22. 兄、ミシャさんの悪辣な罠に戦慄する

 バーチャさんとミシャさんから支援物資を受け取り、クエストを進める準備が整った。

 初めはクレイジークレイジー特製の品と聞いて、受け取るのに少し腰が引けてしまっていたが、見た目こそ凄かったが中身は至って普通の有用な装備だった事に安堵する。……まぁ、マジカルスターロッドに関してはちょっと不穏な物があったけれど。


「バーチャらしいもっと凄いのを想像してた?」

「当然の様に俺の思考を読まないで下さい。……まぁ、ぶっちゃけそうなんですけど」

「大丈夫大丈夫、安心して。頭のぶっ飛んだアイテムの数々は本番のイベントで思う存分使ってもらう予定だからさ♪」

「それ、全然安心出来ないんですけど!?」

「知ってる♪」


 にゃははと笑うミシャさんにちょっとイラっとした視線を送りつつ、多分そんな俺の反応も楽しんでいると思い直して気持ちを切り替える。

 本番のイベントが一体どんな物になるかはまだ知らないが、バーチャさんの作ったアイテムを大規模に使うイベントである以上、普通のイベントにはならない事は覚悟していた。

 であれば今の俺に出来る事は、チアのクエストを一刻も早く片付けてスキル上げに専念する事。準備が整えばそれだけこちらの負担が減る……はずだ。


「あ、そうだ。これも渡しとくね」

「何ですか、これ?」


 ミシャさんから手渡されたのは小さな押しボタンだった。


「使ってみてからのお楽しみさ。地下遺跡に着いたら入る前に押してね♪」


 ――不穏な気配しか感じねぇ。


 最後にそんな不穏なアイテムを受け取りつつ、俺たちはミシャさん達と別れてマップを頼りに森の中の地下遺跡へと向かう。

 その途中で出会うモンスターは基本チアにお任せだ。


 ……


 …………


 ………………


「グラトニーバイト! がぶー!」


 森の中で出会った小鹿のモンスターに噛みつくチア。


「うぉぉぉおおおおおお!」


 気合いを入れてシャラシャラとタンバリンを鳴らす俺。

 そんな激闘の末、俺たちはモンスターを見事倒す事が出来た。


「にーちゃん、何で叫びながら楽器鳴らしてたの?」

「……いや、何か前線で7歳の妹が戦ってるのに、後ろで15の兄がタンバリン鳴らしてるだけってのが心苦しくてな。叫び声を上げれば一緒に戦ってる雰囲気になるかなと思って」

「気が散るから止めよ?」

「……はい」


 7歳の妹から諭される感じで叱られてしまった。

 そんな一幕もありつつ、俺たちは順調に森の中を進み、遂に地下遺跡の入り口へと辿り着く。


「さて、チア。ここでは基本的に俺の指示に従ってくれ。このゲームでは死んでもプライベートエリアで復活するが、はっきり言って妹がモンスターにやられて死ぬ姿を俺は見たくない。だから危ない時は躊躇なく逃げて、対策を立てつつリトライを繰り返すつもりだ」

「了解であります!」

「……俺が『逃げるぞ』と指示を出したら、ちゃんと逃げるんだぞ?」

「任せて!」

「……」


 兄としては妹の言葉は信じたい。……信じたいが、この妹の発言の信用度が低い事を、俺は7年間の兄生活で身に染みて分かっている。なので、妹が指示に従わなかった際の対応策を何か考えておこうと心に決めた。


「おっと、そういやあれも使わなきゃな」


 そう言って俺はインベントリからミシャさんから貰った謎の押しボタンを取り出す。


「えっと……これ、押せば良いんだよな? ……(ポチ)」

『やぁやぁ、マハール君。これを君が聞いていると言う事は、地下遺跡の入り口前に来ているという事だね。そんな君に、重要な話があるのさ』


 ――無駄にシリアスな雰囲気を出してるなぁ。けど、俺には分かる。……これ絶対しょうもないやつだ。


『実はマジカルスターロッドにはある隠し機能が2つあってね。1つは設定されている魔法が暴発しないように、音声パスワードが設定されていること』

「……おいおい、まさか」

『その音声パスワードとは……マジカル、ミラクル、マハールン♪ リリースオブ〇〇! 〇〇の部分には使う魔法の名称を唱えてね♪』

「こいつ、やりやがった!?」


 魔法少女風ステッキに音声パスワードと聞いて悪い予感はしていたが、まさか本当にしてくるとは。

 そして地下遺跡入り口前でこの情報をよこしたのは、きっとこのタイミングならチアが頑として引き返す事を許さないと分かっているからだろう。

 せめてバーチャさんの店に居る時にこの情報を知っていれば、すぐに音声パスワードの内容を変更させたのだが、このタイミングだとそれも叶わない。


『そしてもう1つの隠し機能、それは……って機能だね♪』

「おいおい、そこまでするのか!?」

『そこまでするのさ♪』

「なっ!? これ、録音じゃなくて通話だったのか!?」

『いや、普通に録音だよ?』

「じゃあ、平然と会話してくんじゃねぇ!!!」


 相手には通じないツッコミを全力で入れつつ、その隠し機能を何故黙っていたのかの意図を俺はしっかり理解した。

 そしてそれと同時に、ミシャさんの悪辣で綿密な罠に戦慄を覚えた。


『尚、この音声再生アイテムは、機密保持のため自動的に爆破されます。……5……4……3』

「何の為の機密保持だぁああああ!!」


 俺はそう叫びながら、全力で押しボタンを遠くへと放る。

 放った先では、パンッという爆竹のような音と共にハトが現れ、空へと飛び立っていった。


「おお! にーちゃん、今のもっかいやって!」

「う~ん。……それは勘弁」

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