第16話 真実の行方
調査官たちが去って数時間が経ったが、UDIラボの緊張は未だに解けていなかった。メンバーたちはそれぞれの作業に戻りつつも、周囲に監視の目があることを意識せざるを得なかった。特にミコトは、調査官がラボ外部とのやり取りを要求してきたことに引っかかっていた。
「彼らは外部との通信を執拗に気にしていた。」ミコトは中堂に語りかける。「単なる圧力だけじゃない、何か別の意図がある。」
「同感だ。」中堂は資料を整理しながら言った。「外部とのやり取りを探って、内部告発者や我々が接触している人物の情報を得ようとしているんじゃないか。」
「それがバレれば、告発者の安全が脅かされる。」ミコトは険しい表情でつぶやいた。「それに、ラボのデータ以上に重要な情報を隠しているかもしれない。」
その時、東海林が不安げな表情で部屋に入ってきた。「ミコト、ちょっと大変なことが起きた。バックアップしたデータの一部に、異常なアクセスがあった形跡があるの。」
「どういうこと?」ミコトは驚いて東海林に近づいた。
「どうやら、外部サーバーに保管していたデータに、何者かが不正アクセスしようとした形跡があるのよ。幸い、私たちの暗号化システムは破られていないけど、相手は相当な技術を持っている。」
「まさか、調査官たちが背後で動いている?」中堂が鋭い声で言った。
「可能性はある。」東海林は不安げに画面を指し示した。「これがアクセスのログ。相手は慎重に動いているけど、サイバー攻撃が進行中かもしれない。データが完全に破られる前に、何とかしなきゃ。」
「時間がない……」ミコトは焦りを抑えながら考えた。「データの安全を確保しなければならないけど、同時に彼らが何を狙っているのかを探らなきゃ。すぐに動こう。」
「今の段階で、外部とラボ内の通信は全部遮断するべきだ。」中堂が冷静に提案した。「彼らが我々の動きを完全に監視している以上、相手に何も与えないためにまず通信を止めるんだ。」
「そうね……でも、それでは私たちの情報発信も止まってしまう。」ミコトは考え込んだ。「データを安全に保つ一方で、真実を公表する手段を確保しないと。彼らが動く前に、何らかの方法で情報を世間に広める必要がある。」
「なら、暗号化したデータを複数の信頼できるジャーナリストや、独立した機関に分散して送るのはどうだ?」東海林が提案した。「一か所に保存するより、相手が全部を一度に封じるのは難しくなるはず。」
ミコトはその提案に同意するようにうなずいた。「それで行こう。リスクはあるけど、今は情報を守りつつ、彼らの監視から逃れることが最優先よ。」
東海林はすぐにデータを分散して送信する準備に取り掛かった。メンバーたちも各自の役割を果たし、次なる攻撃に備えた。
「時間がない……でも、私たちは負けない。」ミコトは決意を固め、ラボ全体に指示を出した。「すべてのデータを複数の場所に送信し、何があっても情報を守り抜く。私たちが掴んだ真実を、誰にも奪わせはしない。」
ラボ内は再び静かに緊張感が漂い始めた。誰もが手元の作業に集中し、外部からの次なる攻撃に備えていた。全員が、見えない敵との攻防に心を燃やしていた。
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