第4話 質問攻め
半年前のことを回想していると、姉さんが住んでいるマンションの前についていた。
そこは5階建てのマンションで比較的新しい造りをしている。部屋は2LDKで、もともと姉さんとお母さんの二人が住んでいたので二人で住んでも十分な広さということらしい。
実家から浅羽高校に通うのは遠いので、姉さんと二人暮らしをすることになったわけだけど、マンションを前にすると緊張してきた。
エントランスを抜けて部屋番号を入れると部屋につながった。
少しの間の後に「は〜い!」という可愛らしい女性の声が聞こえてくる。その声を聞くと余計に緊張してきた。ロックが解除されて扉が開き、そのまま3階までエレベーターで上る。
姉さんが住んでいる304号室の前に来て、心臓がバクバクしてきた。
ふーふーと、ゆっくりと深呼吸しながらインターフォンを押す。
すると扉の奧からパタパタと足音が聞こえてきた。そして扉が開くとそこにいたのは、
「だ、誰……ですか?」
まさかの知らない女子だった。
その女子は綺麗な白髪をしており、薄いブルーの瞳をしている。坂道グループに入っていてもおかしくないくらい、アイドルのような顔だちをしていた。
全体的になぜかアザラシのような愛嬌さがあり、『可愛い』という言葉はこの人のためにあるのではないかと思う。
「ほほう〜、君が噂の弟くんか〜? ねえねえどうだった? 驚いた? 驚いたよね〜? こういう時、普通は若菜が出てくると思うもん!」
「えっと……」
「あ、そうだよ! これから一緒にゲームしよう! ゲーム好きだよね? 好きそうな顔してるもん。どうなのどうなの? ねえゲームは好き?」
「あの、えっと、好きは好きですけど……」
聞きたいことはたくさんあるのに聞けない。そもそもこの人はどうして姉さんの家にいるんだ?
「やった〜! それじゃあ対戦しよっか! でも手加減はしないぞ〜! やっぱりこういう時は……ってイッタあーい!」
「こら、落ち着け。はしゃぎすぎ。その子ビビってるじゃん?」
するとその後ろからまた知らない女子が出てきた。
一方、その人は長い黒髪ストレートで、その人も可愛いらしい童顔をしていた。口調とか雰囲気からクールそうで、この人は懐かない猫って印象だ。
どっちもSSS級美少女たちで、目の前にいるだけで動揺してしまう。
頭をチョップされたのか、白髪の女子は頭を抑えていた。その場で足をバタバタさせながら、プクーッとほっぺを膨らませる。
「もう直、いきなり頭チョップは無しだよ!」
「そうしないとうるさいから。それに弟くんをビビらせるから悪いんだよ」
何だかこの二人は性格まで対極のような気がした。少しだけ場が静かになったので気になったことを聞くことにする。
「それで、お二人は誰なんですか? それにどうして姉さんの家にいるんです……?」
「まあ、そうなるよね。それじゃあ自己紹介からしようか」
すると白髪の女子が元気に手を挙げた。そして右手をマイクのようにすると、
「はいはいはーい! 私から自己紹介しまーす! 私の名前は
「はいはい、その先はまた後でね。それで私が
「えー、そんなこと言うと私がわがまま言ったみたいじゃーん!」
「事実そうだから。それより説明中に割ってくるな」
「むうー」
怒ってます、と言いたげに心愛さんが指で角を作るけど、直さんはそれを完全に無視していた。
なんだか二人の掛け合いは姉妹みたいだ。だけど姉さんと同じ高校ってことはやっぱり年上だよな。
ふうー、さっきから敬語で話してたけど間違ってなかったみたいだ。
「それでえっとどこまで……ああ、そうだ。それで若菜は君を迎えに駅までまで行ったけど、どうやらすれ違ったらしいね」
「迎えに? 姉さんが?」
「うん。三十分くらい前に家を出て行ったから」
スマホを開くとラインのアイコンに5件のメッセージが届いていた。普段はクーポンの通知しか来ないので何だか嬉しい。
いや、そんなことよりもまずは確認しないと。内容を見ると、姉さんから駅に迎えに来たことが書かれてある。
マップを見るのに夢中だったのでメッセージが来ていることに気づかなかった。もうマンションに着いた旨を伝えるとすぐに既読がついた。
『今から戻るから先に中に入ってて』
と返信が返ってくる。
悪いことをしたなと思ったので、とりあえず土下座のスタンプを送ってスマホを閉じた。
「姉さんは今から戻ってくるそうです」
「それならあと十分くらいはかかるな。まあ部屋でゆっくり待てば良いか。弟くんも疲れただろうし、ほら荷物貸しな。部屋まで運んでやるからさ」
直さんは童顔で可愛らしい顔立ちをしている割に男前というか、さっぱりしてる人なんだな。
「はいはーい! それなら私がそれ持ってあげるよ!」
それに対して心愛さんは無邪気な子供っぽい人で、好奇心の強そうな目をしていた。
二人にはそう提案されるけど、自分の荷物くらいは自分で運べる。
「あ、これくらい自分で運べますから大丈夫です」
「そっか。でも遠慮しなくて良いのに」
「そうだよそうだよ! 私たちは弟くんとも仲良くなりたいから言ってるのにー!」
まさかそういう意図があったとは思わなかった。
でも家から背負ってきたのはリュックだけで、この中には自分で運びたかった貴重品しか入っていない。その他の荷物はあらかじめ引越し業者さんに頼んでおり、自分の部屋になる場所に運んでもらっている。そのため荷物という荷物もなかった。
「それなら上がってよ。て言っても私らの家じゃないんだけど……」
「はい、お邪魔します」
「あははは! 今、お邪魔しますって言ったよ。今日からここは弟くんの家になるのにねー!」
「そうだけどうるさい」
心愛さんを横にやって、直さんは廊下を空けてくれた。姉さんが実家に来ることは何度もあったけど、この部屋に来るのは初めてなので緊張する。
玄関に入るとすぐに姉さんの匂いがした。やはりどこの家にもそれぞれの香りがあるみたいだ。
「それでこの手前の部屋が弟くんの部屋になるらしい。それで奧の部屋が若菜の部屋だから覗いたらダメだよ」
「の、覗くわけないですよ!」
「いや冗談だって……。でもそれくらい否定されると逆に安心できるかも」
直さんはポーカーフェイスと言うのか、ずっと表情が変わらないので冗談なのかは分からなかった。
「確かにー。これでガツガツ来る系の弟くんなら今すぐに私が指導してたところだよ!」
心愛さんはブウンと空気を切るように手刀を振り翳した。それをやったら暴力ですよ。
僕からすると姉さんの部屋を覗くなんて、自分の中の倫理感に反している。部屋はその人のプライバシーの塊みたいなものなので、許可なく部屋に入るなんてことは絶対にしない。
「姉さんの部屋を覗くなんてことしません。それだけは絶対に守りますから安心してください!」
「う、うん。でもそれはそれで逆に心配なんだけど。だってあんなに可愛くて美人な姉を持ったのに興味がないの?」
「あ、それ私も気になる気になる! ねえねえ本当のところはどうなの? 若菜のことどう思ってるの?」
「ほらほら、ここで全部吐き出しちゃいなよ。本当は可愛いと思ってるんでしょ?」
「わあ〜、さっきよりも顔が赤くなってる。やっぱり若菜のことどう思ってるの? ねえねえ、どうなの?」
(……だ、誰か助けてくれ!)
まさか家に上がった途端、こんな質問責めをされるとは思わなかった。
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