第10話 シェディング現象の兆候
UDIラボでは、レプコンワクチンの謎を解明するための調査が続いていた。しかし、新たな異常事態が発生し始めていた。レプコンワクチン接種者の周囲にいる人々からも奇妙な症状が報告されるようになっていたのだ。ミコトたちの元に連日寄せられる報告には、頭痛や倦怠感、発熱などの症状があり、さらに一部では免疫系に異常が生じているケースもあった。
「どうして接種者以外の人たちにまで症状が……?」ミコトは眉をひそめ、報告書の束を見つめていた。
「これまでの症例データと照らし合わせても、ワクチンを接種していない人たちの症状は異常だ。」中堂が言葉をつなぐ。「考えられるとすれば、接種者から何らかの形で周囲に影響が及んでいるということか。」
「その何かがシェディング現象……?」東海林が不安そうに呟く。「接種者の体内で自己増殖したワクチンの成分が、呼気や汗を通じて周囲に広がっているということでしょうか?」
「可能性は高い。」ミコトは頷いた。「シェディング現象というのは、感染性物質が接種者の体外に放出されることで、周りの人々にも影響を及ぼす現象のことよ。もしこれがレプコンワクチンによって引き起こされているとしたら……」
ミコトはすぐに動き出した。「まず、接種者の呼気や体液を検査して、有害な物質が含まれているかどうかを確認しましょう。具体的な物質を特定できれば、シェディング現象のメカニズムを解明できるかもしれない。」
ラボ内は一気に緊迫した空気に包まれた。検査用の機器がフル稼働し、接種者のサンプルが次々と解析にかけられる。東海林は電子顕微鏡で呼気の微粒子を観察し、久部は化学分析装置を使ってサンプルの成分を分析する。
数時間後、東海林がモニターを指差した。「これを見てください。接種者の呼気中に、微小な粒子が含まれているのがわかります。この粒子には、レプコンワクチンのmRNAと同様の配列が含まれています。」
「つまり、接種者の呼吸によって、ワクチン由来の物質が外部に放出されているということ?」中堂が驚きを隠せずに言った。
「その通りです。」東海林は続ける。「この粒子はエクソソームに似た構造を持っています。エクソソームというのは、細胞が分泌する小さな膜に包まれた粒子で、さまざまな物質を運ぶことができます。おそらく、レプコンワクチンが体内で増殖する過程で生まれたmRNAが、このエクソソームに取り込まれ、呼気を通じて外部に放出されているのです。」
「では、この放出された粒子が周囲の人々に感染性物質として作用し、症状を引き起こしているのか。」中堂は深刻な表情でつぶやく。「レプコンワクチンがまるでウイルスのように広がり、未接種者にも影響を及ぼしている……。」
「まるで二次感染のようね。」ミコトは冷静に言った。「ワクチン接種者が、他者に無意識のうちに影響を及ぼしている。これが事実だとすれば、社会全体に重大な健康リスクをもたらす可能性があるわ。」
「私たちは、この現象を公表しなければならない。」中堂が強い口調で言う。「しかし、証拠が必要だ。これらの粒子がどのように作用し、周囲の人々に影響を及ぼすかを明らかにしなければならない。」
「そうね。」ミコトは頷いた。「接種者から放出された粒子を実験室で再現し、その影響を検証しましょう。私たちが掴んだこの証拠を、全ての人々に伝えるために。」
ラボ内では、シェディング現象の検証が開始された。彼らは接種者のサンプルから抽出した粒子を使い、その影響を細胞実験で再現することを試みた。ミコトと中堂は慎重に実験を進め、粒子がどのように細胞に作用するかを観察していく。
数日後、実験は驚くべき結果をもたらした。粒子が未接種者の細胞に取り込まれた後、細胞内で急速に異常な変化を引き起こし、免疫反応を暴走させることが確認されたのだ。これは、シェディング現象が現実に起こり得るという決定的な証拠であった。
「これが真実……。」ミコトはモニターに映る細胞の変化を見つめ、言葉を失った。「レプコンワクチンの接種者が、無意識に周囲の人々に影響を与え、感染症のように広がっている……。」
「この結果をどうする?」中堂が尋ねる。「これを公表すれば、社会は混乱に陥るだろう。だが、知られなければ、さらなる被害が広がる。」
「私たちは真実を伝えなければならない。」ミコトは決然と言った。「このシェディング現象が現実に起きていることを知らせ、人々が自分たちの健康を守る手段を取れるようにする。それが私たちの使命よ。」
UDIラボのメンバーたちは、シェディング現象の実態とその危険性を報告書にまとめる準備を始めた。社会全体に警鐘を鳴らすための重要な一歩であると同時に、彼らが直面している闇の一端を照らす光でもあった。
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