10. 兄、全ては掌の上だった模様

 クレイジークレイジーことバーチャさんから出された条件をクリアする為の方法を掲示板で相談した翌日、その方策の大枠としての案が出来たので、現組織メンバーである4人で集まり報告会を行っていた。


「うん、確かにそれならバーチャさんの要望は叶えられそうだね! でも大丈夫? 凄く大掛かりになるし、根回しとかも大変そうだけど」

「そこは手伝ってくれる人が居るんで何とかなりそうです」


 昨日、掲示板で相談した結果、ある1つのアイデアに固まった。それは『興行の街全体を対象にしたイベントを実行する』という物。

 このゲームには複数の街が存在し、その街が有する機能によって街の名前が付けられている。

 そして今回イベントを起こすターゲットとなる『興行の街』とは、コロシアムやカジノ、劇場やパフォーマーの集まる広場などがあり、日々様々なプレイヤー主催のイベントが行われている正にイベントの為の街なのだ。

 この興業の街で大規模イベントを執り行い、そのイベントの一環としてバーチャさん特製アイテムをどっかんどっかん使っちゃおうっていう計画だ。


 ちなみに、全てのプレイヤーが初回ログイン時に訪れる街は、冒険者組合や商業組合、あとはプレイヤーが運営している店舗や露店なんかが立ち並ぶ『商業の街』となっている。


「へぇ~、マハール君凄いわね。このゲームを始めてまだ三日でしょ? それでそんな人脈築くなんて中々よ」

「……まぁ正直、運とタイミングが良かっただけだったりしますね」


 これは謙遜でもなんでもなく、事実そうだったりする。

 今回掲示板で相談するにあたり、何とアイデアを出すだけでなく手伝いを申し出てくれる人まで出て来た。イベント日に会場を押さえてくれる人、周知してくれる人、そして何とそのイベントの為に特設ホームページまで製作してくれる人まで現れる事態に。

 無駄にバイタリティと技術力の高い者達が何故かたむろする、掲示板とはそんな不思議な場所なのだ。


 けれどそんな掲示板も、必ずしも一致団結して協力してくれる訳ではない。と言うより基本的に烏合の衆のため、煽り、レスバ、明後日の方向に全力疾走していくのが常であり、彼らは常に面白い方向を追い求めて動く。

 そして極偶に、運や流れ、タイミングによってはその烏合の衆が向く力の方向性が奇跡的に最高の形でハマる時がある。それが今回だ。

 まぁ、その奇跡が起きた要因の8割は、7歳の妹が幹部をやっている組織だったからと言って間違いないだろう。


「ただ、まだイベントの詳細が決まってないんですよね。街全体を巻き込む大規模イベントなんで、絶対条件としてそれ相応の面白い企画にしないといけないですし……」

「私の知り合いにそういうのを考えるのが凄く得意な人がいるよ~?」


 自分が出した条件についての話だというのに全く興味が無いのか、妹と変な形のジェンガで遊んでいたバーチャさん。そんなバーチャさんが突然グルンっと振り向いて話しかけて来た。

 ……と言うか妹よ、お前が丸投げしてきた案件なんだから、お前もちょっとは興味持て。


「えっと、その方ってどういう方なんですか?」

「う~んとね~。サプライズボックスって二つ名持ちで~……。快楽主義者で、変人で、ちょっと性格が悪くて、私の一番のお得意様な人?」


 ここに来て更に変人が追加されるのか。と、一瞬及び腰になってしまったが、パフォーマーとして有名な二つ名持ちであるサプライズボックスが監修という広告効果は計り知れない。

 これは絶対に逃してはいけないビックウェーブだと気合を入れ、バーチャさんにサプライズボックスを紹介してくれるよう頼んだ。


 ……


 …………


 ………………


「やっほ~♪ 呼ばれて飛び出てサプライズボックスたんが来たお♪」


 バーチャさんがサプライズボックスに連絡を入れてから30分後、バーチャさんのお店にやたらテンションの高い女性が入って来た。

 その見た目は小麦色の短髪に猫耳が付いており、頭には黒のシルクハット。両手には様々な指輪が着けられており、服は男性用のマジシャンのような服装だった。


「ミシャ、どうしたん? 今日はいつも以上にウザいテンションしてるね」

「こらこらウザいとか言わない! まぁ、実はプログレス・オンラインで悪の組織を作ろうとしてる兄妹の事は事前に知ってたからね。その2人が起こす大規模イベントに関われる事にテンションが上がっちゃってるのさ♪」


 何とサプライズボックスは、前から俺たちの事を知っていたらしい。


「じゃあまず自己紹介からね。私はサプライズボックスことミシャって名前の凄腕パフォーマーさ♪」

「あ、はい。えっと、俺は一応ボスって事になってるマハールです」

「悪の女幹部のチアだよ!」

「マッドサイエンティストのバーチャだよ~」

「え、これって全員役職込みで自己紹介する流れ? ……えっと、怪人のリンスです」


 現在の構成員全員が自己紹介をしていく。

 ちなみに、リンスさんはノって来るとノリの良いお姉さんなのだが、ノリ出すまでに少し時間が必要で、そのため役職付きの自己紹介が少し恥ずかしかったようだ。


「バーチャが悪のマッドサイエンティスト枠なのは、もはや天職だね♪ と言うかリンスちゃんがこの子達と行動してるとは意外だったよ!」

「えぇ、まぁ。あの……ミシャさん、この事は」

「おっけー、おっけー。もち、分かってるさ♪ と言うか私も最近会えて無いんだよねぇ。ロコっち最近お家に引き籠り中だから」

「……そうらしいですね」


 どうやらミシャさんとリンスさんは元々知り合いだったようだ。

 と言うか2人の間に何だか不穏な空気が漂っており、何か事情がありそうな雰囲気だった。


「さ、て、と。自己紹介も終えた所で……そう、君が悪の幼女幹部のチアちゃんか~。……これは、なかなか」

「悪の女幹部のチアだよ!」

「ごめんごめん、つい愛称で呼んじゃった♪ けど、これは確かにマハール君も苦労する訳だね~」

「俺ですか? 苦労するって……あ、もしかして掲示板見てました?」

「そそ。と言うか、興行の街で大規模イベントやろうぜって誘導したのは何を隠そう私だからね♪」


 何やら今、サラっととんでもない情報が流れて来た。

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