第11話 絶望と覚悟

UDIラボ内でのシェディング現象の検証が終わり、メンバーたちは深い思案に沈んでいた。この新たな事実は、社会にとてつもない衝撃を与えることは明白だった。だが、真実を知らしめることが、さらに大きな混乱とパニックを引き起こすリスクを伴っている。


「これを公表すれば、社会は混乱に陥るだろう。」東海林は、不安げな表情で声を上げた。「パニックが広がれば、誰もがワクチン接種者を恐れ、接種者自身が差別や孤立を受けることになるかもしれない。」


「でも、この事実を隠すわけにはいかない。」中堂が冷静に言い返す。「シェディング現象の影響がさらに広がれば、犠牲者が増えるだけだ。自分たちの健康を守るために、人々には事実を知る権利がある。」


ミコトは二人の議論を聞きながら、窓の外に視線を落とした。UDIラボの未来、そして、レプコンワクチンの真実を暴くことがもたらす社会の影響が、彼女の心を重く押しつぶしていた。決断が彼女たちに求められている。


「ミコト、あなたはどう思う?」神倉所長が、静かな声でミコトに問いかけた。


ミコトは深く息を吸い込んだ。「真実は必ず伝えるべきです。でも、ただ単に報告書を出すだけでは、社会が混乱するのは避けられない。私たちが行うべきことは、このシェディング現象の影響を最小限に抑えるための対策をセットにして公表すること。恐怖を煽るのではなく、冷静な対応ができるように導かなければならないわ。」


「具体的には?」中堂が問い返す。


「まず、シェディング現象が起きている事実と、その原因を説明する。そのうえで、感染対策と同様に、接種者や未接種者がどう安全に生活を続けられるか、そのガイドラインを提示する必要があります。」ミコトは落ち着いた声で続けた。「私たちは恐怖の拡散を防ぎ、冷静な判断を促さなければならない。」


「それでも、恐怖に駆られた人々は過激な行動に走るかもしれない。」東海林が慎重に言った。「接種者が危険視されて、隔離や差別が広がることだってあり得る。」


「それでも進むしかない。」ミコトは毅然と答えた。「これ以上、真実を隠し続ければ、より大きな災厄が待っている。私たちには責任がある。この真実を公表し、可能な限り被害を最小限に抑えることができるのは、私たちだけよ。」


「ミコトの言う通りだ。」神倉所長も賛同した。「真実を隠すことが最善の選択ではない。だからこそ、我々が冷静に事態を管理し、人々に的確な情報と対策を提供する義務がある。」


その言葉を受けて、UDIラボのメンバーたちは静かに頷いた。それぞれが自分たちの役割を理解し、これから始まる闘いに備え始めた。


「公表の準備を進めましょう。」ミコトは立ち上がり、次の一手に向けて動き始めた。「私たちには時間がない。まずは、シェディング現象の危険性と対策を含めた報告書を作成します。それをもとに、メディアへの発表を進めるわ。」


「わかった。」東海林は力強く頷いた。「情報を整理して、分かりやすく伝えられるように資料を作る。」


「俺は、この現象に関する追加のデータを集めておく。」中堂も即座に行動に移る。「社会全体が混乱に陥る前に、できる限りの証拠を集めて、説得力を持たせるんだ。」


メンバー全員がそれぞれの準備に取り掛かる中、UDIラボの中には、新たな覚悟が静かに芽生えていた。彼らが戦おうとしているのは、真実を隠蔽しようとする巨大な力だけでなく、社会全体の恐怖や混乱といった見えない敵でもあった。

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