12. 妹、悪の女幹部の魅力を語る

 ギルド名を決めた俺たちは、ギルド設立の手続きをサクっと終わらせ次の目的地へと向かう事にした。

 それ即ち新衣装の確保だ。


「次に向かう所はルビィ衣装店ですか。リンスさんは此処知ってるんですか?」

「えぇ、知ってるわよ。何て言うのかしらね……所謂コスプレ系? そういったデザインの装備を専門に扱ってるお店なの。ただ、基本一点物の装備しか扱ってないから結構割高で、私はそこで買った事が無いのよね」


 どうもリンスさんが昔よく一緒にプレイしていたフレンドがそこの常連らしく、そのフレンドと一緒に何度か店には行っているので店主とも顔なじみなのだそうだ。


「にーちゃん、ビーザスの服あるかな?」

「売っては無いだろうけど、言えば作ってくれるんじゃないか? ……まぁ、どれくらいの価格になるかは知らないけど」


 ビーザスとはチアが憧れている悪の女幹部の名前で、黒のミニスカートドレスに網タイツと丈の長いロングブーツ、そしてその上から黒のマントを羽織ったセクシー系お姉さんだ。

 ……よく考えてみたら、あの恰好はチアには全く似合わない気がする。チアがあの服装になったとしても、背伸びして大人ぶってみたチンチクリンになるのが関の山だ。

 だが、チアは基本言い出したら聞かない超特急機関車。兄心としては似合う服を着て欲しい所だが、正直難しいだろう。


 ちなみに今回の衣装代はミシャさんに建て替えて貰う事になっている。

 というのも、ミシャさんは俺たち悪の組織のプロデューサー兼スポンサー的立ち位置に就任したからだ。ボスの俺を放置してチアと2人、それはもう光の速さで意気投合してそういう事になっていた。

 どうやらミシャさんは俺たちのこれから行う活動をどういう風にか収益化するつもりらしく、衣装代も含めて諸々の経費は十分に回収出来る算段があるらしい。

 そういう算段は得意だからミシャさんに丸投げしておけとバーチャさんからのアドバイスもあり、どうせゲームの中の話で現実の金銭が動くわけではないからと、有難く丸投げさせて貰う事にした。


「そういえばチアちゃんって、何で悪の組織……と言うよりビーザスか。悪の女幹部であるビーザスが好きなの?」

「んーとね。ビーザスはお母さんなの」

「えっ! チアちゃん達のお母さんって女優さんなの!?」

「いえ、ごく普通のパートのおばさんです」

「……どゆこと?」


 理解出来ないと首を傾げるリンスさんに、何が伝わっていないのか分からず同じく首を傾げるチア。

 そんな光景を見て、これは仕方がないなと俺が説明を引き継ぐ事にした。


「リンスさんは今やってる太陽戦隊サンザリオンって特撮番組って知ってますか?」

「いえ、名前ぐらいは知ってるけど、具体的な内容は全然知らないわね」

「まぁ、簡単に言っちゃうと光陣営と闇陣営の戦いなんですけど、チアが推してるビーザスは闇陣営の組織【刹月の使者】の幹部で……組織にとってお母さん的ポジションなんです」


 そう、それがこの番組内でも屈指の人気を誇る女幹部ビーザスの人気ポイント。

 実はビーザス自身の戦闘力はそれ程高くなく、主人公サイドと直接戦うシーンも凄く稀だったりする。

 では何で幹部ポジションなのかと言うと、ビーザスは影から闇の戦士を生み出す能力を持っているからだ。

 動物や植物、はたまた玩具など人工物の影からその元となった物の因子を受け継ぐ闇の戦士を生み出し、戦力を強化するのがビーザスの仕事で、毎回バラエティに富んだ戦士を生み出している。


 そしてこのビーザスは基本高飛車で傲慢な態度なのだが、自ら生み出した戦士がやられそうになると単身乗り込み助けだそうとしたり、負け続けで落ち込む戦士を慰めたり、時には相手の為に叱咤したりするのだ。

 そのギャップがビーザスの人気に火を着け、一部の視聴者からはビーザスママという愛称で呼ばれていたりする。


「ビーザスはね、強い女性なの! 強くて優しくて、みんなの事が大好きで、みんなが幸せに暮らせる世界を手に入れる為に頑張ってるの!」


 そう、それが太陽戦隊サンザリオンのメインテーマ。

 世界は光と影で構成されており、光の民は人に正の感情を与えるが、闇の民は人に負の感情を与える。これは意識的にやっているというより、そういう種族だから本人たちにはどうしようもなかったりする。

 そして人に負の感情を与える闇の民は世界の片隅に追いやられ、常に光の民の脅威に晒されていた。そこで闇の民の王であるヴァンパイアのマハールが組織を立ち上げ、光の民を倒して闇の世界を創ろうと行動を起こした。

 正義や悪の概念が視点によって大きく変わる、中々に深いテーマの子供向け特撮番組だ。


 そんな番組の概要を説明し終わると、説明を聞いていたリンスさんは腕組して「う~む」と唸っていた。

 

「最近の特撮ドラマを侮ってたわ。そんなに深いテーマのお話だったなんて。これは悪の構成員として、私も一度ちゃんと観る必要があるわね」

「うん、絶対面白いから観て!」


 チアは好きなコンテンツの布教活動に成功し、大満足といった様子だった。

 そういえばチアはこの世界で世界征服をしたいって言ってたけど、ビーザス達みたいな理由を持ってないチアは世界征服をして何をしたいんだろうか。

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