6. 妹は構成員をご所望です
森の中に流れる沈黙。そんな居た堪れない空気をぶち破ったのは……興奮したチアだった。
「リンスおねーちゃんも、モカさんも凄い!! 空からピカピカがファーってなってモカさんがドカンってなったよ、にーちゃん!!」
「それだとモカさんが爆発したみたいになってるぞ?」
兄の冷静なツッコミを無視して尚も身振り手振りで先ほど見た光景を実況し続けるチアの様子に、先ほどまで居心地悪そうにしていたリンスさんの顔色がどんどん良くなっていった。
「チアちゃんは本当に良い子ね♪ ……よし、出血大サービスだ! 今からもっと強いモンスターが居る所に行って、モカさんの本領をお見せしましょう!」
チアのテンションに乗せられ、遂にリンスさんのテンションまで上がり始めた。
――ヤバい、やっぱりこの2人の相性は凶悪に良くて悪い! 早く引き離さないと!
暴れ牛が2人に増える悪夢に震え、これ以上深みにハマる前にとすぐに行動を起こす。
「あ、すみません。気持ちは嬉しいんですが、実は俺たちもうログアウトしないといけない時間なので……」
「そうなの? じゃあ、モカさんの更なる真価を見せるのはまた今度という事で、今日はフレンド交換だけしましょうか」
フレンド交換。それはプレイヤー同士の連絡先交換の事で、プログレス・オンラインには登録したフレンドに対してメールを送ったり電話したりする機能が備わっている。
そしてこれまでの経緯からして、ここでリンスさんからのフレンド交換を拒否するのはあまりに不自然過ぎる。だが、フレンド交換して今後もチアとリンスさんを一緒に居させると、いったいどんな化学反応が起きてどんな大爆発を起こすか分からない。
俺がどうやってこの場を切り抜けるかを考えていると、チアが更なる爆弾を投下した。
「お願い、リンスおねーちゃん。チアの部下になって!」
――部下!? 部下ってどういう……いや、意味は分かるけど分かりたくない!
「フレンドじゃなくて部下になるの?」
「うん。チアね、怪人とまっどさでぃすとの部下が欲しいの!」
「マッドサイエンティストな。マッドなサディストとはお近づきになりたくない。……いや、怪人とマッドサイエンティストともお近づきになりたくないけれども」
俺は半ば諦めたような溜め息を吐きつつツッコミを入れる。
「マハール君、ちょっと解説をお願いしても良いかな?」
「えっと、実は俺たち……」
俺はリンスさんにこのゲームを始めた経緯を説明した。
リンスさんはふむふむと相槌を打ちつつ好奇心が刺激されている様子をありありと見せている。
「ほほぅ、悪の秘密結社ですか……そうですか。……良いな~! 私もマハール君みたいな面倒見の良いお兄ちゃんが欲しい!」
突然そんな事を言い出したリンスさん。
どうやらリンスさんには歳の離れた兄が居るらしいのだが、その兄は昔からあまりかまってくれる様な人ではなく、就職が決まると早々に一人暮らしを始めたそうだ。
「妹の夢を叶える為、奮闘するマハール君の姿に私は胸を打たれたよ! 私ことリンス、悪の怪人になりましょう!」
「やったー♪ にーちゃん、怪人の部下が出来たよ!」
「そうだなぁ~。怪人の部下が出来ちゃったなぁ……」
どうしてこうなったのか。
事態はチアの望む方向へ、そして俺が苦労する方向へと転がっていく……。
その後、この場はフレンド交換だけしてお開きとなり、今後の活動方針などはまた後日話し合う事となった。
「にーちゃん、次はマッドサイエンティストを探そう!」
「そうだな、マッドサイエンティスト見つかると良いな。森を探索してたらその内現れるかもしれないから、一先ず冒険者組合のクエストを熟しつつ、装備を整えて行こうか」
「駄目だよ、にーちゃん! 欲しい物がある時は積極的に動いて行かないと!」
「お前はいったいどんな人生を歩んで来たんだよ……」
どこで仕入れて来たのか分からない言葉に説得されつつ、これは気を逸らせる事は無理だなと諦め、千亜のマッドサイエンティスト探しに付き合う事にした。
「で、探すって言っても具体的にどうするんだ? マッドサイエンティストを知りませんかって聞いて回るつもりか?」
「にーちゃんがマッドサイエンティスト探してきて。そんで、チアが仲間にする!」
「はぁ? 俺1人に探させる気かよ」
「だって、リンスおねーちゃんはチアが仲間にしたもん。完璧な作戦!」
意見を曲げる気は無さそうなその様子に、俺は今日何度目か分からない溜め息を吐く。そしてこれからの行動を建設的に考える。
正直、マッドサイエンティストは見つからないなら見つからないで問題無いのだ。だが、探しもしていないとチアから何を言われるか分からない。
――さて、どうしたもんか。……ここは一つ、頼りなくも頼れるあいつらの力を借りるとするか。
その日の夜、俺は『掲示板の住民』の力を借りる事にした。
プログレス・オンラインの掲示板は初めてだけど、恐らく雰囲気はどこも変わらないだろう。
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