第13章 トラウマ
幼い頃に受けた傷は癒される事はない……
私達は、平穏な日々を取り戻し普段の日常に戻っていた。
私は幸せだった。家族に恵まれなかった私が、家庭を持つ事が出来た様な…
テレビを見て皆んなで笑い、恐怖も何もなく優しい笑顔のS子がいる。
が、それとは裏腹に不安になる。こんな安い給料じゃ駄目だ。もっと稼がないと…
S子は言った。月20万稼げば良いと。後は私の給料で大丈夫と…
が、男としてのプライドもあるし、もっと稼げる人間だと自負していた。
しかも今働いているビルメンテナンスの仕事は取り敢えずで働きだした職場だ。
私『S子、俺さ、転職しようと思う。』
S子『な、なんで!』
理由を説明したが…
S子『誰も好きな仕事なんかできやしない。皆んなそれぞれ我慢して働いているんだ!
お願いだから、私達のために続けて欲しい』
S子の言うことは正論だった。
確かに、それぞれ何かしらの悩みを持って生きているのはわかる。
けど、私は子供と、S子の為にも、もっと稼ぎたい気持ちが強かった。
話し合いした結果辞める事を承諾してくれた。
が、現実は甘く無い。私の年齢も40を過ぎようとしていた。
散々面接で落とされかなりショックを受けたが、早く働かなければとまたもや取り敢えずの職に着いてしまった。
やはり、関東と比べると関西はお給料が安い。単身関東に行く事も考えた。
勿論、反対された。
S子は言った。一緒にいないと家族としての意味がないと…
S子はふらついている私に業を煮やしたに違いない。
S子『籍を入れて結婚式をあげましょう。』
結婚資金など勿論私には無い。待ってくれと頼んだが聞く耳を持たなかった。
そして、S子の貯金で式を上げる事になったが、ますます私は何とかせねばと焦りが募っていった。
そんな時、Kちゃんが家のお金を盗みS子に怒られていた。
その様子を見た私は、心拍数が上がり汗をかいて震えていた。
そう、幼い頃の記憶が蘇っていたのだ。
すっかり昔のことなど忘れていたのだが、ただ単に分厚い鉄の箱に記憶を閉じ込め無かったことにしているだけであったのだ。
その箱の蓋が開いてしまった。
虐待をされて育った人は、虐待をする確率が高いと言う。
S子『パパも怒ってよ!何で私ばかり…』
そうでは無い。怒り方がわからない。
むしろS子の罵声が恐怖だった。が、冷静な自分も僅かながらいる。
私は落ち着いて、怒鳴る事はせずKちゃんに、理由を聞いた。
そして、理論的に優しくお話しをした。
その様子にS子は感動していた。
S子『パパ凄いわ。私、怒りでどうしようもなかったけど…あなたは素晴らしいわ。益々あなたの事が好きになった。』
Kちゃんも泣きながら2度としないと誓ってくれた。が、私の本音は違っていた。
恐らく自分が、そうされたかったに違いないことをしてあげただけだった。
そして、まだ、心臓はバクバクと張り裂けそうだった。
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