第9話「睾丸スキルと町内会の祭り」

タマオは再び自分の「睾丸スキル」を世に広めるための機会を探していた。そんな彼に、リョウが次に提案したのは、彼の住む町内会で行われる年に一度の大きな祭りだった。露店やゲーム、子供たちの遊び場など、多くの人々が集まるこのイベントは、タマオにとってまたとないチャンスに見えた。


「タマオ、今回は町内会の祭りの準備を手伝ってくれ。普通にやれば、みんなにお前の真面目なところが伝わるからさ。もちろん、睾丸スキルの話は厳禁だぞ!」とリョウは釘を刺す。


「わかった、リョウ!」タマオは力強く頷いたが、その目はどこかギラギラしている。「だが、いざというときには俺の睾丸スキルが必要になるかもしれない。その時は躊躇なく発揮する!」


「はぁ……そういうことじゃないんだよな……」とリョウはため息をつきつつも、タマオが何かしらやらかすのではないかという予感を抱いていた。



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その日の朝、町内会のメンバーたちは、祭りの準備で大忙しだった。テントの設置、机の組み立て、飾り付けなど、様々な作業が目白押しだ。タマオは他のボランティアスタッフたちと一緒に、大きなテントを立てる作業に取りかかった。


「よし、ここで俺の睾丸スキルの力を見せるときだな!」タマオは力強く声をあげ、テントのポールを片手で持ち上げた。周りのボランティアたちはその力に驚きつつも、彼の発言に戸惑っていた。


「え、今……睾丸スキルって言った?」と、近くで作業していた女性スタッフが思わず聞き返す。(まさか、そんなことをここで言うなんて……。)


タマオは女性スタッフの反応に気付くと、にっこりと微笑んだ。「そうだ!睾丸スキルとは男の誇り、そして力の源だ!このスキルがあれば、重いものも軽々と持ち上げられるんだ!」


その説明を聞いた女性スタッフは、一瞬固まった後、赤面して視線を逸らした。(うそでしょ……?何この人、本気でそんなこと言ってるの!?)


リョウがすぐに駆け寄り、タマオを引き止める。「おい、やめろって!祭りの準備で睾丸の話をするな!」


しかし、タマオは全く気にしない様子で、「何を言う、リョウ!俺の睾丸スキルを活かさずしてどうする!」と自信満々に返す。


「だからそれを言うなって……!」リョウは必死に説得を試みるが、タマオの勢いは止まらない。



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次に、タマオは子供たちが楽しむためのゲームコーナーの準備に取り掛かった。輪投げの的を設置し、景品を並べる作業だ。タマオは輪投げの的をまっすぐに立てると、ふと子供たちの前で口を開いた。


「よし、子供たち!睾丸スキルで輪投げの極意を教えてやろう!」


子供たちは興味津々でタマオを見つめる。「おじさん、睾丸スキルって何?」と、一人の少年が無邪気に質問する。


タマオはその質問に喜び、膝をついて子供の目線に合わせた。「睾丸スキルとは、男の力と勇気の源だ!お前たちも輪投げに挑むときは、このスキルを感じてみろ。そうすれば、どんな的にも必ず輪を入れることができる!」


その瞬間、近くで聞いていた母親たちが一斉に顔を赤くし、リョウに視線を投げかける。(え、睾丸スキル!?この人、子供たちの前で何言ってるの!?)


リョウは顔を押さえて子供たちの方に駆け寄り、「いやいや、それはね、ただの……なんだ……勇気っていうか……元気のことだから!」と、必死にフォローを入れる。


しかし、タマオは止まらない。「いや、違うんだリョウ!これは睾丸スキルそのもの!男の魂を燃やし、困難に立ち向かう力を示すのだ!」


周りの母親たちはその言葉に驚きつつ、困惑の表情を浮かべた。(いやいや、そんな話をここでされたら……!どう反応すればいいの?)


美沙がリョウの後ろから出てきて、タマオの肩を掴む。「ねえ、タマオさん、お願いだから子供たちの前で睾丸スキルの話をしないで!」と半ば強引に引っ張り、彼をゲームコーナーの裏へ連れ出した。



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「タマオさん、お願いだから子供たちの前で睾丸スキルの話をしないで!」美沙は真剣な顔でタマオに訴えた。(いくらなんでも子供たちには刺激が強すぎるわ……!)


「しかし美沙、睾丸スキルこそが……!」と、タマオが何かを言いかけるが、美沙は勢いよく手を振って止めた。


「それでもダメなの!みんながドン引きしてるの、気づいてないの?」美沙は周りを指さしながら、小声で言い聞かせる。(この人、どうしてこういう時だけ無駄に真剣なのかしら……)


タマオはしばらく考え込み、やがて深呼吸をした。「うむ……わかった、美沙。俺が少し言いすぎたかもしれない。だが、俺の睾丸スキルを伝えずして、この祭りを成功させることはできない!」


リョウは頭を抱えながら、「そういうのは家の中でやってくれ……!」と心の中で叫びつつ、「じゃあ、せめて睾丸スキルの言い方を変えるとか、もっと違う表現にするとかさ……!」と提案した。


「ふむ……」タマオはしばらく考えた後、ふいに顔を上げた。「そうだ!言葉ではなく仕草で示せばいいのではないか?」


リョウと美沙は一瞬、彼の提案に耳を疑った。「え、仕草で……?どういうこと?」美沙が不安げに尋ねる。(まさか、また何か変なことをするつもりなの……?)


「言葉で説明すると誤解を招くのだ!」タマオは真剣な表情で続ける。「だから、睾丸スキルを体の動きで表現すれば、皆にその真髄が伝わるに違いない!」


リョウは頭を抱えながら、「お前、具体的にどうやって表現するつもりなんだよ……?」と、少しだけ興味を持って尋ねた。


「こうだ!」タマオは胸を張り、腰を低く落とし、両手で拳を握りしめた。そして、力強く体をひねるような動きをしてから、腕を高く突き上げた。「この動きが、睾丸スキルの力を象徴しているのだ!」


その場で彼の「睾丸スキル」を表現する動きを見て、美沙は思わず顔を覆い、リョウは目を見開いた。


「こ……これは……」美沙は呆然としながらも、吹き出しそうになるのをこらえている。

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(いや、何よこれ……まさか本気でこんなポーズを考えたわけ?)美沙は顔を覆いながらも、笑いをこらえていた。リョウはそのポーズに呆れ果て、思わず頭を抱える。


「お前、仕草で示すってのはそういうことじゃないだろ……!」リョウがツッコミを入れると、タマオは胸を張り、真剣な表情で言った。


「いや、これこそが睾丸スキルの本質だ!力と気合いを体全体で示すことで、相手にその力強さを伝えられるはずだ!」


美沙は頭を抱えながら、「でも、その動きはちょっと……何か他の人に誤解されるんじゃない?」と指摘する。(こんなポーズ、普通の人に見せたら何考えてるかわからなくなるわよ……)


「それも考えた!」タマオは急に顔を輝かせ、美沙の手を握った。「だから、俺の睾丸スキルが本物だと確かめるために、美沙、お前が俺の動きに共感してみるんだ!」


「え、ええ!?」美沙は急に握られた手に驚き、何を言われたのか一瞬理解できなかった。(ちょっと、何言い出してるの!?この人、全然空気読んでない!)


タマオはそのまま美沙の手を引き、自分の胸元に持っていこうとする。「さあ、美沙、俺の睾丸スキルが込められたこの動きを感じてくれ!この動きに秘められた力を分かってもらうんだ!」


美沙は真っ赤になりながらも、慌ててタマオの手を振りほどいた。「いや、だからそういうことじゃなくて!タマオさん、それは普通にアウトだから!」と、半ば叫ぶようにして止めた。(この人、どこまで本気なの!?ほんとに困る……!)


リョウも慌てて割り込む。「おい、タマオ!やめろって!お前、やりすぎだ!」と、タマオを引き離すように引っ張る。「わかった、もう仕草とか考えるのやめよう。無理だ、それは絶対に無理だ!」


タマオは少し不満げな顔をしていたが、美沙とリョウの必死の反応を見て、しばらく考え込む。「むむ……確かに、少し強引だったかもしれない。しかし、俺の睾丸スキルを伝えずにどうやって皆に理解してもらえば……」


リョウは肩をすくめながらため息をついた。「いや、そもそも理解してもらう必要があるかどうかが問題なんだよ……」と、苦笑いを浮かべる。(こいつの勢いには毎度参るけど、周りの人のためにもう少し抑えてほしいんだよな……)


美沙もようやく息を整え、「とにかく、タマオさん。祭りの場では普通に手伝ってくれればそれでいいの。睾丸スキルを話題にしないだけで、タマオさんの良さが伝わるから!」と優しく諭した。(ほんと、どうしてこう極端なのかしら……でも、それもタマオさんらしいってことなんだけど……)



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しばらくして、タマオはようやく「睾丸スキル」を話題にするのを控えることに同意した。そして、祭りの準備に戻ったタマオは、仕草での表現も控えつつ、なんとか普通に振る舞うことにした。周りの町内会メンバーは、最初はタマオの奇行に困惑していたが、彼の一生懸命な姿に次第に温かい視線を向けるようになった。


夕方、祭りが無事に始まると、タマオは子供たちに輪投げのコツを伝授し、笑顔で接する姿が見られた。リョウと美沙は、ようやくタマオが祭りを楽しんでいる様子に安堵した。


「今回は……何とか無事に終わりそうだな。」リョウがポツリとつぶやくと、美沙も笑いながら頷いた。「まあね。でも、タマオさんの熱意だけは伝わったと思うわ。」


タマオは祭りの賑わいを見つめながら、「よし、睾丸スキルを控えめにしても、この祭りを盛り上げられた!」と満足げに頷いた。


リョウはそんなタマオの肩を叩き、「まあ、これでもう少し言葉を選ぶってことを覚えてくれれば……」と笑う。


タマオは頷きながら、「次はさらに新たな表現を考えるとしよう!」と再びやる気に満ちた表情を浮かべた。


美沙はその様子に苦笑しつつも、「まあ、また新しい悩みが出てきそうだけど……今日はこれでよかったと思うわ」とつぶやいた。(でも、タマオさんなりに頑張ってくれてるし、少しずつ成長してるのかも……)


タマオの冒険はまだまだ続く。そして、彼の睾丸スキルが真に理解される日は来るのだろうか……。

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