5. 妹とリンスさんの危険な類似点

「よし、必要な分のアイテムが揃ったわね。後はこれを冒険者組合に持って行けば初心者クエストのコンプリートよ♪」

「はぁ~、やっと一段落ですね。チアが度々暴れまわる所為で余計に疲れました……。リンスさんにも結構迷惑を掛けてしまって申し訳ないです」

「ううん、全然全然。チアちゃん可愛いから、私も楽しかったわ」


 正に可愛いは正義だな。……俺もイケメンに生まれたかった。


「ねぇ、リンスおねーちゃんとモカさんは戦わないの?」


 俺が顔面偏差値の格差について思い巡らせていると、チアがそんな事を言い出した。


「私? 戦っても良いけど、モカさんのレベルは94だから此処のモンスターだとちょっと小突いただけで倒しちゃうのよね~。……それでも大丈夫?」

「うん、モカさんの戦ってる所見たい!」

「おっけ、であらばモカさんのカッコカワイイ所を見せねばなりませぬな!」


 短い付き合いではあるけれど、リンスさんがどういう人なのか大体分かって来た。

 とどのつまりはこの人、凄くノリの良い人なのだ。……ノリでとんでもない事を何時も仕出かすチアと、変なシナジーを生み出さないよう祈るばかりだ。


 2人の間にある類似点に危機感を覚えつつ、俺たちはまたモンスターを捜し歩いた。

 ちなみに先ほど俺たちが居た場所では流石にモンスターが弱すぎて、本当にちょっと払っただけで倒してしまうという事で少し森の深い場所を探索している。


「お、居た居た。あれはここら辺のエリアボスで、クレイトレントって名前のモンスターなの。レベルは35程度だからモカさんの敵じゃないけど、流石に攻撃を払ったぐらいじゃ死なないから丁度良い敵ね」


 それは全長5メートル程の顔の付いた木だった。

 リンスさんの言うには、蔓の鞭と土で作った手下を使って攻撃してくるモンスターらしい。


「にーちゃん、大きいね!」

「だな。……テレビゲームならまだしも、フルダイブゲームだとちょっとビビるな」

「すぐ慣れるわよ。私も最初はモンスターが怖くて戦闘が苦手だったんだけど、仲間とパーティーを組んで色んな戦闘を繰り返してたら、少しずつ怖くなくなっていったから」

 

 そういうとリンスさんは、何の気兼ねもなく散歩でもする様にモカさんと2人でクレイトレントの元へと歩いていった。


「さて、どうしようか。……折角だから初手切り札で最大火力いっちゃいましょうか!」

「くまぁ!」

「フォーシス エンハンスメント! マーベルカウント!」


 リンスさんが何かの技能を発動すると、モカさんの頭上に大きな懐中時計が出現した。

 これは後で聞いた話なのだが、モカさんはカウントベアーという種族のペットで、その技構成は種族名の通りカウントを刻む事による強化技がメインらしい。

 

 攻撃する毎にカウントを1つずつ増やしていき、5回目の攻撃が必ずクリティカル攻撃になる【カウントナックル】。

 5分毎に筋力ステータスを1段階上げ、最大10段階の強化が出来る【カウントアップ】。

 チャージした時間(最大60秒)に比例した分だけ、次の1撃にダメージ上昇補正を付与する【カウントバスター】。

 チャージした時間(最大100秒)に比例した分だけ、筋力ステータスに上昇補正を付与する【オーバーカウント】。


 そしてマーベルカウントとは8時間に1回しか使えない正にモカさんの切り札となる特殊技で、30秒のカウントを刻む事によってモカさんの持つ全てのカウント技を最大状態で発動する技なのだ。

 ただし、カウントを刻んでいる間は動く事が出来ず、その間はリンスさんがモカさんを守り抜く必要がある。


「セレスティアルシャワー! リフレクト!」


 クレイトレント周辺の地中から土で出来たトレントの子供のようなモンスターが這い上がってくると、リンスさんは空かさず光の矢の雨を降らせた。

 俺が初戦で放ったマジックアローとは雲泥の差であるそれは、次々に這い上がって来る土トレントを尽く葬り去っていく。その間にもクレイトレントから鞭攻撃が飛んでくるが、それすら慌てる事なく光の壁で防いでしまい、敵は為す術無しの状態だ。

 そんな攻防が続き、遂にモカさんのカウントが完了する。


「さぁ、モカさん。思いっきりやっちゃって! カウントナックル!」


 カウントが終わり懐中時計が消え、モカさんの体が輝き出す。そしてリンスさんの指示を受けると、クレイトレントの元へと駆け抜けた。

 

「くんっまぁああ!」


 クレイトレントの元へと飛び込んだモカさんから繰り出された拳、それはクレイトレントに突き刺さると、轟音と共に”フィールドごと”敵を薙ぎ払う。


「……」

「……」

「……やっちゃったぜ(てへぺろ)」


 モカさんの強烈な一撃を受けたクレイトレントはその巨体が嘘の様に遥か後方へと吹き飛び、フィールドに生えている木々を巻き添えに消滅して行った。

 後に残ったのは草木一本も生えていない爆心地と、木々がなぎ倒されて一本の道の様になってしまっている森だけだ。


 ……これ、時間経過で直るんだよね?

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