第4話
「Y先生加藤さんって方からお電話ですよ。」
「加藤?」
「加藤裕子さんです。」
加藤裕子 と言われても全く覚えがなかった。仕方なく電話に出ると裕子からだった。昨日は授業中にいきなり 教室に入ってきたくせに、今日は一応電話をかけてきたのか。僕は裕子が苦手だった。卒業式も終わって塾の方も辞めたはずなのにそんなことには関係なくやってくる。やってきた裕子を見て僕は驚いた。「何で金髪 なんだよ。それにその男は誰だ?」
「彼氏だよ 最近付き合ってんだ。」
「どこの誰と付き合おうが勝手だけどなんで塾に来るんだよ。」
「いいじゃん 先生にも合わせてあげようかなと思って。」
全てがそうだった 全てが 裕子のペースだった。僕のことは全く関係ない。卒業と同時に辞めたはずの学習塾に彼氏と一緒に来るなんてここは デートスポットか勘弁してほしい。いくら そう言っても彼女のペースは変わらなかった。次の日には また学習塾の事務に電話してきて僕を呼び出す。
「今藤が丘の飲み屋にいるんだけど。 先生して遊びに来てくんない?」
「どういうことだよ。」
「バイトだよ バイト。」
「バイドって何でバイトって」
「そういう店なだよ。」
「そういう飲み屋ってどういうことだよ?」
「電話して呼ぶんだよ。」
「飲み屋でバイトを始めたって、この間まで 中学生行ってたのに」
「先輩が紹介してくれたんだよ いいバイトがあるからって。」
「高校生になってすぐ飲み屋でバイトを始めて俺に客引きの電話をしてきたわけだ。」
勘弁してほしいよ。この前は塾の教室に彼氏と一緒に現れて教室にいた生徒たちはみんな一言も口を聞かなかった。 いきなり現れた金髪の兄ちゃんと姉ちゃんに驚いて声も出なかったんだろう。僕は後で塾長に呼ばれてたっぷり話を聞かされた。もう二度と卒業した生徒を授業中 教室に入らないようにしてくれと言われた。あの子は塾にいた頃も大変だったけどやめてからもこんなに大変だとは思わなかった 本当に恐ろしい生徒だ。僕はずっと裕子に注意していた。とにかく必要最小限しかあの娘とは関わらないと決めていた。やっと 卒業していなくなったと思ったら授業中でも関係なく 友達を連れて帰ってくるなんて 想定外だった裕子については全てが想定外だった。高校生になったと思ったら途端に 飲み屋でバイトだなんて 勘弁して欲しい 本当にもうこれ以上関わりにならないでほしい お願いだからやめてほしい 僕は時空 やめてからもゆうこに何度か呼び出された。中学校の教え子に夜の街の飲み屋に呼び出されるなんて考えたこともなかった。とにかくあの子は全てが 想定外だった もう二度とあんな目には会いたくなかった。
伊藤洋子は裕子ということは全く性格といい年齢も何もかも違っていたが、理屈ではない何かが似ている気がした。理屈というよりも 力関係とでも言ったらいいのかそういったところで 伊藤洋子は似ていた。加藤裕子はヤンキーで金髪で男癖が悪くて 一見 どこも伊藤洋子と は似ていない。だが何か 理屈では言い表せない 何かが似ていた。僕は洋子も裕子も苦手だった。2人は一見どこも似ていなくてぜんぜん違うが、2人とも似ていた。2人共僕の弱みに付け込んで攻めてくるところだ。
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