第6話 虚無に抗う刃

「私の名はザラトス


魔王アザゼル様に仕える

『アビサル・ヴァンガード』の一柱だ」


その名前を聞いた瞬間

エリシアの心に戦慄が走った。





彼女の知る歴史でも

『アビサル・ヴァンガード』の名は

破滅の前兆として語り継がれていた。





「ここまで辿り着いたお前を

無視するわけにはいかない。




だが

お前にはまだ試練が残っている……

それを超えられれば

次に進むことを許してやろう」



仮面越しの目は何も映していないかのように冷酷で

まるでエリシアの存在すら無意味なものと見なしているかのようだった。






エリシアは剣を握りしめ

一瞬の隙も見逃すまいと気を張った。






「さあエリシア


虚無の中で静かに眠ってもらおう」



その言葉と共に

ザラトスの周囲の空間が歪み

虚無のエネルギーが一気に放出される。





洞窟全体が闇に包まれ

視界すらも奪われる中

エリシアは決して退かない決意で彼と対峙した。






エリシアは瞬時に判断し

ザラトスに向かって斬りかかった。




その動きは風のように素早く

剣に込められた魔力が彼女の全力を物語っていた。





「はああっ!」


剣がザラトスの漆黒の鎧に直撃した。




激しい金属音が洞窟内に響き

エリシアの腕に反動が伝わる。




彼女の斬撃は魔力を伴っていたが

ザラトスは微動だにしなかった。




まるで彼の体が虚無そのものであるかのように

エリシアの攻撃は彼に影響を与えることができなかった。






「何……?」

驚きの声がエリシアの口から漏れる。




彼女はすぐに距離を取るために後退し

再び剣を構えた。




しかし

ザラトスは彼女の動きに何の興味も示さないかのように

冷ややかに佇んでいた。






「これが王国最強の魔法剣士の実力か?

……失望したよ」


ザラトスの声には

冷酷な嘲笑が含まれていた。




彼はまるで

自分が既に勝利を確信しているかのような態度を崩さない。




「私の剣が……効かない……?」

エリシアは信じられない思いでザラトスを睨みつけた。




これまで数々の敵を打ち倒してきた剣技が

この男にはまるで無意味に感じられた。






「虚無に剣は通じない


エリシアよ

お前の力では

私に触れることすらできない」



ザラトスは淡々と告げると

彼の周囲に虚無のエネルギーが揺らめき始めた。




洞窟の空気がさらに重く

冷たく感じられ

まるで空間自体が歪んでいくような感覚がエリシアを包む。




エリシアは呼吸を整えながら

次の一手を考えた。



何か手立てを見つけなければ

このままでは一方的にやられる。




しかし

彼女の心の奥底には一筋の恐れが芽生え始めていた。




この相手は

ただの敵ではない。




圧倒的な力の前に

彼女は初めて無力さを感じていた。





ザラトスは

エリシアの剣が自分に通じないことを確認すると

仮面の下で冷酷な笑みを浮かべた。




そして

彼の周囲に漂う虚無のエネルギーが一瞬で活性化し

空間が歪み始める。




エリシアが次の一手を考えようとしたその刹那

ザラトスの姿が忽然と消えた。






「消えた……!?」


エリシアは驚きと共に身構えたが

次の瞬間には背後に冷たい気配を感じた。




反射的に振り返ろうとするが

既に遅かった。



「遅いよ」


ザラトスの冷たい声が耳元に響く。






彼は瞬時にエリシアの背後へ回り込み

暗黒の剣を振り下ろした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッズズ!!!!!!!!



虚無のエネルギーをまとったその一撃が

エリシアの背中に深々と食い込む。



「うあああああああっ!!!」



痛烈な痛みが彼女を襲い

その場に膝をつく。




「ぐっ……!」

エリシアは歯を食いしばり

必死に立ち上がろうとするが

背中から流れる温かい血が彼女の体力を奪っていく。





「お前の動きは全て見透かされている


虚無の前ではどんな技も無意味だ」



ザラトスは無情にもその言葉を投げかけ

もう一度剣を構えた。




彼の剣先には虚無の力が渦巻き

次の攻撃の準備をしている。




エリシアは呼吸を整えながら立ち上がろうとするが

背中を切り裂かれた痛みで体が思うように動かない。




彼女は戦意を失うことなく

必死に立ち上がりながら心の中で誓った。




(このままでは終われない……何としてでも

この虚無を打ち破る方法を見つけなければ……!)




しかし

ザラトスは余裕を持って次の一撃を準備し

エリシアに冷酷な終わりを告げようとしていた。



ちょうどその時



一度立ち去ろうとした『にゅめょりと』は心の中で

エリシアの叫び声を

感じ取っていた。



瞬間、足を止めた。



胸の奥が強く締め付けられるような感覚が走り

彼はエリシアのいた方を振り返った。




「……エリシア……!」



彼女の危機を感じ

もはや迷うことなく引き返した。




『にゅめょりと』は全力でエリシアの元へ駆け出し

倒れかけている彼女の姿を見て

さらにスピードを上げた。




彼は自分の無力感を振り払い

エリシアを助けるために走り続けた。




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