Act.1 初めてのスティック(操艦桿)・2
「──ジィク、
「それからベアトリーチェ、ステーションに着くまでは、あなたが航行管理するのよ」
「
ネルガレーテの指示に、ベアトリーチェは振り向きもしない。
「それとビーチェ──」
「
「あら、私なら大丈夫よ」
「脇腹を強く打ったんでしょ? スキャンしときなさいよ」ユーマが底意地悪そうに
「中身って、クリームパン《カスタード・フィリング》じゃあるまいし・・・!」
ユーマの毒舌に、思わずネルガレーテが色をなす。
「なあに、
「失礼ね!」さすがのネルガレーテも目を三角にして、ジィクを睨め付けた。「あんたが怪我したら、
「何か勘違いしているぞ、ネルガレーテ」ふふん、とジィクが鼻で笑った。「俺は女性に不自由はしていない」
「そうね。だったらおっぱい丸出しの、エロ・グラフを100枚も枕元に貼ってあげるわ。あんたなら早くやりたくなって、治りも早まるでしょうよ・・・!」
「あなたが、“やる”って口にしないの、ネルガレーテ!」
横に立つユーマが床を蹴りながら、ネルガレーテの肩を抱えて引っ張った。
「あのひん曲がった口が悪いのよ・・・!」
ユーマに引き摺られるように宙を流れるネルガレーテが、悪態を
「
会話の成り行きも雰囲気も一切考慮しないベアトリーチェの声が、割って入る。
「はいはい、行くわよ、ネルガレーテ」そう言うが早いかユーマは、アディたちが出ていった
ジィクは無言で、挙げた左手をひらひらと振った。
ユーマに押し出されたネルガレーテが、
普段は何ともない床に足を着けた衝撃に、ネルガレーテが一瞬顔を歪めて脇腹を押さえる。
2つ目の
反対の艦首側から入ると、直ぐがリサを皆に紹介していた
ネルガレーテに続いてユーマが、
ネルガレーテとユーマが
“・・・人の・・・声・・・?”
リサの意識が微かに戻ってくる。
花弁のような意匠の導光パネル照明。ニュートリノ画像診断用
“ここ、何処よ・・・”
リサは茫洋とした感覚で、現実を把握しようとした。
「──痛い、そこ痛いのよ、ユーマ・・・!」
聞き覚えのある声だ──リサが、まだ少し霞む目で声の方に首を巡らせる。それでリサは初めて、ベッドに寝かされ酸素マスクを掛けられている事に気が付いた。
「ほら見なさい。酷く打って内出血してるじゃない。これ、当分青痣になるわよ」
銅色のアクセント・カラーが入った
“あ・・・ユーマ・・・それにネルガレーテ・・・?”
リサが意識して目を凝らす。リサはまだ全身が虚脱感に捕らわれ、どことなくぼんやりして記憶が巧く繋がらない。
“ここ・・・
横目に見える少し離れた壁にも、
ユーマの陰から見えたネルガレーテは、
ファウンデーション・ウェアはノースリーブの
ただネルガレーテは
「いやーん、こんなところが青痣になるなんて、ドジッ子丸出しじゃない」
「その
「何よそれ・・・! 私、そんな馬鹿みたいな酔い潰れ方した?」
“あ・・・ネルガレーテって・・・やっぱり・・・素敵・・・”
自然と目に入って来る情景への取り留めのない思いが、リサの脳裏にぼんやり浮かぶ。まだ夢見心地のような感覚の中で、初めて見るネルガレーテの半裸身に目を釘付けにしていた。
事実、キュラソ人
それに加えてネルガレーテは、ぷっくら紅唇の口元にある
「呆れた。生娘みたいに、可愛い寝顔を見せてると思ってたの・・・?」
「ユーマ、絶対に喋っちゃだめよ・・・! 永久に口を
大きな肩を
「へべれけに泥酔してたから仕方ないでしょうけど、
「ひん曲がった性根の悪い目で見るから、
冷たさを
「目を覆いたくなる寝姿でしょ。
「──必ずあのエロ・ペロリンガの、ぐうの音も出ない、
立ち上がったネルガレーテが背を向けると、ファウンデーション・ウェアを整えて
ファウンデーション・ウェアは機能性だけの下着なので、客観的に見ると脱ぎ着る仕草に色気も何もあったものではない。ただ男性用
そんなネルガレーテの姿態を、リサがどこか憧れるように無言で見詰める。
“
そこまで思い至って、突然リサの
“──
自分は
「酔い潰れるといつも大の字になる、あられもない
ユーマが呆れ返った顔を見せていた。
「いつもじゃないわよ! いつも、は嗜む程度なの!」
「
それを聞いていたリサが、思わずぷっと噴飯した。
「──あら、リサ」
ネルガレーテが首を巡らし、ユーマが振り返った。
「目が覚めた?
ユーマのその言葉に、反射的に反応したリサが、酸素マスクを外して弾けるように上半身を起こした。
「──アモン・・・!」
「アモンはどうなってるのッ・・・?」
「大丈夫よ」白磁に鬱金のアッパートルソを着込みながら、
「あ・・・ああ・・・」
極度の緊張のあまり、せっつく
「あ・・・あたし・・・気を失って・・・何て間抜け・・・」
白い喉元を見せて天を仰ぎ、解れて掛かった茜髪を掻き上げて、静かに息を吐いた。
「最初からこんな体たらくじゃあ、
「あらあら、随分と自分に厳しいのね、リサ──」
気を落とすリサに声を掛けながら、ユーマは室内に据えられているドリンク・サーバマシンの前で背中を見せて立つと、
「ニアミスは単なるミスで、衝突した訳じゃないわ。逆に、それでも回避して退けた、見事な
「70メートル級の系内宇宙船の操艦
「大体、ネルガレーテが
笑みを浮かべてリサにカップを差し出すと、ネルガレーテをちらりと横目で見た。
「けど、惑星重力圏での
確かにその通りだった。
実は恒星間航行を主とする外洋型の宙航船舶は、基本的に標準型惑星の重力圏内に降下できる能力を持っていない。アモンが艤装しているような
実際、船会社も、宙港運営会社も、そして船員側も、船舶を、特に
なので
だからこそ、外洋宇宙艦の惑星重力圏における飛航、それも
「──それに、粗っぽいが勘所は冴えてる、ニアミスの処理は天才的だ、って言ってたわよ、アディも」
「え? アディが・・・?」
「本当に・・・?」
「その上、ここまで運んでくれたのもアディ。しかもお姫さま抱っこの役得付き」
可笑しそうに頷くユーマが、にやっと笑う。それを聞いたリサがたちまち耳まで真っ赤にして顔を伏せ、束の間沈黙したかと思うと、自分の寝姿を見ていきなり思い立ったように顔を上げた。
「あ、ひょっとして・・・!」
「──安心して。脱がせたのはユーマだから」
思わず胸を両腕で隠したリサに、ネルガレーテが両手を開いて、落ち着いて、と仕草した。
リサは自らも
「
「あ・・・」
話し掛けてくれる言い草から何となくは感付いてはいたが、ネルガレーテはこの先もちゃんと自分を任用する気でいてくれている。リサの
「誰だって最初はやらかす失敗よ。リサのはちょっと度が過ぎただけ」
「あたし、あの
★Act.1 初めての
written by サザン
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