27. 兄妹、クリア報酬を手に入れる

「にーちゃん、大丈夫?」


 疲れて倒れ込んでしまった俺の顔を覗き込みながら、チアが心配そうに声を掛けてきた。


「ああ、大丈夫だ。けど、しばらくは棍棒を持った奴から追いかけられる経験は遠慮したいな」

「棍棒は、振り上げた時に当たらないところに行けば当たらないよ?」

「……まさに強者の真理だな」


 俺もいつかステータスを上げて強くなったら『当たらなければどうということはない』と言える日が来るのだろうか。

 ……いや、無理だな。


「そういえば、さっき新しい技能を使ってたよな。狂闘スキルが上がって使える技能が増えたのか?」

「うん! スキルがいっぱい上がってマナバーストって新技を使えるようになった! 魔力を全部使って相手を殴るの!」

「リスクも高そうだけど、強そうな技だな。けど、多分それ消費MP依存の効果量だろ? となると、MPのステータスも上げていかないと宝の持ち腐れになるな」


 MPは魔力スキルの値によって上昇するのだが、この魔力スキルはMPを消費する行動をとらなければ成長していかない。

 多分、マナバーストを使っていけば少しずつは上がっていくとは思うが、早く育てようと思えば白魔法や黒魔法のスキルを育てた方が断然成長は早いだろう。……ゴリゴリの肉体派であるチアに魔法の適性があるのかどうかは分からんが。


 チアのスキル育成について考えていると、ふと今の自分のスキルがどうなっているのかが気になった。

 この地下遺跡は、今の俺たちにとっては結構難易度の高いダンジョンだったのだ。チアのスキルはここでの戦闘でかなり成長しているとのことだったので、もしかしたら俺のスキルもかなり成長しているかもしれないと少し期待してシステムメニューを呼び出した。


「……ほぼ、上がってねぇ。と言うか、上がってるのは機動力スキルぐらいだし、これ絶対敵から逃げ続けたからだろ」

「にーちゃん、スキル上がってないの? チアはこんな感じだったよ?」


 そう言ってチアは自分のシステムメニューを呼び出し、自身のスキル構成を俺に見せた。

 基礎スキルである筋力、機動力、回避が軒並み上がっており、特に狂闘スキルは元が18ぐらいだったのが26と急成長していた。


「まぁ、そうだよな。ひたすら逃げ続けた俺と、格上相手に戦い続けたチアが同じ成長率なわけないわな」

「でも、にーちゃんも魔法使って戦ってたよ?」

「あれは杖にストックされている魔法を使っているだけだったらな。白魔法スキルにも黒魔法スキルにも経験値が入ってきていないんだ」


 それが可能なら、高位魔法をストックできるアイテムを使えば簡単に魔法系統のスキルを育てることができてしまう。しかし、そんなお手軽スキル上げ術など運営が許すわけもなく、当然のように俺の魔法スキルはまったく成長していなかった。

 仕方がない事とはいえ、妹と比べて全く成長していない現実にため息をついてしまう。だが、今さらそのことで落ち込んでも意味はないと気持ちを切り替え、ボスを倒した後のメインイベントに意識を向ける事にした。


「よし、チア。クエストのクリア報酬を取りに行くぞ! 苦労してここまで来たんだ。相応の物をもらわなきゃな」

「おー! チア、巨大ロボットが欲しい!」

「それは欲張りすぎだろ……」


 ホブゴブリン2体倒した報酬に巨大ロボットが手に入るなら、ゴブリンロードでも倒した日には世界の半分ぐらいはくれそうだ。

 そんなアホなことを考えつつ、俺たちはボス部屋の奥へと向かう。


「えっと、イベントNPCの話では、地下遺跡の最奥に隠し扉があるってことだったけど」

「にーちゃん! 鍵穴があったよ!」

「おお、マジだ。ただの壁に鍵穴だけあるけど、どうやって開くんだ?」


 それは完全にただの壁にしか見えなかった。岩でできた一面の壁にぽつりと1つの穴が空いていて、下手したら見逃してしまいそうだ。

 一応他の所も探してみたが、それらしいものは他になかったため、これで間違いないだろう。


「よし、チア。もらった鍵を使ってみてくれ」

「わかった!」


 チアはイベントNPCからもらった鍵をインベントリから取り出し、壁に空いた穴へと突き刺す。そしてグイッとねじると仕掛けが作動し、壁の一部がゴゴゴと動き出してさらに奥の部屋が出現した。


「凄いね、にーちゃん!」

「だな。こういう仕掛け扉とか、隠し部屋って何かテンション上がるよな」

「いつかチアたちの秘密基地にも、こういうのが欲しい!」

「お前、それ実現するのにいくらかかるんだよ……と、言いたいところだが、その意見は全面的に肯定しよう。隠し部屋は悪の組織のロマンだからな!」


 今のところ、全プレイヤーに提供されている一部屋分のプライベートエリアしか持っていないが、夢を見るのは自由だろう。

 そんな将来の願望を語りながら隠し部屋へと足を踏み入れると、その部屋のど真ん中には1つの宝箱が鎮座していた。


「にーちゃん。これ、チアが開けていい?」

「ああ、いいぞ。地下遺跡ではチアが一番頑張ったからな」

「やったー♪ じゃあ、開けるね!」


 テンションアゲアゲのチアが期待に満ちた顔で宝箱に手をかけ、そしてゆっくりとその宝箱を開ける。するとそこには……。


「にーちゃん。これって」

「はぁ、そうきたか」

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