雷電児やってくる
我社保
第1話 花岡龍太郎
うとうとしていたところから察するに、この
「おい! 龍太郎! テメエまた暇になったってんで昼寝してたろ!」
「あちゃあ、ばれちゃってたか、すんません。おやっさん」
「船長と呼べ!」
魔法蒸気の機関ではたらく船は、エンジンを止めると「ペププ」というまぬけな音を出すから、船乗りからはマヌケ船と呼ばれていた。
龍太郎はこの鋼貫から汽車を使えばそれほど遠くない
そして、龍太郎は幸三郎を「おやっさん」と言って慕っていた。
「サボるんじゃねーや」
「へへへ。そいで、おやっさん。鋼貫に帰ってきたから俺も休暇をとっても良いでしょ」
「甲板を掃除しておけ」
「了解!」
マヌケ船、クロアント号の甲板を箒で掃いて雑巾をかけると、バケツの透明な水は我先にと濁っていく。水を何度か変えて、また雑巾をかけて、綺麗にすると、船から降りる。事務所の方まで行って、葉巻をふかせている幸三郎に「お休み頂きまーす」と言って出ていく。
「花岡くん、またビリビリさせちゃって」
事務の美女カリオは言う。
「世にも珍しい【雷】の魔法使いだってのに……」
この世界には魔力という物がある。
魔力は血球と血漿に加えてゾーニウムという物質が混ざり合った「人体に存在する第三の液体」で、ゾーニウムには属性がある。【炎】【水】【土】という3属性が普遍的なもので、たいていの人間はその魔力を持つ。幸三郎は【土】でカリオは【水】を扱う。
その中で、【雷】と【風】は珍しく、100万人にひとりであるらしい。
雷属性の主な特徴といえば身体能力。
脚が速くて力持ち。
「随分と特別感がねぇガキだよ、あいつは」
「ふふ、彼らしいじゃないですか」
「そうかな」
花岡龍太郎はお気楽な奴だった。
ノホホンとしていて、目を離せばぼけーっとしているような男。
色恋沙汰の免疫がなくて、他の社員がそういう話題で盛り上がっていると、顔を真っ赤にして煙草で気を紛らわせようとする。ドジな奴で、今日も何回かバケツの水をひっくり返したし、皿を持たせれば必ずと言っていい程高確率で割ってしまう。何もないところで転ぶ。そういう人間だった。頭の出来もあまり良くなく、勉強が出来なかった。
「ヤビナがお子さん連れに人気なのは彼のキャラクターあってこそ! 彼は子供に好かれますからねえ、保育士とか向いてるんじゃないかと思うんだよなあ」
「馬鹿おめぇ。あいつの好かれるからくりってのは『ぼく・わたしが居なきゃこの大人はてんでダメだ!』って思われるからさ。そりゃまあ、人柄の良さもあるだろうが……」
「1週間は彼が居ないと思うとちょっと寂しいですね」
ふと、幸三郎は思う。
(あいつ、駅まで辿り着けているだろうか)
「すまん、ちょっと出てくる」
「はーい。いってらっしゃーい」
雷電児やってくる 我社保 @zero_sugar
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雷電児やってくるの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます