妹が悪の幼女幹部になった件
七瀬 莉々子
1章:妹が悪の女幹部になりました
1. 妹の面倒を押し付けられる兄の構図
「にーちゃん! 千亜、悪の女幹部になる!」
それは、ある日曜の朝の出来事だった。
妹である千亜が絶賛ドハマリ中の特撮ヒーロー番組を見ている時の事、ヒーロー達を苦しめる悪の女幹部を指さしながら、妹は実の兄に向って悪の道に落ちると宣言してのけたのだ。
7歳にして悪の道に魅入られるとは、何と末恐ろしき我が妹か。
「そうか、千亜は悪の女幹部になるのか。それじゃあ普段からしっかりと勉強して、好き嫌いせずに何でも食べないとだな」
「うん、分かった!」
こうして世界の平和は守られた。……数時間だけ。
千亜は持ち前の行動力を大爆発させて両親を困り果てさせ、そして両親はその対処を俺に押し付けて来たのだ。
「いや、ごっこ遊びに付き合えって簡単に言うけど、千亜の奴のハマり具合を見ればちょっと遊びに付き合うぐらいで収まらないって分かるだろ?」
「それはまぁ、そうなんだが……。お前も昔は特撮好きだったじゃないか。何か千亜を満足させられる方法とか思いつかないか? 最悪、気を逸らせられれば良いんだ」
「気を逸らせるって言っても、千亜の奴完全にスイッチ入っちゃってるし……。あそこまで行くと暫く暴れ続けるよ」
我が妹は悪の道に落ちる前に、既に怪獣と化しているのだ。
普段はそれなりに聞き分けが良い妹なのに興味が天元突破するとガラリと豹変し、可愛い妹が行動力の権化とも言うべき狂乱のモンスターへと成り果てる。
そうなった妹は、とことん暴れまわって満足するまで止まらない。
――つまり、とことん暴れまわれる場が必要って事だよな……。
思考の方向性を定めた時、俺はある妙案を思い付いた。
「……1つ妙案を思い付いたよ」
「お、何か思いついたか!」
「どこまでもリアルな体験が出来、広い世界で暴れまわれるゲーム。そこで思う存分、悪の女幹部でもなんでもやってもらえば満足すると思う」
「なっ!? それは前に却下しただろう! あのゲームをプレイする為のハードが一体いくらすると思ってるんだ!」
そう、俺は以前そのゲームが欲しいとねだって玉砕している。
そのゲームの名はプログレス・オンライン。今存在しているフルダイブ型ゲームの中で最もハイクオリティで、変態的なまでにリアルさを追求したMMORPGだ。
あまりにリアルに基づいた仕様の為、戦闘や生産などの仕様が面倒臭く、一部ではガチ勢オンラインと呼ばれているゲーム。だが、その自由度は本当にとんでもないレベルで、出来ない事を探す方が難しいのではないかと言われている程だった。
「けど、今の千亜はちょっとやそっとじゃ収まらないよ。下手したら自分達が見ていない所で危ない事を仕出すかもしれない。……また空を飛んで怪我されるよりよっぽど良いでしょ?」
一年以上経った今でも笑い話に昇華出来ていない千亜のエピソード『魔女っ子フライアウェイ事件』。
千亜には魔女っ子映画に触発されて、家の中を箒に跨って走り回っていた時期があった。そこまではまだ可愛げがあって良かったのだが、ある日、本当に箒で空を飛ぼうと考えた千亜はそのアホみたいな行動力をフルスロットルにし……階段の上から飛び降りた。
勿論、人が箒で飛べる訳もなく、千亜はその後複数個所の打撲と顎下を5針縫う事になったのである。
その忌まわしき事例を引き合いに出し、父さんと交渉する。
父さんが言うように、プログレス・オンラインのハードはかなり高価な為、それを2人分買ってくれる確率は低いだろう。
けれど、運が良ければ俺も念願のプログレス・オンラインデビューを果たせるのだ。であれば、ギリギリまで交渉に挑む所存である。
「う~ん。分かった」
父さんを説得する材料を探していた所、意外にもすんなり許可がおりた。
何時もケチな父さんだったが、見直さざるを得ない。父さんの株が歴史的大高騰だ。
「お爺ちゃんにお願いしてみなさい」
そして一瞬で大暴落した。
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