第2話 ここは遥か未来

 天空流転都市=セフィロトの中の一つ。マルクト。20億人が今も暮らす天空都市の名である。

 ここは天空都市群の中の北端に存在し、黄昏の刻しか許されていない。天空都市群の中でも序列が低いのに加えて、北端部には自然があるために、他の天空都市に「田舎」などと揶揄されることもある。

 しかしながら、発展途上というわけではない。まず、古代のように人同士で戦争などという野蛮なことは起こり得ない。理由が存在しないというべきか。何故なら、生きるための全てが存在しているためである。

 それら全てアニマニウムという万能物質に依るものだ。演算能力・生成能力・結合能力……ただ挙げるだけでも無数に存在する。

 簡単に言えば、問題が起これば解決すればいい。衣食住が欲しいのならば衣食住を。快感が欲しいのならそのようなホルモンを。異性が欲しいのならお互いに一番相性のいい人間を。これらを最も簡単に行うことができる。

 そんな夢のような物質を、都市民全員が黒色のチョーカーとして、首に巻き付けている。古代でいうスマホの完全上位互換と言えるだろう。視界内に画面が存在するようなものだ。

 それに加え人間はついに魂の実在を確かめた。人間を人間たらしめているもの――魂。それを鍵状に格納して、仮の肉体であるを使用することによって、死からほぼ永遠に逃れることができるようになった。これをと呼称する。これは七歳の誕生日に施術される。また、肉体の損傷時に破片から直方体の立方体――を形成し、魂の鍵を守る。

 そも人間とは、肉体・精神・魂の三要素にて構成される。この中の肉体はホムンクルスとして完全に再現することができる。精神は魂のあり方に大きく作用するために再現は不可能だが、魂に引っ張られて自然と再現されるのだ。

 故に魂がなくならない限り、人間は死ぬことは無くなった。老いはするが、それは魂の単位である。魂はそう簡単に消滅しないために、完全ではないが人間は不老不死を手に入れたと言っても過言ではなかった。

 ちなみに生きるのに飽きたのなら、魂の鍵を凍結することによって擬似的な死を経験することができる。そのような不幸も存在しない。

 そう、人間はやっとのことで理想郷を手に入れたのだ。

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