蟻
霜月れお
🐜
炎天下の公園で、芝生とコンクリートの間に蟻の巣を見つけた。蟻たちは何の疑いもなく冬に向けて動き回っている。
僕にも疑うことのない何かを見つけることができるだろうか。しゃがみ込んだ僕は、ポケットに入っていた飴を巣の横に置いた。どこの誰かわからない、知らない人から受け取った飴だ。
瞬く間に蟻たちは飴に気が付き、群がっている。その身体の何百倍もあるだろう飴に果敢に挑んでいく蟻たちに、餌を与えたという親心なのか、優しさなのか。
僕は立ち上がり、飴に群がる蟻ごと踏みつけにする。
細かく砕いた方が運びやすいだろう。
何体かの蟻はくしゃりと身体が丸まり潰れ死に、生き残った者は、相変わらず飴に群がっている。
再びしゃがみこんだ僕は、蟻と飴の格闘の横で、死者となった蟻を運ぶ蟻を見つけた。蟻は死者となっても、一族に食べ物として献上されるらしい。
死んだ蟻は、越冬の餌になるのだろうか、それとも巣穴で飼育されている蟻の幼虫の餌になるのだろうか。
翌日、僕は蟻の巣を見つけた公園に、細口の水差しを持って出かけた。細かく砕いた飴は、跡形もなくなっていて、蟻たちが巣穴に持ち込んだのだろうと思った。
僕は、公園の蛇口で水を汲み、巣穴から溢れないよう静かに水を流し込む。
巣の中は、さながら洪水にあったように浸水していることだろう。
そう考えたら胸騒ぎが止まらない。
巣穴から慌てて出てくる蟻たちを、順番に人差し指でぷちん、ぷちんと潰す感覚に、思わず顔がニヤける。
さっきまで生きていた蟻が指に張り付き、くしゃりと丸まり動かなくなった姿を見せている。
この指の感覚は紛れもなく、この僕が終わらせたものだった。
蟻 霜月れお @reoshimotsuki
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