第3話

ここに来るまで僕は洋子の存在を知らなかった。長久手の小学校に来る 用事もなかったし、放課後支援学級の補助教員として長久手の小学校と関わったこともなかった。今までの人生の中で ようこのように僕に関わってきた子供が全くいなかったわけではない。たださすがに 小学校4年生は初めてのことだった。今までの相手はせいぜい 中学生だった。まさか 小学生と関わることになるとは思わなかった。それに そういうことをしてくる 中学生は中学生なりにあるタイプがあった。いや、しかし よくよく思い出してみるとあるようで タイプなんかなかった。あらゆる種類 あらゆる種類の子供がそういう傾向を持っていた。そういうことをするのはある種類の特別な子供ではなかった。どんな子供の中にでも それはあった。そんなことをするのが特別な特に変わった子だけだったらどんなに気が楽だろう。 だがそういうことをしてくるのは全ての子供の中にそういう傾向があった。だからようこは特別な子供ではない。あらゆる 子供がその可能性を持っていた。特別じゃないからこそ本当に厄介だった。防ぎようがなかった。だから これは 特別なことじゃなくて ごくごく普通のことなんだ。この世に生まれてきたこと に感謝し 生き生きと生きていれば 男女 子供 大人に関わらず 人との関わりは自然に発生する。人と全く関わりなく生きていくことの方が不自然で普通ではない。だから人と事前に関わろうとする彼女たちの方が自然なんだろう。だから特に変わっているわけでもおかしなわけでもないんだ。身近にいる人間に興味を持ち 関心を持って好きになったり嫌いになったりしながら生きているのが自然というものだ。そこには中学生だから 小学生だからという 区切りはない。どんな人間と関わり合っていくのかは決められていないし自由で全く問題ない。そこにある条件である場合はだめだという区切りを置こうとする方が不自然で間違っているのかもしれない。だから 洋子達がやろうとしていることはどこにも文句のつけようがない。だから問題があるのは洋子たちではなく 僕の方なのかもしれない。いつも僕は注意していた 厄介なことが起こる前にそれを避けようとしていた。僕はそうやって生きてきた。でも もし何一つ 避けないで生きてきたとしたら 僕の人生は今とは全く 違っていたのかもしれない。


僕は間違いなく人を誘うより断ってきたことの方が多い。もっと人生を広げたいと思いながら いつも僕は断ることの方が多かった。せっかく誘ってくれるのに断ってしまうなんて もしかしたら僕は こういう人生を自分で作り上げてしまったのかもしれない。静かで穏やかではあるがパッとしない僕の人生。この人生をこうしてきたのは運命でも何でもない僕自身だ。

変化を望みながら変化することを嫌っていた。どんどん新しいことを求め続けていく洋子のような子供たちと何という違いだろう。新しいことを望みながら全てを止めてしまっているのは僕自身だった。僕はずっとそうだった。子供の頃も中学生や高校生になってからも、社会人になってからもずっとそうだった。いろんなとこでいろんな人から誘われながら いつもずっと断ってきた。それなのに 自分ではいつも新しい変化を求めていた。自分で断っておいて新しい変化も何もあるものじゃない。僕はこれからどうしたらいいんだろう。少なくとも ここで変えた方が面白いかもしれない。いつも だったらやめておくのにその逆 の やめないでおくそうしたことをやってみるのも面白いかもしれない。面白いかもしれないと言いながら結局僕はいつも何もしないでいた ずっと断ってばかりだ。一度くらい 試しに誘ってくる人たちの言う通りにしてみようか しらと 思ったりもするでも僕は結局考えて今までと同じようにしてしまうんだろうな。これが 僕が僕であることなのかもしれない。

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