Act.3 採鉱開発基地、応答なし・1
「名残惜しいですな、
随伴護衛して来た
統轄ステーションは、惑星ピュシス・プルシャの高度約3万5000キロの対地同期静止衛星軌道にある。
基幹部は直径500メートルの、平たく潰れたマッシュルーム型円盤部に斧が食い込んだような形をしていて、その下部にある
2キロ先には
その開発対象である惑星ピュシス・プルシャは、大気で輪郭が少しぼやけた、白く輝く姿の一端を、スクリーン・ビジョン右上部に覗かせていた。
「素敵なお髭の
ネルガレーテが投げキッス宜しく、
「ネルガレーテ、ステーションから通信が入ってるぞ」
「良いわ、繋いで頂戴」
アディの声に、ネルガレーテが小さく頷く。
「お待ちしてました、グリフィンウッドマックの方々ですね」
割り込み画面に映り込んで来たのは、先程までの音声通話による担当
ジィク曰くの長期間の兵糧攻めの
「ドッキングに指定させて頂いた埠頭は分かります?
「30分、ってところかしら」
ネルガレーテの答えにも、相手はかなり気が急いているようだ。
早々なのに挨拶も抜きかよ──思わず鼻白んだのはアディだけではなかったが、まあ、無理もないと言えば無理もない。何しろ一日千秋の思いで待っていた、三箇月振りの補給だ。既に底を突いた、文字通り死活に直結する物資も多いだろう。ただ実際のそれは、間も無く荷役が始まるバラタックの
「それで
本来なら不機嫌な口調で返すであろうネルガレーテが、意外と柔らかい声音を上げた。
「ああ、これは申し遅れました」ゴース人の男の口調は丁寧だが、声は硬く探るような目付きを向けて来た。「私、アールスフェボリット社のラッセ・コーニッグです。ピュシス・プルシャ開発プロジェクトで
「あらあら、これはお初にお目に掛かりますわ、
ネルガレーテの、少々鼻に掛かった声は、確かに他所行きだった。
途端リサは、
25分後、機艦アモンは指定された埠頭に
指定された此方の係留施設は、貨物船バラタックのような宙域泊ではなく、
ただ
淡々と、的確に、黙々と
雰囲気が一変したアモンの
「んじゃリサ、彼女、ミルシュカを案内して来てくれる?」心なしか、ネルガレーテの声も弾んで聞こえる。「彼女の
「
勢い良く返事すると、リサはハーネスを外して
ミルシュカを伴ったリサが、
アモン艦体全体に小さな震えが
「ステーション側からの環境
10秒もしない間に、ベアトリーチェの乾いた声が聞こえ、アモンの
「んじゃ、行きましょ」
ネルガレーテが
「──よく来ていただきました、
ステーション側の
真正面の宙空に、頭突きでも食らわせようかと思わせるほどの距離で、首を突き出している
コーニッグは
「これはこれは、
振り返るネルガレーテの言葉に、リサが脇にいたミルシュカの小さな腰をそっと押す。
押し出されたミルシュカが、すーっと
「──デルベッシさん、よくぞご無事で」
ミルシュカたちを少しばかり見送ってから、
「この度、
グリフィンウッドマックが請け負った業務内容を報せる、ヌヴゥ役員からのステーション宛メッセージ映像を、入港に先だって送信してあるが、現場最高責任者たる
「早速ですが、受諾したミッション遂行の完了承認をいただきますわ」ネルガレーテがぷっくらした唇にニッコリとした笑みを浮かべる。「それとヌヴゥ役員からは、
「先程に送信いただいた、支社役員からの業務通信にありました。承知しています。既にゲスト・ルームを手配してあり・・・」
「いえ、お構いなく」
大仰に頷くゴース人
「基地の困窮への
「え、あ、まあ、とにかく──」ネルガレーテが遠慮するとは想像していなかったのか、返事に窮したコーニッグが、落胆気味に言葉を濁した。「とにかく、
頷くネルガレーテを先頭に、グリフィンウッドマックの面々が、
「ここからは、標準の重力環境が維持されています。お気を付けて」
出た先では、長期間の耐久生活のためだろう、きちっとしたスーツではなく、しわくちゃのシャツを着たコーニッグの部下らしき人物が2名、慇懃に腰を折って出迎えてくれた。円形をした乗船待合区画になっていて、弧を描く壁沿いに別の
「本当の意味で、命拾いいたしました」
どうぞ、とコーニッグが手を広げて、ネルガレーテを
5人乗りのオープントップの
「正直、食糧も尽きかけていて、こうなったらピュシスに降下してでも何か食糧になるものを調達しなければ、と覚悟を決めようとしていたところなのです」
積み木にタイヤを履かせたような、オープントップの
「それは随分と難儀されていた事ですわね」ネルガレーテが柔和な笑みを浮かべ、労うように言った。「バラタックの
「ご連絡いただいた通信内容には、先発したゴーダムは何者かに襲われて撃沈された、とありましたが、本当ですか・・・?」
顔を曇らせたコーニッグが、隣のネルガレーテを横目に見た。
「残念ながら」ネルガレーテは脚を組み替えて、小さく吐息した。「現実には私たちも、ゴーダム救難の最中に襲われました」
「こんな辺鄙な宙域に、
「
ネルガレーテは正面を向いたまま、不安を煽るような素っ気無い言い方をした。
「・・・・・・」
コーニッグが、そのネルガレーテの一言に、何か言いたげに口を開きかけたが、直ぐさま目を逸らすようにそっぽを向き、そのまま押し黙ってしまった。そのコーニッグの所作をちら見したネルガレーテが、薄い笑みを浮かべた。
角を2つ曲がり、幅をゆったり取った両側通行の通路を真直ぐに150メートルほど、5箇所の
先に降りたコーニッグからエスコートを受けて、ネルガレーテが軽やかに下車する。
一行はよれたシャツの部下に案内され、近くのリフトに乗り込んだ。扉が開いた先は、
★Act.3 採鉱開発基地、応答なし・1/次Act.3 採鉱開発基地、応答なし・2
written by サザン
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