第15話 圧力との攻防

UDIラボのドアが開き、調査官たちが静かに中へと入ってきた。ミコト、中堂、東海林、そして他のメンバーは、冷静さを保ちながら調査官たちを迎え入れたが、心の中では激しい緊張が走っていた。


「お待たせしました。これからラボ内をご案内します。」ミコトが調査官のリーダーに向かって声をかける。彼女の声は穏やかだが、わずかな震えがその深い焦りを物語っていた。


「協力に感謝します。」リーダーの調査官は、無表情のまま冷静に答えた。「ただ、私たちの調査は徹底的に行われる。あらゆるデータを確認し、必要であれば押収するつもりだ。」


ミコトは内心、心拍が早まるのを感じたが、顔には決してそれを表さなかった。「もちろんです。私たちも協力する意志はあります。」


調査官たちは無言でラボ内の調査を始めた。コンピュータのログをチェックし、資料や実験記録を次々に確認していく。ミコトや中堂は、彼らの動きをじっと見守っていた。


「バックアップは完全にできているんだろうな?」中堂が小声で東海林に確認する。


「大丈夫よ。すべて外部のサーバーに保存済み。ここにあるデータを全部押収されても問題ないわ。」東海林が落ち着いた声で答えたが、その顔には緊張の色が浮かんでいた。


「それにしても、何を探しているのか……。」中堂は調査官たちが資料を確認している様子を鋭く見つめた。彼らの動きには、単なるチェック以上の意図が感じられた。


「間違いなく、私たちの調査結果に何かしらの『瑕疵』を見つけようとしている。」ミコトがつぶやく。「彼らは私たちを封じ込めるために、弱点を探しているのよ。」


その時、一人の調査官がミコトに近づいてきた。彼の手にはUDIラボのデータに関する報告書があった。


「このデータについて質問があります。」彼は冷静に言った。「特にシェディング現象に関する部分ですが、これは科学的根拠に基づいているのでしょうか?多くの専門家は、この現象自体が証明されていないと言っています。」


「私たちが集めたデータは、実験結果に基づいています。」ミコトは即座に答えた。「接種者の呼気から有害な粒子が検出され、実験によってその影響が確認されています。すべてのデータは精査され、検証されています。」


調査官は無表情のまま報告書を見つめ、しばらくの間黙っていた。その沈黙は、ミコトにとって非常に長く感じられた。彼が何を考えているのか、何を狙っているのかが読めない。


「了解しました。」彼は短く答え、再び資料を確認し始めた。


その場の緊張が少し和らいだが、完全には解消されなかった。UDIラボのメンバーたちは、自分たちがいつ追及されてもおかしくない状況であることを理解していた。


突然、調査官たちが急に動きを止め、リーダーがミコトに近づいてきた。「この調査はまだ途中ですが、これから私たちはさらに詳細な情報を要求します。特に、ラボ外部とのやり取りについて確認する必要がある。」


「ラボ外部とのやり取り?」ミコトはその言葉に一瞬戸惑った。


「はい。特定の人物や団体との通信記録、データの共有についてです。これが明らかにならなければ、調査は終了しません。」


「それは個人情報に関わる部分も含まれます。」ミコトは慎重に言葉を選びながら答えた。「外部とのやり取りについては、すべて合法的な範囲で行われており、機密性も保持されています。しかし、必要があれば提出も検討します。」


調査官のリーダーはしばらく黙り込んだ後、冷静にうなずいた。「わかりました。いったん引き上げますが、この調査はまだ終わっていません。私たちは引き続き、あなた方の活動を精査する予定です。」


調査官たちは手早くラボの調査を終え、外へと出ていった。ドアが閉まると、UDIラボのメンバー全員がほっとため息をついた。


「やっと行ったか……。」中堂が静かに言った。「だが、これは終わりじゃない。彼らはまだ何かを探っている。」


「そうね。」ミコトは冷静に答えた。「私たちはまだ監視下にある。次はもっと強い圧力がかかるかもしれない。でも、私たちはデータを守り、真実を広めるために戦い続けるしかない。」


東海林が再びコンピュータに向かい、データの確認を始めた。「次に何が来ても大丈夫なように、常に準備しておかないとね。」


「これからが本当の闘いだ。」中堂はミコトに向かって言った。「彼らは、俺たちが掴んでいる真実を暴かれることを恐れている。それだけの大きな力が動いている。」


「でも、私たちは負けない。」ミコトは静かに、だが力強く答えた。「真実を隠されることが、何よりも危険なことだから。」


ラボ内には、再び静かな緊張が戻った。しかし、その中には、UDIラボのメンバーたちの揺るぎない決意があった。彼らはこれからも続く戦いに向け、次の一手を模索し始めていた。

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