第14話「睾丸スキルの正しい伝え方」

健康フェアから数日が経った。タマオの活動がさらにネットで注目を浴び、掲示板でも「睾丸スキル」についての議論が盛り上がっていた。賛否両論は相変わらずだが、彼に感化された人々が少しずつ現れ始めていた。


リョウは、掲示板を眺めながらため息をつく。「やっぱり話題になってるな、タマオのこと。いい意味でも悪い意味でも……」と呟くと、美沙もスマホを見ながら苦笑いを浮かべた。


「そうね。でも、意外と彼の話に感動してる人もいるみたい」と、美沙は投稿をスクロールしながら言った。(タマオくん、何だかんだで多くの人に影響を与えてるんだ……)


「だが、俺のスキルはまだ十分に伝わっていない……」タマオは真剣な表情でつぶやく。「もっと多くの人に、俺の睾丸スキルの本当の意味をわかってもらうためには、どうすればいいのだろうか……」


リョウは肩をすくめて、「まあ、言葉の使い方を工夫するのが一番だろうな。お前はいつもストレートすぎるんだよ」とアドバイスする。(頼むから、もう少し穏やかにできないかな……)


美沙は、タマオに優しく微笑みかけて言った。「そうね、タマオくん。伝え方を少し変えてみたらどうかな?例えば、睾丸スキルを『自分を信じる力』とか『ポジティブなエネルギー』みたいに表現してみるとか……」と提案する。(タマオくんの思いが伝わるように、もっとわかりやすい言葉で……)


タマオは腕を組んで考え込んだ。「うーむ……確かに、伝え方を変えるのも一つの手かもしれない。しかし、それで俺のスキルの本質が伝わるのだろうか……」


リョウは苦笑しつつ、「伝えるのが目的だろ?まずは相手に分かってもらうことが大事なんじゃないか?」と言い聞かせた。(そうじゃないと、いつまで経っても変な人扱いだぞ……)


その時、美沙のスマホに「自己啓発セミナー」の広告が表示された。「あ、そうだ。タマオくん、自己啓発セミナーに参加してみない?」と美沙は思いついたように提案した。


「自己啓発セミナー?」タマオは眉をひそめた。「俺がそんなものに参加する必要があるのか?」


「うん、きっとタマオくんの話を聞いてくれるいい場所だと思うし、伝え方の練習にもなるかも」と、美沙は優しく説得した。(ここならタマオくんの話がちゃんと伝わるかもしれない)


「よし、わかった!」タマオは勢いよく立ち上がった。「俺の睾丸スキルをさらに磨き、伝え方を学ぶためにそのセミナーに参加してみよう!」


リョウはほっとしながらも、「頼むから、今度は大人しくしてくれよ……」と心の中で祈った。(これ以上トラブルを増やしてくれるなよ……)



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数日後、自己啓発セミナーの会場にタマオ、美沙、リョウの三人は足を運んだ。会場は落ち着いた雰囲気で、参加者たちが熱心にノートを取りながら講師の話に耳を傾けていた。


タマオはその様子を見て感心したように頷く。「ほう、ここにいる者たちは皆、己を高めようとする意識が高いようだな!」


リョウは「まあ、そういう場所だからな。お前もまずは聞くだけにしておけよ……」と釘を刺した。(頼むからいきなり睾丸スキルを語り出すなよ……)


講師が前に立ち、「皆さん、今日は自分の長所をアピールする方法について学びましょう」とセミナーを始めた。「まず、自分の中で一番強いと思う部分を相手に伝えるとき、相手がどう受け取るかを考えることが大事です」


タマオはその言葉に頷き、「なるほど……自分の強さを伝える方法か……」と真剣な顔で考えている。(俺の睾丸スキルをどう伝えるべきか……)


講師が参加者に問いかけた。「では、皆さんの中で、自分の強みを一言で表現できる方はいらっしゃいますか?」


その瞬間、タマオの手が勢いよく上がった。「俺だ!俺に言わせてくれ!」と立ち上がり、会場の視線が一斉にタマオに向けられる。(またか……)リョウは思わず頭を抱えた。


「どうぞ」と講師が促すと、タマオは胸を張り、堂々と語り始めた。「俺の強み、それは……睾丸スキルだ!」


会場内に一瞬の沈黙が訪れた。参加者たちは「こ、睾丸……?」「今、何て言った?」とざわつき始める。(なんだこいつ……!)


講師は一瞬戸惑いながらも冷静さを保ち、「えっと、睾丸スキル……と言いますと、それはどういう……?」と問いかける。(まさか、こんなことを聞くことになるとは……)


「睾丸スキルとは!」とタマオは声を張り上げた。「男の心と体の強さを象徴し、ポジティブなエネルギーを引き出す力だ!それを日々意識することで、全ての困難を乗り越えることができる!」と熱く語る。


参加者たちはドン引きしながらも、どこかタマオの熱意に圧倒されていた。「……え、何それ……?」「すごく真剣に言ってるけど……」


美沙はタマオの後ろで、顔を手で覆っていた。(タマオくん……でも、これがタマオくんらしさなのよね)


講師はタマオの熱意に押されつつ、なんとか軌道修正しようと努力する。「そ、そうですね……自分の中で大事にしているものを伝えるのは確かに重要です。ただ、伝える際には相手が受け入れやすい表現を心がけると、さらに効果的かもしれませんね」


タマオは真剣に聞いて頷く。「なるほど……相手に伝わるような表現か。よし、俺の睾丸スキルを“ポジティブエネルギー”として表現してみるのも良いかもしれんな!」


参加者たちは「え、そういう方向で行くのか……?」「まあ、なんだかんだで前向きな人なのかも」と、少しずつタマオの存在を受け入れ始めていた。


セミナーの最後に、講師がまとめの言葉を述べる。「自分の長所を伝えることは、自己肯定感を高め、周りの人々にもポジティブな影響を与えます。皆さんも、自分の中のエネルギーを大事にして、日々を生き抜いてください」


タマオは大きく頷き、拳を握りしめた。「よし、俺はこのセミナーで学んだことを生かし、睾丸スキルをもっと広めるぞ!」


リョウは頭を抱えながらも、「まあ、前向きになっただけでも進歩だな……」と心の中で呟いた。(頼むから、次こそはもう少し柔らかい表現で……)


美沙はそんなタマオの姿を見て、「タマオくん、少しずつでいいからね。今日はきっと一歩前進だよ」と笑顔で声をかけた。(タマオくんの情熱は伝わってる。それに、これからもっと伝え方を学んでいけるはず)


タマオは美沙の言葉に、照れ臭そうに頭をかきながら「そうだな、美沙。俺は今日、新たな伝え方を学んだ。この勢いで、俺の睾丸スキルを“ポジティブエネルギー”として、世間に伝えていく!」と気合を入れた。


「よし、次は街頭でアンケートを取ってみようか?」とリョウが提案した。タマオはその言葉に目を輝かせ、「おお、それは名案だ!俺の新しい伝え方を試す絶好の機会だな!」と拳を握りしめる。


リョウは内心、「いや、街頭でアンケートとか、また騒動になる気しかしないけど……」と不安を抱えながらも、「まあ、少しずつでも伝え方が良くなっていけば、それが一番だ」と思い直していた。(タマオが前向きに変わろうとしてるんだから、俺たちも手伝ってやらないと)



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その日の帰り道、タマオは道行く人々に声をかける練習をしていた。「こんにちは!あなたのポジティブエネルギーについてお聞きしてもよろしいでしょうか?」と堂々と呼びかける。最初は「え、ポジティブエネルギー?」と戸惑う人も多かったが、タマオの真剣な姿勢に少しずつ足を止める人も現れ始めた。


「あ、あの、ポジティブエネルギーって具体的に何のことですか?」と、勇気を出して聞く女性に対し、タマオはにっこりと笑って答える。「それは、心の中の力だ!例えば、困難に直面したときに踏ん張る力……俺の睾丸スキル……いや、ポジティブエネルギーだ!」


女性は一瞬引きつつも、「あ、ああ……なるほど」と微妙な表情を浮かべてうなずく。(ちょっと変な人だけど、なんだか一生懸命だな……)


それを見ていたリョウは、少しだけ肩の力を抜いた。「なんだかんだで、少しは良くなってきてるんじゃないか……?」と呟く。(この調子なら、騒ぎにならずにすむかもな)


美沙も微笑んでタマオに近寄り、「タマオくん、いい感じよ。最初の説明の部分がだんだん上手くなってきてる」と褒める。(やっぱり、タマオくんには真っ直ぐな情熱がある。それが伝われば、きっと人々に響くはず)


「そうか!」とタマオは笑顔を浮かべ、「俺はもっと自分の言葉で、ポジティブエネルギーを広めていくぞ!」と宣言する。



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一日を終え、3人は夕暮れの公園でベンチに腰掛けた。タマオは今日の出来事を振り返り、「伝え方って本当に難しいな……でも、俺はまだ諦めない。俺のポジティブエネルギーを、いつか全ての人に伝えてみせる!」と力強く言った。


リョウは隣で笑いながら、「お前は本当にタフだな。でも、確かに今日は一歩前進だ。今度は、もう少し具体的な話もできるようにしていこうぜ」と言った。(このまま少しずつでいいから、タマオが変わっていければ)


美沙もタマオに優しく微笑みかけ、「タマオくんのエネルギーは本当に特別だから。それを伝えるために、私たちも一緒に考えていこう」と励ました。(タマオくんの情熱があれば、きっと道は開けるはず)


タマオは深く頷き、「うん、ありがとう。俺はこの睾丸スキル……いや、ポジティブエネルギーを広めるために、もっと自分を高めていく!」と力強く宣言した。



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夕日が地平線に沈み、街が夜の帳に包まれていく。タマオの決意は、今まで以上に強く、周りの人々に少しずつ影響を与えていく。彼の道のりはまだまだ続くが、その歩みは確実に変化をもたらし始めていた。


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