第6話 暗闇からの光
血液サンプルを分析している間にもUDIラボには多くの新たな症例が届いており、手がつけられないほどのデータと向き合っていたその夜、東海林の端末に奇妙なメールが届いた。それは「内部告発者」と名乗る者からのものだった。送り主の名前も詳細も一切記載されておらず、ただ一行、目を引く言葉が書かれていた。
「レプコンワクチンの臨床試験データには改ざんがある。真実を見つけ出せ。」
その一文を見た瞬間、東海林の心臓が激しく脈打った。彼女は即座に神倉所長とミコト、中堂にこのメールを報告した。3人の表情が険しくなる。これまで感じていた違和感が、一気に現実味を帯びて押し寄せてくるようだった。
「内部告発……。ということは、ワクチンの中に何か秘密が隠されているということか。」中堂が低く呟く。
「可能性は高いわ。」ミコトは冷静な表情を保ちながらも、どこか不安げな目をしていた。「もし臨床試験データが改ざんされているのなら、ワクチンの効果や安全性に関する情報そのものが操作されていることになる。」
神倉所長はメールの内容に目を凝らし、次に何をすべきかを瞬時に判断した。「この情報を信じるべきだ。だが、これは同時に私たちへの警告でもある。今、ラボは確実に監視されている。」
その言葉に、全員が背筋を伸ばした。彼らは今、ただ単に真実を追い求める科学者ではなく、国家の裏に隠された闇に挑もうとしている者となった。
「まずは、この告発者からの情報がどれだけ信憑性があるか確認する必要があるわ。」ミコトが冷静に指示を出す。「臨床試験データを再検証し、ワクチン開発に関わった関係者の動向を調べる。」
「問題は、データがすでに改ざんされている可能性が高いということだ。」中堂が厳しい口調で続けた。「厚生省が関わっている以上、公式の記録に真実が残っているとは限らない。」
「それでもやるしかない。」神倉は断固とした口調で言った。「この情報が事実であるなら、私たちはそれを証明しなければならない。内部告発者が命をかけて伝えてきたこのメッセージの重さを、無視するわけにはいかない。」
東海林はすぐに動き出した。彼女の手がキーボードを打ち込み、UDIラボのセキュリティを強化する。ラボ内のデータへの不正アクセスが懸念される今、彼女には一刻も早くシステムを強化し、内部データを守らなければならないという使命感があった。
「私たちのデータも狙われる可能性が高いわ。」東海林は焦る気持ちを抑えながら言う。「システムを強化して、外部からのアクセスを遮断する。少しでも時間を稼ぐために。」
一方で、ミコトと中堂はラボ内のデータベースから、レプコンワクチンの臨床試験データのすべてを洗い出し、関連する情報を徹底的に調査し始めた。膨大なデータの海の中から、わずかな矛盾や不自然な点を見つけ出すため、二人の眼差しは鋭く、集中していた。
「見つけた……」ミコトが静かに呟いた。彼女の目が一つのデータポイントに止まる。臨床試験の結果に不自然な数値の変動があった。それは、ワクチン接種後に記録された症例の一部が削除され、代わりに異常なほどポジティブな結果が挿入されていたのだ。
「データが改ざんされている。これが証拠だ。」中堂がその画面に顔を近づけ、息を呑む。「本来ならば記録に残るはずの症例がごっそり消されている。そして、無理やり好意的な結果に書き換えられている。」
「レプコンワクチンの副作用を隠すために、臨床試験の段階でデータを操作した……。」ミコトの言葉には怒りと憤りが滲んでいた。「これが真実なら、犠牲になった人たちは……」
「私たちはこれを公表する必要がある。」神倉がその場に立ち、決意を固める。「厚生省がどう動くかはわからないが、これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない。」
その時、ラボ内の警報が鳴り響いた。東海林が端末に目を向ける。「不正アクセスが試みられている!彼らが動き出した……」
「データを保護する!」ミコトはすぐさま指示を出し、端末を操作して内部データを安全なサーバに転送し始めた。しかし、アクセス試行は瞬く間に増加し、彼らのシステムに圧力をかけ始めた。
「このままじゃ、データが……!」東海林の顔が蒼白になり、必死にシステムを守ろうとする。
「くそっ、これ以上は無理だ……!」中堂が歯を食いしばり、画面を凝視する。
その時、神倉が一歩前に出て、ラボ全体に響く声で叫んだ。「全データをオフラインに移行しろ!内部で守るしかない!」
ミコトはその言葉を聞くや否や、即座にデータの移行を開始する。外部からのアクセスを遮断し、内部の安全なサーバにデータを移す。全員の手が動き、ラボは一瞬の混乱と静寂の中で戦っていた。
数分後、アクセス試行が突然途切れ、警報が止んだ。東海林が息を切らしながら、端末から顔を上げた。「データの移行が完了しました……なんとか持ちこたえた。」
ミコトも大きく息をつき、画面に映し出されたデータの保存状況を確認した。彼らの手元には、告発者が命を懸けて託した真実がまだ残っていた。
「これで、私たちは彼らの手から真実を守り抜いた。」神倉は全員を見渡し、その目には確かな信念が宿っていた。「この情報を持って、次の手に移る。レプコンワクチンの真実を暴くために。」
彼らの戦いは、今、闇の中に一筋の光を見出した。その光はまだかすかで弱々しいものだったが、確かに存在し、彼らの前進を照らしていた。彼らはもう止まらない。真実を求める者として、決して揺るがない。
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