24. 兄、封印されし業を解き放つ

 まだまだ続きそうな地下遺跡攻略に頭を悩ませつつ、ひとまず俺は兄としてやるべきことをした。


「チア。お前、さっきダメージ受けてただろ? とりあえず、これ飲んどけ」


 そう言って手渡したのは回復ポーションだ。

 金欠の俺たちが持つ数少ない回復ポーションは全部で4本。今回1本使うから、残り3本になる。

 この回復ポーションは飲む以外にも、体にかけても回復するという仕様になっているため、今のところサポーター的ポジションに落ち着いている俺が全て管理している。……チアに持たせておくと、不要なタイミングで消費してしまいそうという理由も勿論あるけれど。


 チアは渡されたポーションをチビチビ飲みながら、先ほどの戦いでの疑問を口にした。


「にーちゃん。ミシャお姉ちゃんからもらったステッキは使わないの?」

「ああ、マジカルスターロッドな。あれは全部で5つの魔法が設定されているんだが、どれも1度使うともう使えなくなるんだ。この地下遺跡ダンジョンの広さは不明だし、この先どれだけの戦闘があるのか不明な状況であんまり使いたくないんだよな」


 ミシャさんが事前に設定している5つの魔法、それは。


 ・ヒーリング * 2

 スキル値40の白魔法。HP回復(中)。


 ・アクセラレーション

 スキル値40の白魔法。対象の機動力を上昇。


 ・ネガティブリバース・アクセラレーション

 スキル値40の黒魔法。対象の機動力減少。


 ・ローズバインド

 スキル値30の黒魔法。対象の足元から茨を発生させ巻き付ける。行動阻害と敵の動きに合わせて微量継続ダメージ。

 

 という感じで見事に全てサポート系だ。

 攻撃魔法が1つも入っていないということは、チアのサポートに徹しろというミシャさんの指示なのだろう。まぁ、元々そのつもりではあるのだが。


「……よし。やっぱりこのステッキは温存だ。その代わり、ミシャさんからもらった別のアイテムを使うぞ」

「何するの?」

「そうだな。まずは……チア、合体だ!」

「えっ、いいの!?」


 これは昔、俺自身の手によって封印された禁断の業だった。

 その業を今、解き放つ!


 俺はその場で厳かに膝を折る。チアは俺の背後へと回り込み、俺の背をうんしょうんしょとよじ登り始めた。

 そして、チアは俺の肩に乗り、満足気な笑顔を見せる。……そう、肩車だ。


 チアは昔、太陽戦隊サンザリオンの変形合体ロボットに触発されて、俺の肩に乗るのがマイブームになっていた時期があった。

 無類のビーザス推しなのに、敵側のロボットに触発されるのはどうかとも思うのだが、そこはチア。細かいことには拘らない幼女なのである。

 そんなチアは四六時中俺の肩によじ登っては「合体!」とご満悦だった……のだが、ある日、チアはよじ登る途中でバランスを崩し、派手に落ちて頭を強打した。

 それからは俺から合体禁止令を発令され、それ以降合体ができず、しょんぼりチアさんとなってしまったのだ。


「チア、今から俺がいいと言うまで絶対に喋っちゃ駄目だぞ」

「ん!」


 俺からの指示を受けたご満悦チアさんは、両手で口を塞ぎ、「チア、喋らない!」と身体で表現した。

 

「よし、準備完了だな。……それじゃあ、行くぞ」


 俺はインベントリから1つの小袋を取り出す。それは、ミシャさんから受け取っていた秘密道具、癇癪玉だった。

 そしてその小袋を片手に2体のゴブリンの待つ場所へと向かった。ゴブリンは既に2体ともリポップしており、ここは通さないとばかりに下へと通じる階段の前を守っている。


「体術壱ノ型<忍び足>」


 体術壱ノ型<忍び足>。それは隠密スキル10で使えるようになる技能で、その効果は『1分間、体から発する音を完全に消す』というものだ。

 その消音効果のある技能を使った俺は、次に小袋から癇癪玉を1つ取り出し、物陰に隠れつつその癇癪玉を投げた。

 癇癪玉は放物線を描き、地面に落ちると『パンッ!』という爆発音を上げる。


「グキャッ!?」


 その音に驚いたゴブリンたちは、音のした方向へと振り向き、何事かと注視する。


 ――よし、今だ!


 俺はその隙を見逃さず、階段へと駆け込む。

 そう、これが俺の導き出した潜入作戦。ここから先は極力戦闘を避けるため、隠れながら先へと進んでいくのだ。

 そうして俺たちは、2体のゴブリンと戦うことなく地下への階段を下りていった。


「こちらスネーク。今、地下2階へとたどり着いた」

「にーちゃん、何言ってるの?」

「……いや、気にしないでくれ。と言うかチア、俺がいいと言うまで喋っちゃ駄目だったんじゃなかったっけ?」

「ん!」


 俺に指摘されたチアは、また両手で口を塞いで「お喋りしないよ!」と身体で表現する。

 そして俺は……潜入捜査をしているような妙な高揚感を感じて、少しハイテンションになっていた。

 かくれんぼという遊びは、何でいくつになってもこんなに楽しいのだろうか。


 その先でも、先ほどと同じように癇癪玉を投げて敵の注意を逸らし、その隙に前進した。もし敵の配置がそれを許さない場合は、インベントリにしまい込んでいた森で拾った木の実を取り出し、ゴブリンに投げつけて1匹だけおびき寄せてチアに倒してもらい、できた隙間を利用して身を隠しながら少しずつ進んでいった。


「にーちゃん。こういうのも何だか楽しいね!」

「おう、お前もかくれんぼの楽しさを知ったか。これで1つ大人になったな。……それとチア、まだ不意の遭遇戦があるかもだから静かにな」

「ん!」

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