14. 兄と妹の修行回
「あちょー!」
ルビィさんの店で二人分の新衣装を注文した翌日、俺たちは森の中でスキル上げをしていた。
「にーちゃん、新しい技能が使えるようになったよ! 見ててね。グラトニーバイト!」
そう言うとイノシシのモンスターへと飛び乗って噛みつく俺の妹。
――チアの奴、確実に野生度上がってるよな。……これ、リアルにも影響出だしたら俺の所為になるのか?
現在、何故こんな事になっているかと言うと、我らがパトロン兼プロデューサーであるミシャさんからの指示だったりする。
ミシャさんからの指示は単純明快『準備はこっちで粗方整えておくから、時間一杯スキル上げヨロ♪』というもので、俺とチアはその指示に従ってスキル上げに精を出していた。
チアは噛みつき攻撃の後、また何時もの様にバーサークを重ね掛けして効果時間を延長し、出鱈目なパンチやキックでイノシシのHPを削っていく。
子供らしい出鱈目な動きで戦っているチアだが、スキルも少しずつ育ってきている為にその攻撃力は中々の物。そして驚くべきはその運動神経で、何とチアはモンスターの動きを完全に見切っており、今日はまだ一度も敵の攻撃を食らっていない。
恐らく今の状態で既に俺はチアに勝つことはほぼ不可能だろう。
「なぁ、チア。その新技ってどんな効果なんだ? 只の攻撃技って事は無いんだろ?」
「う~んとね。ちょっとお腹が膨れて、怪我が治るよ」
「満腹度とHP回復効果か。HPにスリップダメージ受けながら身体能力上げるバーサークとセットみたいな技なんだな。……けど、敵によっては使いたくない技能だなそれ」
プログレス・オンラインには実に様々なモンスターが存在する。
爬虫類に虫に人型、中にはアメーバの様なモンスターも居る。そんなモンスター達に噛みつくチアの姿を想像すると……あまり違和感はなかった。
――俺は絶対にチアとPvPはしないぞ! 変に癖になってリアルでも噛みつかれたら大惨事だ!
些細な喧嘩で噛みつかれる自分を想像して顔を青くし、ゲームとリアルの違いをしっかりと教え込んで情操教育を徹底しようと心に決める俺だった。
「にーちゃんは戦わないの?」
「……俺に出された課題は戦闘スキルじゃないんだよ」
そう、俺とチアはそれぞれ別の課題をミシャさんから出されていた。
その課題に従い、チアはとにかく戦闘系スキルを上げつつ戦闘に慣れる事を、そして俺は……奇術スキルと隠密スキルを上げていた。
「チア、ここに一枚のコインがある。それを右手てグッと握って……パッと開くとあら不思議、さっきまであったはずのコインが無くなった」
「コインはどこ行ったの!? にーちゃん、食べちゃったの!?」
「いや、食わねーよ」
これは奇術スキル1で使える【ミスディレクション】という技能で、その効果は片方の手に持っている物をもう片方の手へと移動するだけの技能だ。
ちなみに、基本プロググレス・オンラインでは魔法や技能を使う為にはその魔法名や技能名を唱える必要があるのだが、この奇術スキルの技能にはその縛りが無い。縛りは無いが地味な物が多く、尚且つ戦闘では殆ど役に立たないので完全に戦闘職以外のプレイヤーの為のスキルだったりする。
チアがモンスター相手に暴れまわっている間、隠密スキル1で使える【瞳術壱ノ型<暗闇>】という暗視バフを自身に付与する技能を使いながら延々とコインを右へ左へと移動させ続けていた。
正直これにどんな意味があるのかも分からないし、意味を聞いても指示を出していた本人が。
『奇術スキルと隠密スキルを上げる理由? そこはイベント告知を始めるまでのお楽しみさ♪』
とはぐらかされてしまうので、結局訳も分からずコイン遊びに興じている状態だ。
「はぁ~、何かしら意味はあるんだろうけど、延々と単純作業でスキル上げするのは精神的に疲れるな」
「じゃあ、にーちゃんもチアと一緒にバーサーカーやる?」
「いやぁ、俺にチアの戦い方は無理かな~。……まず、モンスターに噛みつける自信がない」
「美味しいよ?」
「美味しいの!?」
俺はプログレス・オンラインの奥深さに驚愕した。
……驚愕はしたが、味がしっかりあるというポイントはどちらかというと俺にとってマイナスポイントでしかなかったので、バーサーカーへの転向は丁重にお断りしておいた。
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