2. 魔性の妹
「おじーちゃん、プログレス・オンライン買って! 千亜、悪の女幹部になりたいの!」
「そうか、そうか。千亜は悪の女幹部になりたいのか。だが、悪の道は高く険しいぞ?」
「大丈夫。千亜、頑張れる!」
「うむうむ、流石儂の孫娘。それじゃあ普段からしっかりと勉強して、好き嫌いせずに何でも食べないとだな」
父さんの指示の元、祖父への刺客として魔性の妹を送り込み、その結果は中々に好感触であった。
ちなみに言うまでもないが祖父は別に悪の道に何の関わりもない。祖父はずっと大工一筋だ。
……そして爺様よ、その下りは既に俺がやっている。
「さて、儂は少しばかり優斗と話す事があるんで、千亜は席を外してくれんか?」
「千亜が居ちゃ駄目なの? ……あっ、エッチな話! えりちゃんがね、男の子がこっそりお話する時はエッチなお話をしてる時だって言ってた!」
「おお、えりちゃんという子は中々の博識。……いや、最近の子はそのぐらいが普通なのか?」
その感性がスタンダードな7歳児を俺は見たくない。
千亜は俺をニマニマした笑みを浮かべて見つめ、「にーちゃんのエッチ~♪」と叫びながら走り去って行った。
俺は別にエッチじゃ……いや、そこに間違いは無いか。
「さて、優斗。……犯人は和彦だな?」
「はい、此度の企ては我が父、和彦めの策略にございます」
父さんを庇う気が最初からなかった俺は、すぐに白状した。
「はぁ~。あいつ自身は筋金入りのケチの癖に、儂には遠慮なくたかるのは昔からだからな。……あいつを甘やかし過ぎた儂にも責任の一端があるんだろう」
――これは、結構厳しい感じか?
「あぁ、心配しなくてもそのゲーム機は買ってやる。ただ、和彦には後で一言物申しておかねばな」
「爺ちゃん、ありがとう。父さんにはガッツリ言ってあげて」
父さんのたかり癖は筋金入りで、千亜が小学校に入学する時などランドセル代すらも爺ちゃんに払わせていたぐらいだ。
母さんは流石に甘え過ぎだと止めていたが、母さんや俺が知らない間に千亜を刺客として爺ちゃんに差し向けていた。
何はともあれ、これでプログレス・オンラインが出来る様になった。
爺ちゃんには俺が社会人になってから少しずつ恩返ししていくとして、今はプログレス・オンラインで千亜をどう満喫させるかを考えよう。
◆
魔性の妹が猛威を振るい、爺ちゃんへのおねだり大作戦を決行してから数日が経った。
そして今日、遂にプログレス・オンラインをプレイする為の機材が届いた……爺ちゃん、本当にありがとう。
俺は喜びで跳ねまわる千亜を大人しくさせつつ、機材を設置していく。事前にネットで設置手順を下調べしていたので、準備は万全だ。
小一時間程掛けて2人分の機材を設置し、2人でヘルメット型デバイスを被って初期設定を済ませる。
「よし、初期設定も問題無く出来たな」
「にーちゃん、これでもう悪の女幹部になれるの?」
「悪の道に進むのはもう少し先かな。まずはログインしてチュートリアルを済ませて、プログレス・オンラインの世界に慣れて行こう」
「うん、わかった!」
返事が良くて大変結構。
準備が出来た所で2人でログインし、キャラメイクを開始した。
……
…………
………………
「お疲れ様です。今現在、貴方に一番適性のある職業は『ウィザード』です。その為、関連スキルである黒魔法スキルを+10にして、黒魔法スキルの初期魔法『マジックアロー』をお贈り致します」
キャラメイク後に行われた簡単な質疑応答の結果、俺の適性が魔法使いである事が判明した。
このゲームではキャラクターにレベルという物がなく、数多くあるスキルの熟練度を上げる事によってステータスを上げたり、使える技が増えたりしていく完全スキル制ゲームとなっている。
そして俺は今しがた適性検査ボーナスで黒魔法スキルの熟練度が+10された感じだ。
まぁ、あくまで現時点での適性ではあるので、必ずしもその道に進まないといけないという事もない。
色々試しながら自分のプレイスタイルを決めていくというのが、自由度の高いこのゲームの楽しみ方なのだ。
ちなみに俺のこの世界での見た目は白髪色白の少年となっている。
何でこの見た目なのかと言うと、千亜がハマっている特撮に出て来る敵のボスが吸血鬼だからだ。
千亜が女幹部を目指すにあたって、俺はボスになる事を千亜から命じられているのである。……妹を悪の女幹部にする為に組織を作らされるボスっていったい。
適性検査の後は、ナビゲーターさんの指示に従って簡単な動作のチュートリアルを行い、最後にこのキャラの名前を決めるステップになった。
――う~ん、どうしようか。そういえば、見た目だけじゃなくて名前も寄せるのか話し合ってなかったな。……まぁ、千亜の事だから多分名前も同じにするだろう。
「えっと、名前はマハールでお願いします」
こうして、俺ことマハールはプログレス・オンラインデビューを果たしたのである。
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