28. 兄、大型イベントの内容を予想する

 地下遺跡のクエストをクリアし、最奥の隠し部屋に設置された宝箱から出ていたクリア報酬。

 それは【トリックリング】だった。


「確かに言ってたもんな。このクエストの報酬は、参加者の一番育っているスキルに対応した装備だって」


 トリックリングは、このクエストへと向かう前にミシャさんから貸してもらっている装備の1つで、その効果は『事前に設定しておいた装備を瞬時にインベントリから呼び出し装備する』というもの。今回のクエストでもそれは大いに役立った。

 このクエストが終わったら借りている装備を返さなくてはいけない以上、ここでトリックリングを手に入れることは悪いことではない。と言うか幸運なことだ……なのだけれど。


 ――なんか嫌な予感がするんだよなぁ~。


 今回、トリックリングと一緒にタンバリンと杖を借りたって事実が、余計に不安を煽ってくる。

 宝箱から出てきたリングを見つめながら、そんな不安を覚えたちょうどその時、俺の元へミシャさんからのフレンドコールが鳴り響いた。


『もしもし、マハール君。調子はどうかな? そろそろクエストもクリアして、宝箱でも開けている頃かなと思ってコールしてみたんだけど』

「完璧なタイミングですよ。盗聴でもしてんですか?」

『そんなまさか。ただ、2人のスキル構成と装備、それとそれぞれの行動パターンから展開を予想して、大体のタイムスケジュールを予想しているだけなのさ♪』

「あんたは神か何かなのか!?」


 この人も大概訳の分からない存在だ。

 バーチャさんも巷では頭のおかしいアイテムをぽんぽん生み出す狂人として認知されているし、チアも突然暴走機関車になったり猿になったり、こと戦闘に関してだけ言っても俺には理解不能な戦闘センスを発揮する。

 突き抜けた存在は簡単に人の枠組みを逸脱するから困る。


「それで、何か用ですか?」

『そう淡泊な対応しないでよ。お姉さん、イジけちゃうよ?』

「さっさと本題に入ってください! こちとら人外の対応は、妹だけで手いっぱいなんですよ!」

『あははっ。人外だなんて照れるにゃ~♪ ミシャお姉さんを口説いてどうするつもりだい?』

「電話切るぞ、こら!」


 ミシャさんのからかい魂に火が付き出した事を感じた俺は、早々にこの流れをぶった切る。

 疲れている時に、ミシャさんの対応なんて真面にやっていられない。


『まぁまぁ、そう怒らないで。電話の用件は、次にやる大型イベントの概要説明をしようと思うからバーチャの店に集まってほしいって話さ』

「遂にですか」

『遂に明かされるミシャお姉さんの壮大な計画! ちなみにどんなイベントになるのか予想はつくかい?』

「正直今までは全く分かりませんでしたが……今回のクエストをクリアする過程で、ミシャさんが俺に何をやらせたいのか、何となくわかってきた感じがします」

『ほほぅ、それは僥倖。マハール君に隠密スキルと奇術スキルを上げさせた価値はあったってことだね♪』


 そんな上機嫌なミシャさんの様子にため息をつきつつ、俺たちは地下遺跡ダンジョンから出て、バーチャさんの店へと向かった。


 ◆


「マハール君、チアちゃん、お疲れ様。なかなか大変なクエストだったみたいね」


 俺たちがバーチャさんの店に入ると、そこには先客としてリンスさんとペットのモカさんがいた。

 最近は自分たちもスキル上げやらクエストやら忙しかったので、リンスさんたちと会うのは久々な気がする。

 

「えぇ、正直かなり大変でした。当分身の丈にあった戦闘だけで十分ですね。そういえば、リンスさんは普段ソロでダンジョン攻略とかされてるんですか?」

「いえ、私の場合は昔所属していたギルドのフレンドと活動しているわね。他の職業ならまだしも、テイマーはソロでの活動はかなりリスキーなのよ」


 実は数ある職業の中で、最もリスクの高い職業がテイマーだったりする。

 と言うのも、何とこのゲームではHPを全損し死んでしまったペットはプレイヤーのように生き返ることはなく、そのままロストしてしまうのだ。つまり、もしモカさんがモンスターにやられてしまった場合、それは本当の意味での死を意味する。

 そのため、テイマーは極力ペットロストのリスクを引き下げるために高価な装備品やアイテム、そして仲間とパーティーを組んで安全マージンに人一倍気を使う必要があるのだ。


「特に私は今、モカさんのレベルをカンストさせることを目標にしているからね。向かう先はどうしても高難度ダンジョンになるから、1人では怖くて絶対に無理ね」

「テイマーって大変なんですね。ペットをロストさせるかもしれないリスクを背負って高難度ダンジョンなんて、俺は行けそうにないです」


 今回、俺たちは身の丈に合わないレベルのダンジョンへと向かった。

 途中、危ないことも何度もあったし、実際途中からは逃げ回りながらボス部屋まで進んでいったのだ。もし、あの戦いにキャラロストの危険性があるなんて話だったら、俺は全力でチアを止めていただろう。


「私もどんなに報酬を積まれても1人で高難度ダンジョンなんて行かないわね。……でもね、世の中には突き抜けた才能を持つ人がいるのよ」

「突き抜けた才能ですか?」

「そう、この世界には【獣の女王】ってテイマー界の頂点に君臨する二つ名持ちがいるんだけど、このプレイヤーは誰にも頼らず1人でいろんな高難度ダンジョンに向かい、何体ものペットをレベルカンストさせていってるの」

「……二つ名持ちは、誰も彼も本当に人外なんですね」


 このプログレス・オンラインの世界にたった6人しかいない二つ名持ちプレイヤー。俺がどんなに努力したところで、自分が二つ名持ちプレイヤーになることは絶対に無いだろう。

 けれど、そんな人外の存在の話を聞くたびに、ひいき目なしに飛び抜けた存在であると確信しているチアが、そのうち7人目の二つ名持ちプレイヤーになってしまうのではないかと予感した。


 そんなひそかな予感を感じていると、店の奥からバーチャさんとミシャさんが現れた。


「やぁ、お待たせ♪ そして改めて、マハール君、チアちゃん、クエスト攻略おめでとう♪」

「ありがとう、ミシャお姉ちゃん! チア、すごく頑張ったんだよ!」

「うんうん、それは一目見てわかるのさ♪ 今回のクエスト攻略で随分強くなったようだね」


 そんな楽しそうな雰囲気で話す2人だったが、俺はどうしてもそんな気分にはなれず、ジトリとした視線をミシャさんに向けてしまう。


「マハール君、そんな熱視線を向けないでおくれよ。思わず頬にチューしたくなっちゃうじゃないか」

「ガチで止めてください。と言うか、ミシャさん。今回のクエスト攻略にあたって、俺、ミシャさんに物申したいことが色々あるんですが?」

「あはは。まぁ、そうだろうね」


 ミシャさんは悪びれることなく笑い続ける。


「まぁ、その話はあとで聞くとして、先にマハール君に聞こうじゃないか。次の大型イベント、いったい何をするとマハール君は予想してるかな?」


 ミシャさんのその問いに、俺は今日の地下遺跡ダンジョンでのことを思い出す。……そして、その上でミシャさんの考えを読み、答える。


「次の大型イベントの内容は……鬼ごっこですね」

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