第9話 勇者の資格を超えた絆

解放された村人たちは

ザラトスが消え去ったのを確認すると

安堵の表情を浮かべながら2人に駆け寄ってきた。



彼らの中には

治療の技術を持つ者もおり

倒れたエリシアのもとに急いで駆けつけた。




「エリシア様、大丈夫ですか?」




村人の一人が治療魔法を施し

エリシアの深い傷から流れる血を止めてくれた。



彼らの温かい魔力が

エリシアの体を包み込み

彼女の苦痛を少しずつ和らげていく。





「ありがとう……」



エリシアは感謝の言葉を口にしながら

自身もかすかに動く手を胸に置き

自己回復の魔法を発動させた。



青白い光が彼女の手から広がり

傷ついた体をさらに癒していく。



「私も回復魔法が使えるから」


彼女は微笑みを浮かべながら

回復する力を感じ取り

再び立ち上がる力を取り戻していた。



村人たちの温かい支えと自らの魔法で

エリシアは少しずつ元気を取り戻していった。




エリシアの回復が終わり

傷が完全に癒えると

彼女は安堵の息をついた。



立ち上がったエリシアの姿を見た村人たちは

喜びの声を上げながら彼女の周りに集まった。



そして

彼らの視線は『にゅめょりと』に向かい

その場はさらなる歓喜に包まれた。



エリシアは『にゅめょりと』を見つめて


「助けてに来てくれてありがとう

本当にかっこよかったよ」



『にゅめょりと』は綺麗に成長したエリシアのことを見て

顔を赤くした。


「あ、いや……当然のことをしたまでで……」



「『にゅめょりと』……8年ぶりね」



エリシアは感慨深げに彼を見つめ

その瞳に感謝と誇りが宿っていた。




彼女の一言を皮切りに

村人たちも次々と口を開き

彼の勇敢な行動を称賛した。



「勇者が戻ってきた!」



「勇者『にゅめょりと』

あなたのおかげで私たちは救われた!」



村人たちは涙を流し

勇者の帰還を心から祝福した。



その声は洞窟の中でこだまし

まるで長年の苦難が終わったかのような解放感が広がっていた。



『にゅめょりと』は少し照れながらも

村人たちの喜びを静かに受け止め

エリシアと共にその場を見守っていた。



『にゅめょりと』は

村人たちの歓声の中で

どこか落ち着かない様子だった。



喜びに包まれる人々の顔を見渡し

胸に押し寄せる違和感が拭えなかった。



彼は深く息をつき

意を決して口を開いた。



「……みんな

俺は……勇者じゃなくなったんだ」



その言葉に

村人たちの笑顔が一瞬止まり

静まり返った。



『にゅめょりと』は

自分の心の中にある葛藤を抑えきれず

続けた。




「8年前

俺は勇者として戦っていたけど……今はもう

そのその資格がない


だから

本当は……エリシアやみんなの顔を合わせる資格なんてないんだ」



その声には

自らの無力さへの悔しさが滲んでいた。



彼の言葉を聞いた村人たちは

困惑した表情を浮かべ

エリシアも一瞬驚きに目を見開いた。



しかし

すぐに彼女は強い瞳で『にゅめょりと』を見つめ

静かに言葉を返した。



「そんなことないよ

にゅめょりと」



エリシアは一歩彼に近づき

その手を優しく握りしめた。



「今こうして

私たちを助けてくれたのは誰?

あなたの力で村人たちは救われた



勇者かどうかなんて関係ない

あなたは変わらず私たちの大切な仲間よ」



彼女の言葉には力強い確信が込められており

村人たちもそれに頷いた。



『にゅめょりと』はその言葉を聞きながら

心の中で徐々に救われる思いを感じた。




ザラトスとの激闘が終わり

解放された村人たちは安堵の表情を浮かべていた。


しばらくすると

王国の兵士たちが現れ

村人たちの安全を確保するために現場の整理を始めた。



「村人たちは彼らが保護してくれるわ」


とエリシアは優しく微笑みながら言った。



『にゅめょりと』は黙って頷き

エリシアの方を見た。



彼女は少し疲れた表情を見せながらも

微笑みを浮かべて彼に言った。



「グリーンフェルデ王国はちょっと遠いけど……私たち

2人で一緒に帰りましょう?

あなたとたくさんお話しもしたいし」



彼女の言葉には

安堵と信頼が込められていた。


「ああ、いいよ」




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