第12話「街頭インタビューで大暴走!」

ネットでの話題に触発され、タマオは自ら「睾丸スキル」を広めるために街へと繰り出す。リョウは「絶対にやめておけ」と何度も忠告したが、タマオの熱意は止まらなかった。今回は街頭インタビューに飛び込み、直接人々に問いかけることで「睾丸スキル」の真髄を伝えようという魂胆だった。


「俺の睾丸スキルを知りたい者たちは必ずいる!」とタマオは胸を張り、リョウの忠告など気にも留めていない。


「頼むから、普通の人にはやめてくれよ……」リョウはタマオの後ろを追いかけながらため息をつく。


その時、タマオの目の前にテレビ局の街頭インタビューの姿が見えた。レポーターとカメラマンが通行人にマイクを向けている。


「ちょうどいい!ここで俺の睾丸スキルを広めるぞ!」とタマオは勢いよく突撃していった。リョウは「おい、待て!」と慌てて追いかけるが、間に合わない。


タマオはレポーターの前に堂々と立ち、「インタビューなら俺にさせてくれ!」と強引に自己主張を始める。レポーターは一瞬驚いたが、予想外の展開に興味を持ち、マイクを差し出す。


「では……今、何か頑張っていることがあれば教えてください。」レポーターは少し警戒しながら尋ねる。


タマオは待っていましたと言わんばかりに胸を張り、「俺は今、睾丸スキルの素晴らしさを広めるために活動している!」と宣言した。


その瞬間、リョウとレポーター、カメラマン、周囲にいた人々の表情が一斉に凍りついた。


「え、睾丸……スキル……?」レポーターは言葉を詰まらせ、マイクを持つ手が一瞬震えた。(これ、生放送で放送して大丈夫か……?)


リョウは「うわぁ、やっぱりやりやがった……」と頭を抱え、急いでタマオの横に立つ。「すみません、彼、ちょっと変なこと言ってるだけなんで!」と必死にフォローを入れる。


だが、タマオはリョウの制止を無視し、さらなる勢いで語り出した。「そうだ、睾丸スキルとは、男の力の源!心の奥底から湧き上がるエネルギーを具現化する力だ!」


レポーターはどう反応していいか分からず、「そ、そうなんですか……?」ととりあえず話を続けるが、内心は(絶対放送事故になるやつだこれ……)と焦っている。


「具体的には、どんなことをされているんですか?」レポーターは恐る恐る質問を続ける。彼の顔には不安がありありと浮かんでいた。


タマオはその問いに待ってましたとばかりに顔を輝かせ、「いい質問だ!例えば、俺が温泉で行った『湯の波動』!あれは俺の睾丸スキルを使って、湯の中に波動を広げ、周囲に力を与える儀式だ!」と堂々と語り始める。そして、説明に熱が入ったタマオは突然、腰をくいっと突き出しながら手を広げて見せた。


「こうやってだな、湯に自分のエネルギーを注ぎ込み、湯の波動を伝えるんだ!これこそが俺の睾丸スキルの真髄、『湯の波動』なのだ!」と高らかに宣言した。


レポーターはその動作に目を奪われ、「え……つまり、何を……」と、言葉を失う。視聴者に向けて説明しなければならない使命感があるものの、どう話を切り出せばいいのか全く見当がつかない。(これ、絶対に後で上司に怒られるやつだ……)


カメラマンはレポーターに向かって無言の視線を送り、(早くこの状況を止めてくれ!)と目で訴えるが、レポーターもタマオの勢いに完全に飲まれてしまっている。


周囲の通行人たちも立ち止まり、タマオの一挙手一投足に注目している。誰もが「一体何の話をしているのか……?」と頭を抱えつつも、目を離せない。そして、彼らの中にはクスクスと笑い始める者も現れる。



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一方その頃、家でテレビを観ていた美沙は、偶然この生放送を目撃していた。画面に映ったタマオを見て、「えっ!?ちょっと、タマオくんがテレビに出てるの!?」と驚いた瞬間、飲んでいたお茶を思わず吹き出してしまった。


「ぶはっ……!」美沙はお茶を口元からぶちまけ、テーブルが濡れるのも気にせず、テレビ画面に釘付けになる。「ちょ、ちょっと待って……タマオくん、何やってるの!?」


画面の中でタマオが腰をくいっと突き出し、「湯の波動!」と熱く語る様子に、美沙はもう一度吹き出しそうになる。「も、もう……これ絶対に生放送で流しちゃいけないやつじゃない……!」


必死に笑いをこらえつつ、美沙は急いでスマホを取り出し、リョウに電話をかける。何度かコール音が鳴った後、リョウの声が聞こえてきた。


「もしもし、美沙?」


『リョウくん、タマオくんがテレビに出てるんだけど……今、何やってるの?』美沙の声は笑いを必死にこらえながらも、どこか心配そうだ。


「……だよな。いや、俺も止めたんだけど、こいつ全然聞かなくてさ……」リョウは汗をかきながら、美沙に現状を説明する。「今、街頭インタビューで『睾丸スキル』とか『湯の波動』とか、もうめちゃくちゃだ……」


『……ふふっ……』美沙の笑い声が電話越しに響く。『ごめんね、ちょっと笑っちゃった……でも、タマオくんらしいわね。』美沙は思わず顔を押さえ、笑いが止まらない。


「いやいや、笑ってる場合じゃないから!」とリョウは焦りつつ、「どうやって止めればいいんだよ、この状況……」と訴える。


『わかったわ。じゃあ、私が何とかするから、リョウくんはタマオくんを落ち着かせてくれる?』美沙は少し声を潜め、真剣な口調で言った。


「……頼む!」リョウはスマホを切り、タマオに駆け寄る。「タマオ、いい加減にしろ!これ以上はヤバいから!」


タマオはその言葉に一瞬戸惑うが、周りの注目を浴びていることに気づき、「ふむ、今日はここまでとしておくか」と、ようやくレポーターに一礼した。


「ありがとうございました……」とレポーターは半ば呆然とした表情でマイクを引っ込め、周囲のスタッフと顔を見合わせる。



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この一件の後、タマオの姿はネット上でさらに話題となり、「街で見かけた睾丸スキル男、再び大暴れ!」という記事が瞬く間に拡散された。そして、タマオの奇行は伝説としてネットの隅々まで広がり、ついには彼の言動を面白がる者たちからも注目を集めるようになった。


リョウはその日の夜、美沙に電話で状況を報告することにした。「いやぁ、美沙、今日のタマオには本当に参ったよ……」


『ふふっ、なんとなく想像つくわ。でも、タマオくん、やっぱりどこか憎めないところがあるのよね……』美沙はくすくす笑いながらも、少し心配そうな声で続けた。『でも、今後のことも考えると、彼に何かいいアドバイスをしてあげられないかしら?』


「そうだな……でも、あいつ、話を聞くどころか突っ走るばっかりでさ。」リョウはため息をつき、タマオの顔を思い浮かべる。「けど、何とかしてあいつがもう少し世間と折り合いをつけられるようになってくれたらいいんだけどな……」


その頃、タマオは自分の部屋でじっと考え込んでいた。「睾丸スキルがこんなにも世間に理解されないとは……」彼は手を組んで深くうなずく。「やはり、俺の説明の仕方が悪いのか?それとも、もっと別のアプローチが必要なのか……?」



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翌朝、タマオとリョウは街に出かけた。今回の騒動でまたタマオが何かしでかさないかと心配するリョウは、彼をじっと見張っていた。


「さて、今日はどこで睾丸スキルを広めるか……」と意気込むタマオ。リョウは肩をすくめながらも、「だからさ、もっと普通に会話してくれよ」と一言。しかし、タマオの耳には届いていないようだった。


その時、タマオのスマホが鳴った。画面を見ると、「美沙」という名前が表示されている。「おお、美沙か!」とタマオは満面の笑みで電話に出た。


『タマオくん、おはよう。昨日のインタビュー、すごかったわね……』美沙の声は優しくも、どこかたしなめるような響きを持っている。


「ああ、見てくれたのか!睾丸スキルの素晴らしさを伝えたぞ!」とタマオは得意気に答える。


『ふふ、そうね。でも、タマオくん、もう少し違う伝え方も考えてみたらどうかしら?』美沙の口調は柔らかいが、鋭い指摘を含んでいた。


「ほう、違う伝え方か……」タマオは一瞬考え込む。「確かに、湯の波動を理解するにはまだ早すぎる者たちもいるかもしれん……」


『うん、そう。だから、たとえば睾丸スキルについて話すとき、もっと“内なる力”とか“自分を信じる心”みたいな言い方にしてみたらどうかしら?』美沙は提案するが、タマオにはあまり響いていないようだ。


「なるほど、内なる力……いや、しかし、それでは俺の睾丸スキルの本質が伝わらない気がするぞ!」タマオは真剣に返す。


『そ、そう……(やっぱり、ダメか……)』と美沙は苦笑するが、タマオの情熱にはどこか感心してしまう自分がいた。



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その後もタマオは街中で睾丸スキルの普及活動を続けたが、その熱心な姿と勢いのある発言は、もはや周囲の人々にとって一種のエンターテインメントとなりつつあった。彼の言動を面白がって写真を撮る人、SNSで実況する人が増えていく。


「街に新たな風が吹いている。そう、それが俺の睾丸スキルだ!」と叫ぶタマオの姿は、どこかコミカルで、見ている人々に笑いと驚きをもたらしていた。


リョウはその姿を見て、頭を抱えながらも少し笑みを浮かべた。「ほんと、タマオって奴は……でも、あいつの情熱って不思議と人を惹きつけるんだよな。」


美沙もまた、リョウからの報告を聞いて苦笑しながらタマオの姿を想像していた。『タマオくん、きっとこれからもあの調子で突き進んでいくんだろうな……』と彼女は心の中で思い、そっと笑みを浮かべた。


タマオの「睾丸スキル」の旅はまだまだ続く。彼がいつかその力を、真に世の中に受け入れられる形で伝える日が来るのか、それともこのまま突き進むのか――その答えはまだ誰にもわからない。


だが、彼の情熱と勢いだけは確かであり、周囲の人々に笑いと驚き、そして少しの感動をもたらしていた。

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