第11話

 美咲が通っている高校では、彼女の存在はまるで輝く宝石のようだった。

 芸能人ばかりが通う高校ではないために、彼女のような存在が目立つということもあるが、彼女はそれでなくても幼い頃から活動しているので、有名人であった。


 校内を歩くだけで、どこからともなく視線が集まり、男子たちはもちろん、女子たちからも憧れの的だった。


 橘美咲は普段からテレビや雑誌で見かける有名女優で、誰もがその名前を知っていた。


「美咲ちゃん、おはよう!」


 教室に入ると、同級生たちが彼女に明るく声をかけてくる。美咲はニコッと笑い、軽く手を振った。自然体で接する彼女の魅力に、皆が惹かれていく。


「おはよう、みんな!」


 元気よく挨拶を返す美咲のもとに、男子たちが次々と集まってくる。彼らの目には少し緊張の色が見えた。


「あ、あの、美咲さん……!」


 教室の隅に立っていた一人の男子が、意を決したように彼女に近づいてきた。


「ん? どうしたの?」


 美咲はその男子に視線を向ける。その瞳がまっすぐに見つめてくると、男子は少し顔を赤らめた。


「あ、あの……! 僕と付き合ってください!」

 

 男子は勢いよく言葉を吐き出した。教室の中が一瞬、しんと静まり返る。


 周りの生徒たちはその光景に息を呑み、美咲の反応を待つ。


「ごめんね、そういう気持ちは嬉しいけど……。今はお仕事や勉強に集中したいの」


 彼女は優しく微笑みながら、きっぱりと答えた。振られた男子はしばらく立ち尽くしたが、美咲の笑顔に納得したのか、恥ずかしそうに頭をかいて教室を出て行った。


「すごいなぁ、美咲ちゃんは。あんな風にハッキリ断れるなんて……」


 その様子を見ていたクラスメイトの一人、梨香が美咲に近づいて話しかける。


「いやぁ、もう何度も告白されると慣れてきちゃったのかな」


 美咲は少し照れたように笑いながら言った。梨香はため息をつき、彼女の髪を見つめる。


「でも、美咲ちゃんってほんとに綺麗で可愛いよね。どうやったらそんな風になれるの?」


 その言葉に、美咲は軽く首をかしげる。


「どうやったら……? そうね、特に意識してることはないけど。あ、でもちゃんとスキンケアしたり、健康に気をつけたりはしてるかも」


 そう答えながら、美咲は自分の手元に視線を落とす。確かに彼女は、芸能活動もあって美容には気を使っている。


「それだけであんなに可愛くなれるんだ?」

 

 梨香が信じられないという顔で美咲に問いかける。


「うーん、それだけじゃないかもね。でも、自分を好きになることが一番大事かな。好きなものを楽しんでると、自然と笑顔になれるし、それが魅力になるんじゃないかな」


 美咲はそう言って、にっこりと笑った。彼女の笑顔に、梨香はつい見とれてしまう。


「さすが美咲ちゃん……。私も自分を好きになれるように頑張らないと!」


 梨香は拳を握って気合を入れた。その様子に、美咲も嬉しそうに頷く。


「うん! 自分らしさを大事にしてみて。きっとそれが一番の美しさだと思うよ。」


 教室の中ではそんな会話が続き、美咲の周りには自然と人が集まっていた。

 男子からの視線、女子からの憧れ、どこにいても注目の的。それが美咲の日常だった。


 ただ、彼女自身はそんな日常に少し飽きていた。


 すべてが予測できてしまう世界で、何か新しい刺激を求めていたのかもしれない。そんな彼女の頭には、ふとあの日のことがよぎった。


(あの人、安藤蔵之介くん……。本当に私のこと、知らなかったんだよね)


 彼女の表情が一瞬だけ柔らかくなり、誰にも見せない微笑みがこぼれる。


 学校生活でどんなにチヤホヤされても、彼女の心を動かす存在ができたことを、美咲はどこか嬉しく思っていた。


 その日の午後、美咲は学校を早退して芸能の仕事へと向かった。


 普段から忙しいスケジュールをこなしている彼女にとって、学校と仕事の二足のわらじは慣れたものだ。


 しかし、ここ数日、彼女の様子がどこか違っていることに周囲のスタッフは気づいていた。


「美咲ちゃん、おはよう! 今日もよろしくね!」


 スタジオの入り口でマネージャーの北川が笑顔で迎える。


 美咲はバッグから仕事用の手帳を取り出し、さわやかな笑顔を浮かべて挨拶を返す。


「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」


 美咲はいつも通りの丁寧な挨拶をしながらも、どこか嬉しそうだった。その表情を見て、北川は少し首をかしげた。


「最近、美咲ちゃん機嫌が良いよね。なんかあった?」


 軽く尋ねる北川に、美咲は一瞬ドキッとしながらも、慌てて笑顔を作った。


「えっ、そうですか? いえ、特に何もないですよ。ただ……お仕事が楽しいからかな?」


 内心では蔵之介とのやり取りを思い出しながらも、あくまで平静を装う美咲。


 蔵之介のことを、芸能界の誰にも話すつもりはなかった。彼が自分を知らずに普通に接してくれることが新鮮で、なんだか特別な気持ちになっていたのだ。


「そうか、まあ、美咲ちゃんが楽しそうだと現場の雰囲気も良くなるからいいんだけどね」


 北川はにこやかにそう言って、美咲の肩を軽く叩いた。


 その後、美咲は控室でメイクをしてもらい、衣装に着替えた。


 撮影スタッフやスタイリストたちが準備を進める中、彼女はしっかりと打ち合わせに参加する。


「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」


 現場に入ると、まずは全員に挨拶をする。美咲は芸能界での礼儀をよく知っている。どんなに売れっ子でも、感謝と礼儀を欠かさないこと。それが彼女の持つプロ意識だ。


「おはよう、美咲ちゃん。いつも元気でいいねぇ。今日の撮影も楽しんでいこう!」


 カメラマンが笑顔で彼女に声をかけると、美咲はうなずきながら、視線をしっかりと合わせた。


「はい! 今日も素敵な写真を撮ってもらえるように頑張ります!」


 撮影が始まれば、彼女は真剣そのもの。


 大人たちの中に混じりながらも、自分の役割をきちんとこなしていく。


 カメラに向ける表情やポーズも、次々と切り替えていく彼女のプロ意識に、周囲は自然と拍手を送りたくなる。


 撮影の合間、スタイリストの沙織が美咲に近づいてきた。


 沙織は、普段から美咲と親しい関係にあり、時折彼女の悩みも聞くような存在だった。


「美咲ちゃん、最近なんか機嫌が良いって話題になってるよ。何か良いことあったの?」


 沙織の言葉に、美咲は一瞬目を見開いたが、すぐに口元を引き締める。


「えっ、そ、そうですか? 別に何もないんですけど……」


 軽く言葉を濁しつつも、顔がほころんでしまう。沙織はそんな彼女の様子を見て、さらに興味をそそられた様子だ。


「ふーん? なんか怪しいなぁ……まさか彼氏とかできたわけじゃないよね?」


 冗談めかして言う沙織に、美咲は思わず笑ってしまった。


「も、もう、そんなわけないじゃないですか! お仕事と学校で忙しいのに!」


 実際には、蔵之介とのやり取りが心の中で特別なものになっているが、それを誰にも話すつもりはない。


 ただ、思い出すだけで気持ちがほっこりしてしまう自分に少し戸惑う。


「そっかそっか。でも、そうやって笑顔でいられるなら何でもいいわね。美咲ちゃんの笑顔があると現場も明るくなるし!」


 沙織はそう言って、美咲の髪を少し整える。


 美咲は「ありがとうございます!」と笑顔でお礼を伝え、沙織と軽くおしゃべりを楽しんだ。


 美咲は周りにバレないように、自然に過ごしているつもりだった。


 しかし、蔵之介とのやり取りが心の中で大きくなっているのは確かだ。彼とのやり取りのことを考えると、ついニヤニヤしてしまう。


(仕事も順調だし、学校でも楽しく過ごせてる。でも、なんだか最近、それ以上にワクワクしてるのは……あの人のせいなのかも)


 そう思いながら、撮影の合間にふとスマホに視線を向けてしまう自分に気づく。


 蔵之介からのDMはまだ来ていない。それでも、彼のことを考えると心が弾んでしまう。


(私から送っちゃおうかな……でも、ちょっと待ってみるのもいいかな……。)


 そんな風に悩む自分を意識しながら、美咲はいつも以上に集中して仕事をこなしていくのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 あとがき


 どうも作者のイコです。


 初の三人称で進めておりますがいかがでしょうか? 

 なかなか苦戦してきているようなので、厳しいのかな?


 作者のやる気のためにも、フォロー、☆レビュー、♡いいね、をドシドシ募集しております(๑>◡<๑)


 どうぞよろしくお願いします!

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