自宅

「鞄の中」

「鞄は奇妙な存在だと思わないかね。それは常に人の目に触れるものなのに、大抵が秘匿性を帯びたプライベートな空間だ。中になにが入っているかは持ち主のみぞ知る。誰もが特別な事情がない限りは不可侵が約束された秘密を持ち歩いている」

「何を入れるも、何を取り出すも持ち主の一存で決まるのだ」

「中に入れられた物は持ち主の目的と意図に沿って選出される。物同士はおそらく、どうしてアレとコレが同じ空間に収めれているのかなど知る由もあるまい」

「ただ、必要なものだけがある」

「ところで、その未開栓のラムネは誰に持たされたお土産だい?」

「なにも取り上げようなんて思っていないさ、そう警戒しないでくれたまえ。ふふ、そうか、そうか。きみ、さっきご婦人の荷物持ちを買って出ていたのは、そういうことか。え? 一緒にいなくともそれくらいわかるさ」

「こんなに狭い土地だもの」

「口が大きく開く鞄のように、一望できてしまうのさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る