第3話 運命の予感、迫りくる危機

『にゅめょりと』がエリシアに見惚みとれていると

居酒屋いざかや店主てんしゅが近づき

低い声で話しかけてきた。


「おい、少年しょうねん

このへんじゃ見かけない顔だな?」




不意ふいに話しかけられ

『にゅめょりと』はあわてて視線しせん店主てんしゅへと向けた。




「ど、どうも……」




店主てんしゅまどの外、エリシアの方を見ながら続けた。



「あのかた

グリーンフェルデ王国おうこくでも

屈指くっしのエリート剣士けんし

エリシア様だ」




「へえ……」




「若いのに王国中おうこくじゅうでその名を知らない者はいない」




『にゅめょりと』はおどろいた表情をかくせなかった。



(エリシアがそんなに立派な剣士けんしになっているとは……)



店主てんしゅはさらに声をひそめて話を続ける。




「3日前だ、村人むらびとが12人もゴブリンにられた」




「!」




やつらは山奥やまおく洞窟どうくつ

かくんでいるが

俺たち村人むらびとの手にはえん


だから王国おうこくに助けを求めたんだ。


そして今、エリシア様が来てくださった

これから救出きゅうしゅつに向かってくださる」



「……」



『にゅめょりと』は言葉を失った。



おさない頃から知っていたエリシアが

今や王国おうこくのエリート剣士けんしとして

むらを守るために戦っている

それなのに

俺は勇者ゆうしゃパーティを追放ついほうされ

何もできないでいるのとは……)



『にゅめょりと』は店主てんしゅの話を聞きながら考え込んだ。



「エリシア様はなんと、レベル25だ」



「レベル25!?」




『にゅめょりと』は思わずさけんだ。



勇者ゆうしゃパーティのガルディアスや勇者ゆうしゃのバルトルスよりはるかにすごいなんて……)




店主てんしゅ余裕よゆうみで


「そうさ

レベル25ならエリシア様1人で救出きゅうしゅつに向かう方が

身軽みがる効率こうりつが良いだろう

ゴブリンの集団相手しゅうだんあいてにも

十分に対処たいきょできる」




(確かにエリシアなら1人でも十分だ……

俺がついていく必要はないか……)




そう自分に言い聞かせながらも

『にゅめょりと』は心の中で複雑ふくざつ

感情かんじょういだいていた。




(かつては俺も勇者ゆうしゃとして称号しょうごうを持っていたが

今は追放ついほうされて何もない

エリシアに合う資格しかくなどない)



『にゅめょりと』は村人むらびとたちに混じって

エリシアが出発しゅっぱつする姿をだまって見送った。




エリシアのりんとしたうしろ姿がとおざかると

胸の奥にわずかなあせりと無力感むりょくかんが広がっていく。



しかし彼はそれをくちにすることなく

静かにその場を後にした。



村人むらびとたちのざわめきから一歩いっぽ離れ

彼は反対側はんたいがわむら出口門でぐちもんへと向かった。



これ以上ここに留まることはできない

と心の中でつぶやきながら

『にゅめょりと』はむらを後にした。



しばらく、『にゅめょりと』はもりの中を静かに歩いていた。



木々きぎのざわめきとかぜおとみみかたむけながら

頭を空にしようとしていたが

心の奥にはまだエリシアのことが引っかかっていた。




「!!」




そんな時、不意ふいに全身が警戒けいかいモードに入る。



「何だっ!?」




何か危険きけん気配けはいを感じ取ったのだ。



背筋せすじつめたくなり

目は自然しぜんと先ほどエリシアが向かっていった方角ほうがくへと向く。




「まさか……」




『にゅめょりと』はその方向をじっと見据みすえた。



「エリシアがあぶない!」



ただならぬ事態じたいちかづいているような感覚が

彼のむねをざわつかせた。




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