Act.1 初めてのスティック(操艦桿)・3
「そんな時はね、リサ、こう言うの」ネルガレーテが腹から声を上げた。「──黙ってろ、このドテカボチャ」
「ドテカボチャ・・・!」
合わせた両手を口元に当て、目を点にするリサに、ユーマがニヤッとしながら悪乗りする。
「ガタガタ
「あら、その
「え? 奥歯ガタガタ? 脳みそチューチュー・・・?」
初めて聞くドラグゥン流の
「だったら、コンクリ詰めして天の河に放り込むぞ、なんてどう?
リサが堪らず、プププと噴き出す。
「──そうそう、リサには笑顔がよく似合うわよ」満面の笑みを見せたネルガレーテが、小さく頷くと踵を返す。「意気が戻ったら、
「ありがとう、ネルガレーテ」
「あ、そうそう。アディが、こうも言っていたわね」
ネルガレーテがちょっと考え込むような、それでいて嬉しそうな不思議な表情を見せた。
「──あの
「え・・・? それ、どういう・・・」
一瞬きょとんとしたリサが、
「
振り返ったユーマは、頷くリサと目を合わせ、微笑みを残して出て行った。
“あたし・・・らしい? あの
リサはユーマに貰った
“それって、思っていた以上に乱暴な性格、って意味かしら・・・”
リサは大きく深呼吸をした。
“──もう少し上手くやれる自信はあったんだけどなあ・・・”
正直、悔しかった。
皆に紹介してもらうまでは、自信があった。
必要とされる専門知識とスキルはネルガレーテから紹介してもらった諸機関で身に付けたが、いずれも悪くない成績だった。中の上くらいに考えていた。
“けど、勘所は良いって言ってくれたのよね? それって褒めてくれたのよね・・・アディ?”
なのに結果的に、失神すると言う無様な醜態を
“──
ユニット枕元の
“──とにかく、まだ自分には、やらないといけない事がある”
ネルガレーテが言った通り、まずはアモンをアールスフェボリット社のステーションへ
“早くアディに、よし行くぞ、リサ、って言われたい・・・!”
そう思い直して、リサは
そう聞いて眉を
そう呼ばれる一群が、いつからそう呼ばれ始めたのかは定かではない。
自ら保有する機艦を自在に駆り、銀河を宇宙を無尽に渡り歩く、雇われ
実際、航路開拓から人命救助、武力制圧、安全保障活動、強襲鎮圧、危険物輸送に船舶運航代理、果ては密輸から強盗、
もともと素性の怪しい
そんな
実は現在、就役している外洋航行船舶の99.99999パーセント以上が実装している超光速航法システムは、超対称性場推進と呼ばれるシステムだ。他の
それは
その
その極端に鎖国的で排他的なノルニルからの技術供与、
ただ面白い事に、ノルン人と一度関係を構築できた者は、次からは何のストレスもなく交渉のテーブルに付いて貰えるのだ。そうなるとその特殊な超個体社会構造から、如何なるノルン人に交渉を持ち掛けても差し障りないと言う、他の人種には理解不能な社会構造をしている。だからノルニルと交渉する場合、既にノルニルと交渉や取引経験のある仲介者を立てる。つまり、
さらに奇妙なのが、この
「首星ホフランから11万キロ、
ホフランの
「
相変わらず抑揚のない、ベアトリーチェの声が続く。
「アールスフェボリット・コスモス社のステーションの現座標最終確認、移動ベクトルからの会合時座標検算。フェードアウト座標を、
ジィクが航宙路の最終ナビゲーションを設定する。
「
ユーマの言葉と同時に、主機双発エンジンの間に挟まれるように収納されていた、大きな下方垂直尾翼のような虚時空航行用の
「システムを
リサの
それとなくアディが、左横の
アディの視線に気付いたリサが、横目でちらりと振り向くと笑顔で大きく頷いた。緊張はしているものの、無茶ぶりを
リサが
「フェードインまでのカウントダウンを開始します」
ベアトリーチェの声に、リサの緊張も一層高まる。
「・・・3・・・2・・・1、ゼロ・アワー」
「フェードイン・・・!」
ベアトリーチェのタイミング・コールに、リサの左手がパワー・ノブを押し込む。
途端リサは、ぶるん、と震えにも似た振動が体内に起こるのを感じ、脳髄の芯が吸引機で吸い出されるような、フェードインの独特な感覚に襲われる。不意に鉄を舐めたような苦い味が湧き起こり、耳の奥がツーンと痛くなって吐き気を覚えた、その刹那。
「フェードアウトしました」
と言うベアトリーチェの声が、リサの脳の奥で
「
ベアトリーチェの言葉に、ジャングルジムのようなステーションの拡大映像が
アールスフェボリット社のステーションは全長2500メートル、
「
ジィクが、ベアトリーチェの計測した座標とステーションの公転移動速度を考慮して、あらかじめ指定された埠頭までのアプローチ・ルートを算出し、それに伴う姿勢制御を設定する。
艦体姿勢は、フェードアウトした時点で慣性運動しているが、フェードインした時点での慣性ベクトルを維持している訳ではない。フェードインした空間とフェードアウトした空間のエントロピー差によって、フェードアウト時に慣性ベクトルが変位する。この変位量は、フェードイン時点では計測予測出来ない。つまりフェードアウトしてみるまでは、“どっちを向いて飛んでいるか分からない”状態なのだ。なので虚時空ドライブした後は、必ず座標把握とベクトル把握、それに再ナビゲートと大なり小なりの姿勢制御シークエンスが必要になる。
「
ジィクが慌ただしく姿勢制御のプログラムを組み立てる。
「針路クリア、光学スキャニング、赤外線警戒システム、進航への障害を認めません」
ベアトリーチェの可愛らしい声がそれに応じる。
「アモン、転針します」
グン、と軽く突き飛ばされるような衝撃が伝わって、
★Act.1 初めての
written by サザン
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます