学的な裏付けにはまだ疑問が残ると一部の専門家は指摘しています。」担当者は反論した。「このまま報道が続けば、パニックが広がり、社会全体に深刻な影響を与える可能性がある。UDIラボが情報を管理する責任を持つべきではないかと考えます。」
ミコトはその言葉に耳を傾けながら、一瞬の静寂を挟んだ後、強い決意で言葉を返した。「私たちの目的は、恐怖を煽ることではなく、事実に基づいた対応策を提示することです。UDIラボが管理しようが、真実を隠蔽することはできません。私たちはこれ以上の犠牲を出さないためにも、全ての事実を明らかにする義務があるのです。」
その瞬間、厚生省の担当者の表情が少し硬くなった。「……私たちとしても、UDIラボが市民の不安を解消するために協力することを望んでいます。しかし、今後の対応には慎重さが求められます。ワクチン政策全体に影響を与えることになるのですから。」
「それが恐怖の根源です。」中堂が口を挟んだ。「あなた方は、ワクチン政策を守るために真実を隠そうとしている。だが、それが最終的に市民を守ることにはならない。真実がなければ、適切な対応策も講じられないんだ。」
会談は緊張した雰囲気のまま進んでいった。厚生省は、UDIラボの発表に対して強い不信感を抱いているが、一方で、シェディング現象を無視することもできない状況に追い込まれていた。彼らの立場は明らかに弱まりつつあり、ミコトたちはその隙を逃さなかった。
「私たちのデータは、政府と共に対策を考えるための基盤として提供する準備ができています。」ミコトは最後に静かに語りかけた。「しかし、真実を隠すことはもう許されません。市民の命を守るためにも、共同で対応策を講じるべきです。」
厚生省の担当者はしばらく黙り込んでいたが、やがて小さくうなずいた。「おっしゃる通りです。これ以上の隠蔽は許されません。UDIラボの調査に協力し、共に解決策を探る道を模索したいと思います。」
会談が終わると、UDIラボのメンバーたちは一息ついた。緊張した時間だったが、彼らが勝ち取ったのは、政府との対話の扉を開くことだった。
「これで少し前進した。」ミコトが疲れた表情で言った。「でも、まだ戦いは続いている。」
「そうだな。」中堂が頷いた。「これから政府との協力体制をどう築くかだ。そして、その間に彼らが何を企んでいるのかも見極める必要がある。」
「彼らが協力を本当に望んでいるのか、それとも、私たちを監視するための手段として使おうとしているのか。」東海林が警戒心を見せた。「とにかく、気を抜けない状況が続くわ。」
ミコトは、まだ道半ばにある自分たちの闘いを感じながら、次なる行動に向けて静かに準備を進めていた。
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