第7章 記憶

S子と何度かデートを重ねた後、お互い結婚を意識していたが、やはり私は躊躇していた…


何故なら経済的な理由もあったが、本当の理由は、私の幼い記憶に関係しているのかも知れない………


特殊な母子家庭で育った私は、心の何処かで2度と私の様な人間を作ってはいけないと……

感じていたから……


母親は生前、スナックを経営していていわゆる『ママ』さんだ。


お客さんに愛想ふりまいてはサービスする接客業だ。


そんな母をみて育ったせいか、気持ちとは裏腹に大人に、嫌な気持ちを抑えて愛想を振りまく様になっていった。


すると、皆『良い子だねー』

と褒めてくれる。

それが心地よかった。


それ以降、自分の気持ちを抑え、相手の顔色を伺う行動しか出来なくなっていた。


本音を言えるのは姉か、自分が認めた限られた友達だけであった。


9歳の頃に唯一の母親を亡くした後、叔母に引き取られたのだが、叔母家族に心を打ち解けられずにいた。


学校の成績が悪いとよく叩かれた。

今考えると、虐待になるのかもしれないが、昭和の時代は当たり前?だったのかもしれない。


母親の法事の時、御香典を盗んだ事があった。盗んだ私が悪いのだが…


叔母『あんたは!何度言ったらわかるんた!』


と、なんども平手打ちをされた。


叔母『あんたは、お母さんが生きてる頃もお金盗んで柱に縛られたそうだね! 今回もそうするよ!!』


と、私を柱に縛りつけた……………


学校から帰ると普通は遊びに行くのだか、成績の悪い私は一日中机に座らされていた。


勉強なんて頭に入らない…

いつ殴られるかの恐怖しかなかった………


その時の私の夢は、鳩になる事…だった。


自由に空を飛び回る鳩に心の底からなりたいと、本当に、本当に、なりたいと思っていた。

子供は、親が全てであり、育てくれる人が全てで逃れることが出来ないのである。


自殺と言う概念すら無かった……

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