Act.2 救難の宇宙・6

 要救護者サバイバーを抱えたアディにリサが付き添い、そのまま艦首方向にある隔壁バルクヘッドを潜って隣の貨物庫カーゴ・デッキへ移動し、そこから移層区画ステア・デッキに繋がるリフトに乗った。貨物庫カーゴ・デッキにある人荷兼用リフトはアモン唯一の昇降機で、移層区画ステア・デッキを経由して最下層の陸上機材積載庫グラウンド・ペイロードまでを縦貫している。航宙機材積載庫フライト・ペイロードにはリフトが通じておらず、梯子階段ラッタルでしか下層に降りられないのだ。

 アディたちが移層区画ステア・デッキ突き当たりの救護医療処置室メディカル・トリートメント・ステーションに着いたとき、梯子階段ラッタルを使って先回りしたネルガレーテたち3人が既に待ち受けていた。勿論、要救護者サバイバーを発見した時点で、ベアトリーチェには受け入れ準備をさせてある。

 集中処置バイタル・トリートメントモジュールに寝かせた後、ユーマとネルガレーテがホスピタル・ガウンに着替えさせて、メディカル・ユニットの指示通り、体重に見合う初期電解質補正輸液を打つ。モニターしている生体活動情報バイタルを見る限り、心拍数の僅かな低下と脱水症状、軽い意識の混濁があるが、今のところ重篤シリアスな状態にはない。

 そのバド人要救護者サバイバーが目覚めたのは、放っておいた一般ばら積み貨物船バルク・キャリアバラタックに、アモンが合流した20分後だった。



「──気がついた? 気分はどう?」

 覗き込むように浅く折った腰に手を当てたネルガレーテが柔和な笑みを浮かべ、狼座域標準語ルパス・ガラクトで優しく話し掛けた。

「あ・・・」

 集中処置バイタル・トリートメントモジュールに横たわるバド人女性は、一瞬顔をしかめてから小さな呻きを上げ、やおらその瞼を開いた。

「もう大丈夫よ。私たちが救助したの。外傷は見当たらないし、生体活動情報バイタルも問題なさそうだけど」

「あ・・・ああ・・・」

 重そうに首を巡らせたバド人が、青林檎色アップルグリーンの瞳でネルガレーテを見た。少し癖毛で豊かな、肩に掛かるほどの薄桃色の髪が、ベッドの上でもつれていた。

 バド人の女性は、ふんわりとした癖毛が頭部全体を豊かに覆う個体が多いので、一見では判り辛いが、頭蓋骨の頭頂中央部が僅かに凹んでいて、後背から見るとハート型に見える。特に男性は、頭髪が谷底部と後頭部に集中する個体が多いので、その頭蓋の特徴がはっきりと分かる。キュラソ人のように尖った耳介上部もバド人の身体的特徴で、肌の色は典型的な赤みがかった紫色だ。ただ目の前の要救護者サバイバーは、青林檎色の目がぱっちりしていて睫毛も長くて多いので、バド人にしては異系的エキゾチックで幼く見えた。

貴女あなたは、輸送船ゴーダムに乗っていたのよね?」ネルガレーテがゆっくりと、区切るように言った。「アールスフェボリット・コスモス社の社員?」

「いえ・・・違います・・・」

 バド人の女の、かすれて消え入りそうな声だった。

「かと言って、船員クルーにも見えないんだけど・・・」

 目の前のネルガレーテとは反対側から声がした。

 ベッドの上のバド人の女が、声のした方を横目で見やりながら、力ない動きで首を回す。

 人種はばらばらだが、似たような業用行動被服オンミッション・フォームを着た、癖のありそうな4人が立っている事に気が付いた。バド人の女は一気に浴びた視線に怯えたように一瞬身をすくめ、声を投げ掛けて来た一際背の高いジャミラ人を見て、ずらっと囲むように並ぶ4人に、落ち着きない目線を巡らせる。

「紹介しておくわね──」

 声を失くした彼女の背後から、ネルガレーテが声を掛ける。

「真ん中の一番巨おおきなジャミラ人がユーマ・レヴィン、その右横のペロリンガがジィク・ムルシェラゴ、反対の枕元側の地球人テラン2人がリサ・テスタロッサとアディ・ソアラよ。そして私はネルガレーテ・シュペールサンク」

「・・・・・・」

「ちなみに言っておくと、私たちはアールスフェボリット社に雇われた傭われ宇宙艦乗りドラグゥン・エトランジェ」彼女の猜疑心を察知したネルガレーテが、言葉を足した。「──と言っても、噛み付きゃしないから」

「あ・・・」バド人の女が、泣き出しそうな顔で声を上げる。「私・・・救かった・・・?」

「ええ、そうよ」愛想の良さそうな深緑色の目に笑みを浮かべて、ユーマが声を掛けた。「だから安心して」

 その言葉に、バド人の女は深い安堵の溜め息を吐き出した。

「名前を聞いても良いかしら?」

「デルベッシです・・・ミルシュカ・デルベッシ」

 ユーマの問いに答えながら、バド人の女が気丈夫そうに身を起こす。

「素敵な名前ね。ルーシュって呼んで良い?」

 それに介助の手を差し伸べたユーマに、ミルシュカがちょっと驚いたような表情を見せ、無言で小さく頷いた。どうやらミルシュカは、距離の近い垣根の低いつき合い方に慣れていないようだった。

「咽喉、乾いてない?」

 いつの間にかリサが、等浸透圧アイソトニック水を容れた使い捨てディスポーザカップを差し出していた。

「あ・・・ありがとう・・・」

 半身を起こしたミルシュカは、纏わりつく薄桃の髪に煩わしそうに首を振り、リサからカップを受け取った。

「ゴーダム──貴女あなたが乗っていた輸送船で、何があったか話してくれない?」

 一呼吸置いてから、ネルガレーテがミルシュカに声を掛けた。

「私も・・・よく解らないんです」

 淡黄色の薄いホスピタル・ガウン姿なので、ミルシュカの小振りで華奢な体つきがはっきり分かる。落ち着いた大人のような口調だが、小さな胸は少年のようで、カップに口を付ける仕草から、人見知りだが周りに気を使うタイプではなさそうだった。

船橋ブリッジを出て直ぐ横にある、休憩スペースに居たんです。船橋ブリッジで通話通信機器をお借りして、大学の研究室へ送信を済ませた後でした」ミルシュカがうつむき加減に顔を曇らせた。「いきなり警報みたいなのが鳴り響いて──」

「ははあ、その時だな、攻撃されたのは」

 腕組みして聞いていたアディが、脇のリサに小さく首肯した。

船橋ブリッジへ戻ろうとしたんですけど、スイッチを押しても入り口が開かなくなって、手で開けようとしても全く駄目で、艦内通話機インカムで呼び掛けても反応がなくて、区画デッキに取り残されたんです」

「と言う事は、1発目が、いきなり船橋ブリッジを直撃したのか・・・」

 それはご愁傷様と言わんばかりに、ジィクが首をすくめて見せた。

船橋ブリッジ側壁の穿孔からの急激な空気流出に船内保安システムが作動して、船橋ブリッジへの隔壁通口バルクヘッド・パスのロックが掛かったんだ」

「でもアディたちが入ったとき、ロックは掛かっていなかったんでしょ?」

 独り言のようなアディの呟きに、リサが小首を傾げて問うた。

「その後の攻撃で電源を喪失した事で、ロックが落ちたんだよ」

 アディの説明に、ああ成程、とリサが得心する。

「緊急脱出を勧めるアナウンスが流れたんですけど、周りに誰も居なくて、点灯していた案内表示に従って移動したら、良く判らない場所に出てしまって・・・」ミルシュカは苦々しそうな顔付きをしていた。「警報に急かされた訳じゃないんですけど、ちょっと慌てていたんでしょうね、考えなく脱出を勧める案内に従って小さなドアを潜ったら、あの中だったんです」

「ポッドへの移乗デッキに誘導されたんだな」

 アディの言葉にミルシュカが小さく頷く。

「──何かしくじった、と感じた矢先、いきなり大きな揺れに襲われて、中で飛ばされたと思ったら、勝手に扉が閉まっちゃって、慌てて出ようとしたらもう一回、今度はもっと大きな衝撃に、何かにぶつかったような音がして、反対側の壁に飛ばされて、ちょっとの間気を失っちゃったんです」

「ゴーダムのフェルミオン主機が、第2波の直撃でぶっ飛んだのね。それでミルシュカが乗り込んだのを感知していたシステムが、安全確保のためにポッドを自動で射出ベイルアウトしたんだわ」

 ユーマが一呼吸置いたところで、その言葉の後を引き継ぐようにジィクが続けて声を上げる。

「ところが運悪く、エンジンが吹っ飛んだ際に乗居区画アコモディションを巻き込んで、射出筒路リリース・シリンダひしゃげて変形し、射出されたポッドが詰まった──」

「まあ、そんなところでしょうね、あの状況を見る限り」

 2人の説明に、ネルガレーテが憂えた表情で溜め息を一ついた。

「ポッドに逃げ込んだのは、貴女あなた1人?」

 ユーマの言葉に力なく頷いたミルシュカが、はっと気が付いたようにおもてを上げた。

「──あの・・・他の乗組員の方々は・・・?」

 恐る恐る5人を見渡すミルシュカに、ネルガレーテが瞑目して首を横に振る。その無言の答えに、そうですか、と消沈の声を漏らしたミルシュカが肩を落とした。

「それでも、貴女あなた1人でも救かったのは奇跡に近いわよ」ユーマが強張った笑みを浮かべる。「ゴーダムが難破してから、25日は経ってるもの」

「実際、もう限界でした。諦めかけていたんです。中にあった食料と水は、随分と前に尽きてしまって・・・」

「案外タフだな、ルーシュ、君は」そう言うアディは、至極真顔で言葉を継ぐ。「──それで、頭とかは大丈夫か? イカれてないか?」

「アディ! いきなり何て言い草・・・ッ!」

 無遠慮な言葉を投げるアディに、思わずリサが色をなす。ただ当のミルシュカには、アディの言葉は突拍子過ぎたのか、意味が解らない風にキョトンとした顔付きをしていた。

「リサってば・・・」苦笑いを浮かべたユーマが諭すように言った。「アディの言ってるのは、精神的に参っていないか、って言う意味よ。救助されるまでに時間が掛かった場合、心的外傷トラウマを負うことがあるからね」

 知らなかった、と小さく肩をすぼめて見せたリサが、アディに向き直ると笑窪を作って頬を膨らませ、可愛らしく口を尖らせる。

「それでもアディ、救かったばかりのルーシュに、言葉が直截すぎ」

「ああ、デリカシーに欠けるってやつだな、悪気は無いんだよ、すまん」

 アディは頬を掻きながら、リサに2度3度と小さく首肯して、ミルシュカには両掌を振って見せた。

「──今のところは大丈夫そうです」

 傭われ宇宙艦乗りドラグゥン連中の遣り取りに、ミルシュカが静かに微笑んだ。

 ミルシュカが入り込んだポッドは4人用で、避難ポッドの中では一番小さい部類になる。外形直径3メートルほどの球形体に、電力供給用核融合電磁励起エンジンと環境維持システムを詰め込んでいるので、想像以上に狭い。搭乗ハッチを開いたらすぐ正面に4人分のベッドが立脚し、そのベッドが据え付けられている床壁の裏側が、小さな簡易排泄設備となっている。

 定員4人が利用すると閉所感と圧迫感はかなりのもので、不安障害を引き起こしやすい環境には違いない。実際、どんな離船ポッドでも3日以上収容されていると、要救護者サバイバーは後日に、鬱病や閉所不安障害、他者近接恐怖症を発症させる率が高い。

「まあ、ずっとレポートに集中していて・・・」

 そこまで言って、ミルシュカがはたと言葉を切った。一瞬の間が空いて、一同を見渡したミルシュカが、噛み付くように畳み掛けた。

「──私のレポート・・・! 論文は・・・レポートはどこです・・・?」

「ひょっとして、それの事?」

 打って変わって血相を変えて辺りを見渡すミルシュカに、ネルガレーテが脇のワゴンに載った紙片の数枚を見やった。

「──ああ、良かった・・・!」ベッドの上で身を捩ったミルシュカが、精一杯伸ばした腕に指で紙片数枚を手繰り寄せる。「とても独創的で意味深長な切り口を見つけたものですから」

「まさか、ポッド内で黙々と書いてたの? 論文とやらを?」

 ユーマが半ば呆れたように腰に手を当てて言った。

「はい。これ以上ないと言うほど集中できたんですよ」記述の中身を確認しながら、ミルシュカは一枚一枚順序を揃えていく。「感覚が、思考が研ぎ澄まされるって言うんですかね、斬新な考え方が次々浮かんできて、もう頭がしっちゃかめっちゃかになり掛けました」

「そっちで、変梃おかしくなりそうだったのね・・・」小首を傾げて顎を引いたリサが、理解し難いと言う顔付きをした。「珍しい女性ひと

「珍しいのは、リサ、お前も、だ」ジィクが下唇を突き出して、アディを顎でしゃくる。「こんな朴念仁のどこが良いんだ?」

「全部」

「・・・・・・」

「ジィクって、意外と馬鹿ね」

 間髪入れず表情も変えず言い返して来たリサに、二の句を継ぐタイミングを失したジィクが口を半開きにしたまま固まり、それにユーマが遠慮ない一言突っ込みを入れる。

「──さっき大学って言葉が出たけど、どこかの学生? ミルシュカ、貴女あなたは?」

「いえ、准教授アソシエイトなんですが、まだ非常勤で教室も持てていないんです」

 ネルガレーテの問いに、うつむき加減に小さく首を振るミルシュカに、傭われ宇宙艦乗りドラグゥン一同が一斉に目を丸くした。幼く見える容貌からは、とても教職に就いているとは思えない。話通りなら実年齢は30歳前後だろうが、愛らしい青林檎色アップルグリーンの目元のせいなのか、一見だと学生にしか見えない。

「私は、アールスフェボリット社の依頼で、ピュシス・プルシャに向かうため、あの船舶ふねに客員扱いで乗っていたんです」

 続けてぼそりと口を開くミルシュカは、そんな傭われ宇宙艦乗りドラグゥン連中の驚きに気付いていない。

貴女あなたもアールスフェボリット社に雇われてるの?」

 ネルガレーテがミルシュカの顔を覗き込むように言った。

「──いえ、正確に言えば、アールスフェボリット社のピュシス開発プロジェクトの外部ブレーンであるトト教授に招聘されて、現地に赴く途中でした」

「アールスフェボリット社のピュシス開発って、そんな学術的な側面があるの?」

「どうなんでしょう・・・?」ミルシュカは手にした等浸透圧アイソトニック水のカップを軽く傾けた。「トト教授の本来のご専門は惑星物理学で、確かに天体環境や有機惑星化学にも造詣の深いかたですが・・・」

「ふーん・・・」ネルガレーテが腑に落ちない風情でこめかみを掻いた。「それで、つかぬ事を聞くけど、船舶ふねが襲われた原因って、心当たりある?」

「あれって、矢っ張り襲われたんですか?」ミルシュカがぱっちりした青林檎色の目をさらに見開いて、胡桃くるみ色の肌をした女編団頭領レギオ・デュークを見遣った。「星賊イェーグか何かですか?」

「その口振りじゃあ、ミルシュカには心当たりないのかしら?」ネルガレーテが上目遣いに、傭われ宇宙艦乗りドラグゥン4人をちらりと見渡した。「何か、こう、重要なものとか、秘密っぽいものを運んでいたとか、耳にした事はない?」

「さあ・・・」ミルシュカが顔容に似合わない、眉間に小さな皴を作った。「船員クルーの方々は親切にしてくれたんですけど、どうも雰囲気に馴染めなくて、あまり話をした事がないんです」

「とは言っても、あの輸送船への問答無用の攻撃は、乗っ取りとか強奪とかの様相じゃない。明らかに沈めに来ていたわ」

「そいつらも、ゴーダムの救難事態宣言メーデーを傍受したんだろうな」腕を組んで黙って話を聞いていたジィクが、厳しい目付きで声を上げた。「リサが撃退した奴等が、先にゴーダムを襲って大破させた同一犯なら、撃沈し損なったと判断して、改めてとどめを刺しに来たんだ」

「そうなると目的は、積載物エンバケーション積荷フレートではなく、ゴーダムそのものって事になるぞ」アディが口をヘの字に曲げて言った。「完全に撃沈する価値があるのか? 辺鄙へんぴ惑星ほしへ補給物資を送るだけの、たかが輸送船に?」

「いいえ、過去に消息を絶った、他の輸送船も同じ目に遭っていたとしたら・・・」

 噛んで含めるような口調で、ユーマは深緑色の瞳で、同輩の傭われ宇宙艦乗りドラグゥンを見渡した。

「意図的な戦略的補給路寸断、と言う事になるわね」

 作った両拳を腰に当て、ネルガレーテが小さな嘆息をいた。

「そこまでしてピュシス・プルシャへの補給路を断つ必要って、一体何があるの?」

「真の目的は何であれ、結果的にアールスフェボリット社の開発基地は、一種の兵糧攻めに遭っている」ジィクは酷く真面目な顔付きだった。「まあ、単なる嫌がらせではないな」

「あの意識過剰役員ヴァリモ・ヌヴゥが聞いたら、どう思うかしらね」

「今のところは、私たちのあずかり知らぬ事よ。気にしても仕方ないわ」

 ユーマが大きな両肩をすぼめて見せると、ネルガレーテは木で鼻を括るように言った。

「──けど、何か嫌な予感がする・・・」

 リサが無意識にアディの肘を取った。

「厄介事を背負い込むのは慣れっこさ」アディがおどけた風情で首をすくめる。「その分ネルガレーテがたんまりふんだくれば、結構毛だらけ猫灰だらけヴェリーライス・ソー・ナイス・ベリーヴェリー・スプレンダー

 虎穴に入らずんば虎児を得ずノーリスク・ノーリウォード、と呟き返して来るリサにアディは、いいや、火中で拾った栗を高値で押し売りするギャングだよ、と朗笑し返した。

「──あの・・・私は・・・その・・・」

 ミルシュカが不安げな面持ちで、胡桃くるみ色の肌をした編団頭領ドラグゥン・デュークを振り向く。

「心配しないで。貴女あなたを救助した事は、既にアールスフェボリット支社とスザンヌのステーションの両方に一報してあるから」ネルガレーテが緩やかに首を振った。「最後のフェードインをすれば、22時間ほどでピュシス・プルシャのステーションに着くわ」

「フェードイン・・・?」ミルシュカが率然と、興味あり気に目を輝かせた。「この船舶ふねって、シュレディンガー・ウォープが出来るんですか?」

「まあ、傭われ宇宙艦乗り《ドラグゥン》の艦ふねだからね」

 苦笑交じりにネルガレーテが肩をすぼめると、ユーマ向かって、彼女にゲストルームを宛行あてがって、何か食事でも出してあげて、と言ってから、再びバド人の女を見やった。

「お腹、減ってるでしょ?」

「ありがとうございます」遠慮がちに笑顔を見せるミルシュカは学生のようだった。「あの、シャワーって使えます?」

「良いわよ、ユーマ、案内してあげて」

「あの、それともう1つ」ミルシュカが宙でペンを走らせる仕草を見せる。「筆記用具をお借りできます?」

「空き個室キャビン情報演算処理プロセッサ端末があるわよ、可搬キャリアブルメモリディスクが付いたやつ」呆れ顔でネルガレーテが小首を傾げた。「またレポート?」

 ミルシュカは無言で小さく首をすくめた。

「んじゃ、いらっしゃい」ユーマが処置トリートメントベッドを回り込んで、ミルシュカに手を差し出す。「先ず個室キャビンに案内してから、バスルームね」

 ミルシュカは小さく頷くと、気怠そうにベッドを降りて、用意された簡易沓スリッパーズに足を入れた。ユーマに支えられて救護医療処置室メディカル・ステーションを出ていくミルシュカを見送ると、残ったグリフィンウッドマックの4人はお互い顔を見合わせた。



★Act.2 救難の宇宙・6/次Act.3 採鉱開発基地、応答なし・1


 written by サザン 初人ういど plot featuring アキ・ミッドフォレスト

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