第3章 THE・T

姉夫婦に1年近くお世話になった後、私はアパートを借りる事が出来た。

物件探しはTにも付き合ってもらったが、なかなか良い物件がない。

金を出せばいくらでも良いのはあるが、いかんせん私の予算は月3万円しかない…

そんな中、割といいアパートを見つけた。

家賃3万2000円で間取りは6畳と4畳半とキッチンも4畳ほど。


私『これは安い!しかも姉夫婦の家からも歩いて行けるしここに決めよう!』


このアパートは3階建で1階が店舗の作りになっていたが、築年数も古くかつては喫茶店や電気屋さんなどが入っていたであろう名残りがあった。が、1つの店舗だけ営業している店があった。

看板にはビデオ販売・レンタルと書いてあり、小さな個人店舗の様だった。

今の時代はNetflixやAmazonプライムなど配信型が主流だが、当時はレンタルビデオで映画を見るのが普通だった。

映画好きな私は喜んだ!


私『やったー!レンタルビデオやん!映画は最高!あまりお金かからず、想像を掻き立てられる最高のアイテムやん!』


と意気込んで店に入る。


『タラララララン〜♪タララララン〜♬』


聞いた事のある電子音がなった。


私『ファミマに入る時の音に、似ている…』


笑を堪えて店内へ…私は愕然とした。なんとエロビデオ屋さんだったのだ。


私『オー神よ!私から、スピルバーグ、キューブリック、キャメロンを遠ざけないで下さい。』


と祈った。が、少し、ほんの少しだけ、店内を見学して店を出た。


なんやかんや私の新生活がスタートした。


オフシーズンになった会社では、車の整理が行われていた。

オンシーズンの時は県内の車が足りず九州支店から借りるほどだったがオフシーズンは、やはり余ってしまう。

そこで別の場所に借りている駐車場に車を皆んなで運ぶのだ。

1人1台10名で運ぶ。帰りはTがマイクロバスで皆んなを迎えにくる。


何往復かした帰りのマイクロバスの中でまたもやTが爆発した。

何でもある1人の若い子の車の止め方や態度に関する事だった。

それだけではないと思うが…

駐車場を出発したばかりで会社まで20分以上かかる。


私『また、始まったな…』


彼の名誉の為に言っておく決して悪気がある訳ではない。正義なのだ。

言い過ぎ無ければ……


Tによる説教は永遠に続くかの様に止まらない。若い子も涙目だ。


私『凄いな。いつまで続けられるのか…次から次へと良く言葉が出るな。』


この時私は完全に傍観者と化していた。

Tは頭が良いと思う。ラッパーになったら世界を目指せるレベルだなんて思っていた。

因みに人間の怒りのピークは6秒間だと言われている。


そして、会社に到着した。Tは私の所にやって来てこう言った。


T『何故、俺を止めない‼️お前が止めないから最後まで止まらないだろ!』


私『は?あ、そうか。ごめんねー!ハハハ』


実はTも怒り疲れていたのである。が、止めるキッカケを失っていたのだった。

Tも若い子もグッタリしてるのを見て2人には悪いが笑いが込み上げてくるのを必死に押さえている私だった。


そんなTだが一緒にいると学生からの知り合いの様な錯覚を起こすくらい楽しかった。金のない時は、私のアパートで家飲みしたりした。隣の住人に《うるさい!》と何回か怒られるほどだった。

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