13. 兄と妹の格差よ

「たのもー!」

「おいチア、別に俺たちは道場破りに来たわけじゃないんだからな?」


 ミシャさんのお勧めのお店【ルビィ衣装店】に着いて早々、チアがフルスロットルになっている。

 これはあれだ。この店でビーザスの衣装が手に入るかもって期待感でテンションが爆上がりしてる感じだ。……つまり、俺に大いなる負担が掛かる前触れだということ。


「ルビィちゃん、久しぶり。今日はカワイイお客さんを連れて来たわよ」

「あ、リンスさん、本当に久しぶりですね! それにしても、リンスさんがお客さん連れて来たのって初めてじゃないですか?」

「私の知り合いは装備にお金を掛けてる人でも、見た目よりコスパ重視の人が多いからね。コスパ度外視で見た目を追求出来る人は少ないのよ」


 リンスさんと親し気に話すその人は、一言で言うとボーイッシュで格好良い系の女性だった。

 赤い短髪とスラっとした体形、センスの良い服を着こなし、その話し方や雰囲気からは正に『陽の者』感がバシバシ伝わって来る。


「まぁ確かに、この店もその一部のガチ勢さんのお陰で成り立ってる様な物ですからね。……と言うと、この可愛いお客さん達もコスト度外視でキメちゃって良い感じですか?」

「いやいやいや、この子達はまだガッツリ初心者さんだから! 高性能な装備作られても使いこなせないから!」


 俺たちを見る目が鋭くなり始めたルビィさんの様子に焦ったリンスさんは、慌ててルビィさんの言葉を否定した。

 プログレス・オンラインでは生産に使う素材によって、その装備を着る為に要求されるスキル値が高くなる仕様となっている。

 今俺やチアが着ている装備はガッツリ初心者装備のため要求されるスキルは無いが、高性能になってくると筋力スキルがいくら以上だとか、魔力スキルがいくら以上だとか着るのに必要な条件が出て来るのだ。


「となると低級素材で作って、その後染色なんかで加工して安っぽく見えない様にしないとですね。どちらにしても、同性能の一般装備より費用は高くなりますけど大丈夫ですか?」

「うん、そこは大丈夫。この子達はミシャさんのプロデュースで近々大々的に売り出される予定だからね。今回の衣装代もミシャさんが持ってくれる事になってるわ」

「ミシャさんが関わってるのなら、それはもう勝確ですね。なら私も気合を入れないと!」


 リンスさんの話を聞くにつれてどんどんルビィさんの纏う熱量が増していき、遂には燃え上がる炎が幻視出来る程になって来た。

 最初見た時のクールな印象が消え去っている事に、この人もチアと同じ暴走機関車なのではと若干の不安を覚える。

 どうやらルビィさんの様子に不安を覚えているのはリンスさんも同じな様で、恐る恐るルビィさんに声を掛けた。


「ルビィちゃん? 衣装代はミシャさん持ちだけど、予算無制限とかでは無いからね? 趣味に走って採算度外視なんてのも駄目だからね?」

「それで、2人はどういった衣装をお求めなのかな? あ、その前に自己紹介からだね! 私はルビィ。この衣装店の店主で、色々齧ってはいるけどメインは服飾と彫金系の生産者よ」


 残念ながらリンスさんの声は今のルビィさんには届かないようだ。

 俺は静かに『チアの同類』とルビィさんの情報を追加更新して、自己紹介に応じる事にした。


「えっと、俺はマハールです。隣りに居るちびっ子のリアル兄で、まだ全然スキルを育てていませんが一応今の所は魔法職です」

「チアだよ! 悪の女幹部で、ば、ば……バーカ?」

「バーサーカーな! バーサーカー!」


 何でこいつはよく分からん語彙力を見せたり、横文字のキャラ名は言えるのにバーサーカーだけは言えないのか。


「バーサーカーとは珍しい職業に当たったね。それで、悪の女幹部ってどういう事なのかな?」


 ルビィさんが持った当然の疑問に、俺はこれまでの経緯を簡単に説明した。


「太陽戦隊サンザリオンの悪の組織に憧れてこのゲームを始めたのね。と言う事は、2人はそれぞれマハールとビーザスの衣装にするの?」


 なんとルビィさんは太陽戦隊サンザリオンに出て来る全キャラの衣装を把握していた。

 ルビィさん曰く戦隊ものの衣装デザインはなかなかに侮りがたく、デザインの引き出しを増やしたりインスピレーションを得る為に戦隊ものは一通り網羅しているとの事だった。


「うん! ビーザスになってね、人間の味方する奴らをぎったんぎったんにして幸せな世界を作るの!」

「いや、怖ぇーよ! 兄ちゃん今、お前の情操教育の為にこのゲームと特撮番組を禁止するか本気で悩んでるぞ!?」


 ……まぁ、禁止にした所でこの小さきモンスターである妹が大人しくするとは思えないのだが。


「そっか、そっか。……う~ん。でもやっぱりチアちゃんにビーザスの衣装はちょっと似合わない気がするんだよね~」

「え、ビーザス駄目なの?」

「いや、駄目って事は無いし、作ろうと思えば作れはするんだけどね。……あの、リンスさん。チアちゃんの衣装を2着作るとかってありですか? それでも良いならビーザスの衣装と、チアちゃんの個性に合わせた衣装もデザインから作りたいと思うんですけど」

「そうね~、ちょっとミシャさんに連絡入れてみるわね。多分、ミシャさんの性格からして許可は出ると思うわ」


 リンスさんのその予想は当たり、チアはビーザスの衣装とチアに合わせたオリジナルデザインの衣装を作ってもらう事になった。


「あの、ちなみに俺はどうなるんでしょうか?」

「あぁ、マハール君? ぶっちゃけマハール君はどんな衣装でも違和感なくある程度着こなせると思うから、そのままマハールの衣装で大丈夫だと思うわ」


 チアの様に強烈な個性を持たない俺は、オールマイティーにある程度着こなせるので1着作れば大丈夫なのだそうだ。

 

 ――いや~、良かった良かった。無個性はリーズナブルで大勝利だな~。……あはは。

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