11. 兄、正式に組織を立ち上げる
「掲示板で面白い事やってるなぁって元々注目してたんだけどね。話の流れが面白くてついつい話を大きくしちゃったぜ♪」
「しちゃったぜって……。まぁ、正直他に方法も思い付かなかったですし、協力者が沢山出て来たので助かりましたけどね」
実は掌の上で動かされていたと考えると少し思う所もあるが、俯瞰して見てみれば状況は決して俺にとって悪い方向に向かっている訳では無い。
それどころか当初考えていた以上に話は大きくなってしまったが、妹を満足させるという当初の目的から見れば順調すぎる展開と言える。
「それで、さっき言ってた『これは確かに苦労する』ってどういう意味ですか?」
「う~ん、私って結構人を見る目はある方なんだよね。その私から見てもチアちゃんは一目見て強いカリスマ性と行動力、それに合わせて刹那的な思考の持ち主だって分かっちゃうのさ」
一目見てそれが分かる観察眼には驚いたが……そこから先、この人が何を言わんとするのかは察する事が出来た。
「それに対してマハール君は……言っちゃ悪いけど普通だね。まごう事無き普通なのさ。それでチアちゃんみたいな子を受け止めるのは、さぞ大変だろうなって思ってね」
「……まぁ、妹と俺じゃ物が違う事ぐらいは分かってますよ。家族の中でも妹の事で一番苦労してきてるのは俺ですからね」
チアと俺とでは物が違う。そんな事は分かっている。
本当に誰に似たのか家族の中でチアだけが異質で、誰もがチアを受け止める事に苦労しているのだ。
一般的な男子高校生として特別に対する憧れは勿論ある。……けれど、本物を身近に知る身としては、俺がその特別にはなれない事が嫌でも分かった。
しかし、そのモヤモヤはとうの昔に乗り越えている。何と言っても俺は、そんな特別な人間の兄を7年以上やっているのだから。
「おっとごめん、勘違いさせてしまったね! これは別に嫌味で言っている訳じゃないのさ。チアちゃんの様子を見れば兄妹仲が良いのは分かるし、チアちゃんがこれまで伸び伸びと過ごしてきたのも分かる。マハール君は本当に良いお兄ちゃんみたいだね♪」
ミシャさんの言葉に不意を突かれ、たじろいでしまう。
これまで両親から妹の事を任され苦労してきた経験が多い分、そこを褒められたり認められたりする言葉を投げかけられると必中クリティカルヒットしてしまうのだ。
っと、そんな俺の様子を見ながらニマニマしているミシャさんに気付き、テレを隠すように少しムッとする。
「ミシャは色んな角度から人の事を突いて反応を楽しむ変態だから、ミシャとの会話は話半分で受け流すようにしたほうが良いよ~」
「変態だなんて心外だね。私は人が大好きなだけさ♪」
「愛玩動物としてでしょ~?」
バーチャさんとミシャさんの会話を聞きながら、ミシャさんへの理解を深める。
人に対する卓越した観察眼を持ち、人を突いてその反応を楽しむ悪癖を持つ人物。確かにミシャさんとの会話は半分受け流す様にした方が良さそうだ。
そしてそれと同時に、二つ名持ちに対する理解も深まった。
バーチャさんもミシャさんも、突き抜けた個性と才能を持つ人なのだ。恐らく他の二つ名持ちもそうなのだろうと直感する。
つまり……妹と同じ側の人間だと言う事。
「さて、マハール君」
「あ、はい。何ですか?」
「イベントの詳細については私が案をまとめておくから、マハール君達には先にしてもらいたい事があるのさ!」
俺の事を指さし、ズバーンと言い放つミシャさん。
行動の1つ1つが大げさなのは、パフォーマー故なのかもしれない。
「先にしておく事ですか?」
「そう、真っ先にやるべき重要な事、それは……何をやるにもまず形からってね♪」
……
…………
………………
「ギルドの設立でございますね。では、こちらの用紙に必要情報をご記入の上、提出をお願い致します」
ミシャさんから言われた『真っ先にやるべき重要な事』とは、ギルドの設立と衣装の確保だった。
ギルドとして正式に組織を作れば、ギルド一覧に組織の名前が載る。今からイベントを計画して告知するのであれば、ギルドはすぐにでも設立しておいた方が良いとの事だ。
そう言われた俺は、幹部であるチアと、過去にフレンドとギルド設立を経験した事があるというリンスさんと共に商業組合へと来ていた。
「う~ん、ギルド名とギルド説明はどうすっかな~。……チア、ギルド名に要望はあるか?」
「え? せつげつのししゃじゃないの?」
たどたどしい口調で難しい言葉を言うチア。刹月の使者とはチアがドハマりしている特撮番組に存在する敵側組織の名前だ。
確かにそれに寄せてアバターは作っているが、完全に同じ名前の組織名にすると只のファンクラブっぽくなってしまう。
勿論それも良いのだろうが、恐らくこのギルドはボスの俺ではなく幹部のチアがムードメーカーとなっていくはずだ。であれば、もっとチアらしい組織名の方が良いのではないだろうか。
「チアが刹月の使者推しなのは分かるけど、だからと言って丸パクリもどうかと思うんだよ。チアはこのゲームの世界で何かしたい事とか目標はないのか?」
チアは腕を組みながら「う~ん」と唸りはじめ、暫くするとパッと顔を上げて笑顔で言い放つ。
「世界征服!」
「うわぁ、チアちゃんの目標はおっきいのね~」
「流石にデカ過ぎだろ。……いや、子供らしくて逆に良いのか?」
その何とも子供らしい無茶な目標に頭を抱えるも、チアの為の組織として強い印象を与える事が出来るのではと考え直す。
そして頭の中で世界征服を目論む組織の名前をいくつも作っては消し、チアらしさを表現出来る組織の名前を考え続けた。……そして閃く。
「チア、これでどうだ?」
「っ!? ばっちぐー♪」
俺がギルド申請用紙にさらさらと書いたギルド名は【せかいせいふく団】。
子供らしく、子供っぽい目標を、本気で目指すチアの為のギルドだ。
――と言うか妹よ、お前のその語彙力は本当に何処から来てんだよ……。
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