20. 兄、秘密兵器を託される

「それじゃあ、私は店に戻るわね」

「はい、今日は色々ありがとうございました」

「ルビィお姉ちゃん、またねー」


 ルビィさんには本当に面倒を掛けてしまった。

 と言うか、このゲームを始めてから俺たちは本当に色んな人達に助けられてばかりだ。

 初心者だから仕方がないという面もあるが、こういう恩は忘れずしっかり返していくようにせねば。


「と言う事で、このクエストもサクッと片を付けて強くなるぞ、妹よ」

「と言う事ってどういう事、にーちゃん?」

「どういう事ってそりゃあ……そういう事だ」

「うん、分かった!」

「分かったのか……」


 そんな全く脳を動かしていない会話を兄妹で楽しみつつ、クエストを進行させる事にした。

 チアはインベントリからブローチを取り出し、イベントNPCの女性へと差し出す。

 

「お姉ちゃん。はい、これ。ちゃんとブローチ取り返したよ!」

「ありがとうチアさん! これは亡くなった祖母から貰った大切なブローチだったの」


 今更だが、この人はよく7歳児にゴブリンに取られたブローチを取り返しに行かせたな。……まぁ、そんな事言ったらクエストに年齢制限が生まれてしまって非難の的になるから仕方ないのだろうが。


「チアさんには何かお礼をしないといけませんね」

「あ! それじゃあ、チアは良い子だったってにーちゃんに言って欲しいの!」

「いや、今更そんな雑な印象操作意味無いからな! しかも、本人の前でそれ頼んだら逆効果だろ!」

「そうだ。以前、祖母から秘密の鍵を貰ったんです。お礼と言っては何ですが、良かったらこれを貰ってください」

「みんなマイペース過ぎて会話がぐちゃぐちゃだ!」


 と言うか、祖母から貰ったブローチは7歳児を躊躇なく送り出すぐらい大事なのに、同じく祖母から貰った秘密の鍵とやらは簡単に手放すのか。

 そのNPCはその鍵について更に詳しい情報を話してくれた。どうやら森の中には地下遺跡があるらしく、この鍵はその遺跡の最奥にある隠し扉の鍵だとの事だ。ちなみに、このNPCの家系は代々その鍵を守っていたらしい。

 このNPCの家系とやらは何者なのか、そんな大事な鍵を簡単に手放して良いのか……とは絶対にツッコまないぞ。


「にーちゃん、地図のマークが変わったよ! 早く行こ!」

「ああ、イベントが進行したのか。地下遺跡の場所を探さなくていいのは楽で良いな。ただ、その前にミシャさんに連絡を入れるからちょっと待て」

「何でミシャお姉ちゃんに連絡するの?」

「ミシャさんは俺たちのパトロン兼プロデューサーだからな。そのミシャさんの指示でスキル上げしてんのに、予定外の寄り道する事になるから一応連絡しておこうと思って」


 そう言って俺はフレンドリスト一覧からミシャさんの名前を探し、ログイン状況を確認する。プログレス・オンラインのフレンドへの連絡手段にはフレンドコールとフレンドメールの2つがあり、ログイン中のプレイヤーには電話を、もしログインしていなくてもメールを送る事が出来る。

 そして丁度良い事に、ミシャさんはゲームにログインしていたのでコールを掛ける事にした。


『ハロハロー♪ どうしたのかにゃ? チアちゃんが騒動でも起こした?』

「どうして分かるんですか……って言いたい所ですけど、多分俺も同じ立場なら予想が付きますね。それで、そのチアが起こした騒動についてなんですが」


 そこからこれまでの経緯を掻い摘んで説明した。


『ほほぅ、それはまた面白い事になってるね。ちなみにマハール君、スキルは今どのくらい育っているんだい?』

「えっと、今で奇術スキルが18と隠密スキルが12ですね」

『まだ奇術スキルは18かぁ……。よし、じゃあマハール君に新たな指示を与える! 今から全力で奇術スキルを上げて、20になったら私にまた連絡をする事。そしたらマハール君にとっておきの秘密兵器を授けて上げよう♪』

「……ミシャさんが言うとちょっと怖いんですけど、秘密兵器ってなんですか?」

『それは秘密さ♪ 1つだけ情報を開示するとしたら、クレイジークレイジー特製の品だね』


 クレイジークレイジー特製の品。それはつまり、頭のおかしいアイテムであるに違いない。

 だが、この話の流れでの指示という事は、恐らく俺たちだけでクエストを攻略するのに必要な物なのだろう。電話口でのミシャさんの声が、とても楽しそうな事に若干の不安を覚えるが……。

 そんな不安を感じつつも、正直言って俺が完全にお荷物の状態である事は自覚している為、ここは有難くそのご厚意を受け取り、スキル上げに邁進する事にした。


 ◆


「ミシャさん、指示通り奇術スキルを20まで上げてきましたよ」


 電話で新たな指示を受けた後、チアと2人でスキル上げに邁進し、翌日には目標値の20に到達する事が出来た。

 そしてミシャさんにその事を報告し、今現在はクレイジークレイジーことバーチャさんのお店に秘密兵器とやらを受け取りに来ていた。


「お疲れ様、マハール君。さぁ、これが君に授ける秘密兵器さ♪」

「……マジですか」


 ミシャさんが差し出した物、それは……『魔法少女風のステッキ』と『可愛いおもちゃのタンバリン』だった。

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